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第三章「私の相棒」
「03-002」
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仮にも国家公務員。その面では心配していなかったが、こうして現職の警察官に念を押されると安心感はある。ただ、今までの話を聞いて一つの疑問が浮かんだ明日香は「あの……」と授業よろしく右手を挙げた。
「はい、姫宮くん」
教師の真似事をしている鏑木は、その容姿と白衣から物理の先生みたいに思えた。もし先生になっていたら、物腰も柔らかいし教えるのも上手いしで人気が出てただろうな、なんてことを思いつつ「えっと……そんな危険な物が体に埋め込まれてるのなら、取っちゃうのは無理なんですか?」と素直な疑問を吐露した。
このシードによる暴走がいつ始まるかがわからないという状況は、誇張なしに爆弾を脳に抱えているようなもの。日本に住む一億人が対象になっている以上、それを取り除いて憂いなく正規品を再度販売すれば安全だし問題ないだろうという単純な考えだが、その問いかけに「それは……難しいね」と鏑木は頭を垂れた。
「難しい、ですか? 埋め込めたんだから取り出すことだって――」
「あ、いや、技術的には勿論可能さ。ただ、うーん……あ、ちょうどいいや。姫宮くん、これ見てくれないかな」
そう言うと、鏑木は耳にかけていた鉛筆を取り出し、中心部分をポキッと折った。えっ、と驚く間に、空中に光が差し込んでくる。反射的に瞑ったまぶたの奥から眩しさが収まったことを確認し、目を見開くと、映像が映し出されていた。そこまでされてようやく耳に欠けていた鉛筆がホログラムを映し出す機械であると認識した明日香は「グラフ……?」と呟いた。
映し出されていたのは、棒グラフだ。数学や科学の授業ではよく見た、見覚えのある形。昨日まで高校生であり、身近な存在だったはずなのに、懐かしさを覚えている自分に苦笑いをしていると、「これは、一般人千人を対象に採ったアンケート」と鏑木はグラフをもちいて授業さながらの説明を始めた。
「〝休日をどうやって過ごしているか〟……?」
「今のニーズを調べるためにバラエティ番組が調べたアンケートなんだけど、興味深くてね。……どこか引っかかるところはあるかな」
鏑木に促されるまま、明日香はランキングに視線を向けた。空中に浮かぶ映像では、一位から十位までが記されており、それ以下はその他に分類されている。
一位は動画鑑賞。二位はゲーム。三位がインターネット、四位が読書とインドアな物が続くが、五位がスポーツなどの体を動かすこと、とあり、これ以降は潮目が変わって、ドライブやショッピング、外食など、外に出て体を動かすなどと言ったアウトドアな結果が並んでくれた。
まず率直に感じたのは、特に何の問題もない順位だということだった。強いて言うならインドアな時間の使い方が多いかなと思うくらいだが、自分が休日や時間に余裕があるときは上位三つをひたすらループしているし文句を言える筋合いはなく、鏑木の言う引っかかるところは見つからない。
大人しく「……わかりません」と白旗を上げると「もちっと、視点を変えて考えてみ」と大翔が横やりを入れてきた。
彼が先輩だと言うことはわかっているが、同い年という認識があるせいで一々彼の言葉がちくちくと心を騒がせる。
「視点を変えて、って……わからないんだけど」と口を尖らせて反発するのが精一杯だったが「なんでも人に頼ってちゃ、これからこの仕事やっていくのは難しいぜ?」と大翔は表情を変えることなく言った。
「頼ってるわけじゃ……」
「すぐ答えに頼ってるだろ? それを止めろって言ってんの。そこまで難しくねーし、答えだしてみな。自分でよく考えてな」
そう語る大翔は、どこか真剣さを孕んでいるように感じられた。
自分で考えて行動する――大翔に促されるようにして頭の中で反復させた言葉が、明日香の心に突き刺さった。
学生時代では、言われたことをやっていればそれで良かった。テストがあるから勉強しろと言われ、その通りにしたり、授業を真面目に受けろと言われればその通りにしてきた。それで怒られることもなかったし、それらのことを滞りなくクリアできれば個人としての評価が上がる。
しかし、これは学生の……子供の理屈。社会人になったからには、自分で考えて行動して責任を持たなければならない。そうして一人の人間として成熟することで、子供の手本となる。そうして、世界が回っていく――これは、自分がその世界を回す大人になるための第一歩、社会という歯車になるための第一歩だ、と踏ん切りをつけ、明日香は再びランキングに目をやった。
――視点を、変える……。
今、考えていたのは〝何をして〟過ごしているか、だった。そこまで大きな間違いではないだろうが、アンケートの内容にあまりにも引っ張られている考え方だし、だから答えまでたどり着けなかったのだろう。
