いくさびと

皆川大輔

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第三章「私の相棒」

「03-003」

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 動画を見るには、シードを介してネットに繋ぎ、網膜に映像を映し出す。二位のゲームにしたってホログラム映像よりもシードで映像を網膜に映した方が臨場感が出る。三位のネットは言わずもがな。四位以下のことだって、ほとんどシードの補助を利用している。

「気づいたかな?」

「えっと……人は、シードと共存している、ってことですか?」

 思いついた答えを口にしてみた。すると、「良くできました。花丸を上げよう」と鏑木が満面の笑みで拍手をした。

「姫宮くんの言うとおり、僕たち人類には、もうシード無しでは生きていけないようになってるほど生活に根付いてるんだ。共存、というより依存に近いかもしれないね。そんな物を取り上げたら……」

 そこまで言って、鏑木は口を噤んだ。ただ、ここからは口頭で伝えてくれなくても容易に想像できる。まず怒るのが、パニック。右に進めばいいのか左に進めばいいのかすらもわからない状況が生まれ、町中が混乱する。そこでは必ずいざこざが起き、一対一の喧嘩から多数対多数の争いになる。そして、最終的に怒りの矛先は、未完成な技術を推奨し続けていた日本政府に向く。「想像したくもないね」と体を震わせる鏑木に「……同感です」と同調するしかない未来だった。

「ま、そういう世界にしないために僕たちがいるんだ。そのことはわかって欲しい」

「は、はい」

「それで、一応いないってていでも名称がないと不便だから、つけられたのがこの〝特異犯罪対策部〟の〝第七感覚特務課〟ってわけ」

 特異犯罪というのはムクロやシカバネの対策等のはわかる。しかし、その後の第七感覚特務課というのはピンとこない。しかし、ここですぐに答えを訊いてしまえばさっきの二の舞だ。眉間にしわを寄せて思案していると「ま、これは本職に説明して貰った方がいいかもね」と言って、鏑木は壁に掛けてある時計を見た。

 明日香もその視線を追うと、古びたアナログ時計は午前十時ちょうどを示している。

 本職とは、と口を開こうとした瞬間「やーやー、やっとるかい!」と聞き慣れない声が割り込んできて明日香は息をのんだ。

 振り返り、部屋の入り口を見ると、そこには一人の年端もいかない女の子が立っていた。小っちゃい、それこそ小学校低学年くらいの背丈だが、両手を腰に当てて仁王立ちする様は女王にも似た自信を感じさせる。もし、少女が白衣ではなくフリフリなドレスを着て、髪の毛もポニーテールではなく編み込んでいたりしたら、ドラマに出ていてもおかしくないほどで、その見た目は着せ替えで遊べる人形に近い。そんな可憐な少女は、硬直した明日香をちらりと見てから「女の子かぁ。華やかになっていいねぃ」と独特な言い回しで部屋へ足を踏み入れた。

「あ、ちょっと――」

 時間も時間だし、診療所に来た患者なのか、と止めようとするも「おー、待っていたよ。時間通りじゃないか」という鏑木の知り合いらしい内容に、黙りこくしかなかった。

「そんないつも遅刻するヤツみたいな口ぶりは感心しないなぁ」

「少々待ってくれ、記録してあるから正確な数字を出そう。今年三回目で今日は時間ぴったしだったから、一回ずつ足して――」

「あーもう細かい! いいでしょ、間に合ったんだから!」

 老人と少女がため口で言い合いをしている様は、これまであまり見たことのない異質な光景だ。孫とおじいちゃんのちょっとした喧嘩か、と思っていると「あ、アンタ今、あーしのこと子供だと思ったろ?」とにらみを利かしてきた。クリクリした丸い目には迫力がなく、表情を崩したまま微笑んでいると「これでも二十四だぃ」と続けられた言葉に目が点になる。

「……えっ⁉」

「嘘じゃないぞ? ほれ」

 少女が差し出したのは、警察手帳。記章をシードが読み取り、二十四歳であるとすぐに知らせてくれた。

「……ご、ごめんなさい」

「全く、近頃の若いもんは……見た目ばっかりで人を判断しようとしてしょうがない。いい迷惑だってのぉ!」

 そう言いつつ、少女は手を差し出してきた。本当に二十四歳の手なのか、と信じられないまま握手をすると「あーしは津ノ森千枝つのもりちえ。ナナカントッカの専任プログラマーやってる」と柔和な表情をしてくれた。その切り替えの速さは、自分にはない、大人のそれだ。

「ナナカントッカ?」

「あぁ、第七感覚特務課、って一々言うの面倒くさいから、略してそう呼んでるのよ」

「なるほど……」

「ま、それはそれでいいとして、カブさん、説明を全部丸投げは行けないなぁ」

「僕はただキミの方がわかりやすいと思っただけさ」

「まったく……ま、簡単に言うとだね、第七感覚って言うのは、シードの機能である、コネクトのこと」

 コネクト、という言葉には聞き覚えがあった。それを耳にしたのは、体を真っ黒に包んだ怪物、シカバネに追い詰められて、戦わなければならない、と腹をくくったとき。強制起動がどうとか言っていた間に、体を雷が包み込んで戦えるようになった。言うなれば、こうして警察に所属することになった契機でもある。
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