別の視点から、ということは、この何をしての部分を変える必要がある。
「あっ……」
思案の末、明日香は答えにたどり着いた。
何をして、ではない。
どうやって、休日を過ごしているか、だ。
「はい、姫宮くん」
教師の真似事をしている鏑木は、その容姿と白衣から物理の先生みたいに思えた。もし先生になっていたら、物腰も柔らかいし教えるのも上手いしで人気が出てただろうな、なんてことを思いつつ「えっと……そんな危険な物が体に埋め込まれてるのなら、取っちゃうのは無理なんですか?」と素直な疑問を吐露した。
このシードによる暴走がいつ始まるかがわからないという状況は、誇張なしに爆弾を脳に抱えているようなもの。日本に住む一億人が対象になっている以上、それを取り除いて憂いなく正規品を再度販売すれば安全だし問題ないだろうという単純な考えだが、その問いかけに「それは……難しいね」と鏑木は頭を垂れた。
「難しい、ですか? 埋め込めたんだから取り出すことだって――」
「あ、いや、技術的には勿論可能さ。ただ、うーん……あ、ちょうどいいや。姫宮くん、これ見てくれないかな」
そう言うと、鏑木は耳にかけていた鉛筆を取り出し、中心部分をポキッと折った。えっ、と驚く間に、空中に光が差し込んでくる。反射的に瞑ったまぶたの奥から眩しさが収まったことを確認し、目を見開くと、映像が映し出されていた。そこまでされてようやく耳に欠けていた鉛筆がホログラムを映し出す機械であると認識した明日香は「グラフ……?」と呟いた。
映し出されていたのは、棒グラフだ。数学や科学の授業ではよく見た、見覚えのある形。昨日まで高校生であり、身近な存在だったはずなのに、懐かしさを覚えている自分に苦笑いをしていると、「これは、一般人千人を対象に採ったアンケート」と鏑木はグラフをもちいて授業さながらの説明を始めた。
「〝休日をどうやって過ごしているか〟……?」
「今のニーズを調べるためにバラエティ番組が調べたアンケートなんだけど、興味深くてね。……どこか引っかかるところはあるかな」
鏑木に促されるまま、明日香はランキングに視線を向けた。空中に浮かぶ映像では、一位から十位までが記されており、それ以下はその他に分類されている。
一位は動画鑑賞。二位はゲーム。三位がインターネット、四位が読書とインドアな物が続くが、五位がスポーツなどの体を動かすこと、とあり、これ以降は潮目が変わって、ドライブやショッピング、外食など、外に出て体を動かすなどと言ったアウトドアな結果が並んでくれた。
まず率直に感じたのは、特に何の問題もない順位だということだった。強いて言うならインドアな時間の使い方が多いかなと思うくらいだが、自分が休日や時間に余裕があるときは上位三つをひたすらループしているし文句を言える筋合いはなく、鏑木の言う引っかかるところは見つからない。
大人しく「……わかりません」と白旗を上げると「もちっと、視点を変えて考えてみ」と大翔が横やりを入れてきた。
彼が先輩だと言うことはわかっているが、同い年という認識があるせいで一々彼の言葉がちくちくと心を騒がせる。
「視点を変えて、って……わからないんだけど」と口を尖らせて反発するのが精一杯だったが「なんでも人に頼ってちゃ、これからこの仕事やっていくのは難しいぜ?」と大翔は表情を変えることなく言った。
「頼ってるわけじゃ……」
「すぐ答えに頼ってるだろ? それを止めろって言ってんの。そこまで難しくねーし、答えだしてみな。自分でよく考えてな」
そう語る大翔は、どこか真剣さを孕んでいるように感じられた。
自分で考えて行動する――大翔に促されるようにして頭の中で反復させた言葉が、明日香の心に突き刺さった。
学生時代では、言われたことをやっていればそれで良かった。テストがあるから勉強しろと言われ、その通りにしたり、授業を真面目に受けろと言われればその通りにしてきた。それで怒られることもなかったし、それらのことを滞りなくクリアできれば個人としての評価が上がる。
しかし、これは学生の……子供の理屈。社会人になったからには、自分で考えて行動して責任を持たなければならない。そうして一人の人間として成熟することで、子供の手本となる。そうして、世界が回っていく――これは、自分がその世界を回す大人になるための第一歩、社会という歯車になるための第一歩だ、と踏ん切りをつけ、明日香は再びランキングに目をやった。
――視点を、変える……。
今、考えていたのは〝何をして〟過ごしているか、だった。そこまで大きな間違いではないだろうが、アンケートの内容にあまりにも引っ張られている考え方だし、だから答えまでたどり着けなかったのだろう。
別の視点から、ということは、この何をしての部分を変える必要がある。
「あっ……」
思案の末、明日香は答えにたどり着いた。
何をして、ではない。
どうやって、休日を過ごしているか、だ。
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