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第二部
2-25「怪物とコーチの一日戦争(5)」
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「……部活のとき、聞いてみるよ」
「私も、それとなく聞いてみる」
別れ際にこそこそと約束事を交わし、二人は教室に戻った。
※
「んー……なるほど、全然違いますね」
放課後、練習前。昼休み時間中にお願いした新太の練習メニューを見ていた。
「だよな」
先刻新太が言っていたように、書かれているのは詳細までびっしりと理論付けされている細かい練習メニューだ。すべて時間で分けているのではなく回数で分けており、質が重視していることも伝わってくる。家での自主練習メニューが記載されていることも、驚きの一つだった。
「すみません、質問なんですけど……新太さんって変化球めっちゃ使いますよね?」
「ん? あぁ、そうだな」
「全部でどれくらいっすか?」
「全部でか? えっと……スライダー、カーブ、スローカーブ、シュート、ツーシーム、スクリューで、一応だけど六個くらいは使えるけど」
指を折りながら数えた新太に「それって誰に教わったんですか?」と食い気味に続ける。
予想を確信にするべく質問を続ける彗にたじろぎながら、新太は「スライダーとカーブ意外は高校入ってから。監督に教わったよ」と答えた。
――なるほど。
予想が確信に変わり、彗はにやりと笑いながら「わかりました、ありがとうございます」と礼を言うと、新太を部室に置いてグラウンドに足を運んだ。
まだ練習開始前。何人かはすでに軽めの準備運動をしている中を突っ切って、彗は放課後だけに現れるコーチ、矢沢の元へ駆け寄った。
「お疲れ様っす」
気怠そうな矢沢は「おぉ、考えたか?」と欠伸をしながら応える。
「そりゃもう、丸一日かかりました」
朝から続いていたイライラをぶつけるように、若干語尾を強めた彗は「もう少しわかりやすいと助かりますわ」と矢沢に紙を叩きつけた。
紙は、今朝の練習で矢沢から貰ったメニュー表に、自分の文字を書き加えたもの。〝三十球以内〟という唯一書かれた文字の周りに、自分で考えたメニューを書きなぐったものだった。
「これ、どういう意図で作った?」
一通り目を通した矢沢は、いたずらな眼差しで問いかけてくる。待ってました、と言わんばかりに彗は「コーチの意図を汲み取って、考えました」と誇らしげに答えた。
「ほう……? 聞かせてもらおうか」
じろじろと品定めをしているかのような矢沢に、彗は「もちろん」と答えると、矢沢の持っていたメニューに初めから書かれていた三十球以内という一文を指差して「これは、俺の身体にかかる負担を考えてってことなんすよね?」と続けた。
ほう、と唸ると、矢沢は傍にあったベンチまで足を進めると、すっと座り込んで「その根拠は?」とタバコの箱を取り出すが、彗は「ここ、禁煙っす」と言いながら矢沢から取り上げると「あなたが一応名コーチだから」と言って箱を握りつぶした。
まだたっぷりタバコが残っていたようで、若干物悲しそうに矢沢は「ま、及第点ってところだな」と苦笑いをした。
矢沢の言葉に引っかかり、彗は思わず「及第点?」と突っかかるような言葉を零した。
「ん? 何かおかしいか?」
及第点と言う言葉は、完璧ではないが合格と言う意味だ。つまり、満点ではないということになる。
いきなり満点を貰うことが難しいということは承知しているが、昼休みが終わってから授業そっちのけで考え抜いたメニューにいちゃもんをつけられているみたいな感情に陥っていった彗は「どこがダメだったんですか」と詰め寄った。
「は?」
「いや、今、及第点って言ったじゃないっすか」
「満点じゃない理由を教えてくれないっすか」
彗が食い下がると、矢沢はため息を零しながら「素人の一年坊主が考えたメニューが満点なわけないだろ」と言いながら頭をポリポリとかくと「お前の考えたメニューをベースに、俺が内容に肉付けをする」と彗が書いてきたメニューを人差し指でくるっと丸を描くと「それで満点だ」と言ってにやりと笑った。
※
放課後、練習前。
真田は部員たちに話があると言い、集めていた。
部員たちをざっと見渡してみると、明らかに不安がっている。
――疑惑の謎コーチを招聘した後にわざわざ集めるんだから……そりゃこうなるか。
矢沢は何も知らされていない部員たちに同情しながら、真田の一言を待っていると、等々に「練習試合が決まった!」と叫びのような声を上げた。
「日程は、五月十日。来月の二週目になる土曜日だ」とまで言うと、若干溜めながら「相手は、桜海大葉山」と言い切った。
春日部共平に並ぶほどの、神奈川にある名門校。プロに何人も選手を輩出していることに加え、甲子園の常連校でもある高校。動揺が広がるのは至極当然だった。
――このまま、戦えるのか?
部員たちは、明らかに不安がっている。
それ自体は無理もない――が、これから並み居る強豪校を倒して甲子園を目指そうというときに、そんな表情で大丈夫なのか、と怪訝な表情を浮かべていると、真田は「そんな顔すんな!」と再び声を上げた。
「俺たちは春日部共平にも勝った。夏のシードも獲得した。それに……今回は、向こうから頼み込んできたんだよ」
真田の言葉で、雰囲気が一変する。
「俺たちは、そんな強豪に並べるくらいになったんだ、自身もっと持とうぜ?」
――これが、教師ってやつか。
矢沢は、たった数秒で士気を上げる同級生にただただ感心するばかりだった。
「私も、それとなく聞いてみる」
別れ際にこそこそと約束事を交わし、二人は教室に戻った。
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「んー……なるほど、全然違いますね」
放課後、練習前。昼休み時間中にお願いした新太の練習メニューを見ていた。
「だよな」
先刻新太が言っていたように、書かれているのは詳細までびっしりと理論付けされている細かい練習メニューだ。すべて時間で分けているのではなく回数で分けており、質が重視していることも伝わってくる。家での自主練習メニューが記載されていることも、驚きの一つだった。
「すみません、質問なんですけど……新太さんって変化球めっちゃ使いますよね?」
「ん? あぁ、そうだな」
「全部でどれくらいっすか?」
「全部でか? えっと……スライダー、カーブ、スローカーブ、シュート、ツーシーム、スクリューで、一応だけど六個くらいは使えるけど」
指を折りながら数えた新太に「それって誰に教わったんですか?」と食い気味に続ける。
予想を確信にするべく質問を続ける彗にたじろぎながら、新太は「スライダーとカーブ意外は高校入ってから。監督に教わったよ」と答えた。
――なるほど。
予想が確信に変わり、彗はにやりと笑いながら「わかりました、ありがとうございます」と礼を言うと、新太を部室に置いてグラウンドに足を運んだ。
まだ練習開始前。何人かはすでに軽めの準備運動をしている中を突っ切って、彗は放課後だけに現れるコーチ、矢沢の元へ駆け寄った。
「お疲れ様っす」
気怠そうな矢沢は「おぉ、考えたか?」と欠伸をしながら応える。
「そりゃもう、丸一日かかりました」
朝から続いていたイライラをぶつけるように、若干語尾を強めた彗は「もう少しわかりやすいと助かりますわ」と矢沢に紙を叩きつけた。
紙は、今朝の練習で矢沢から貰ったメニュー表に、自分の文字を書き加えたもの。〝三十球以内〟という唯一書かれた文字の周りに、自分で考えたメニューを書きなぐったものだった。
「これ、どういう意図で作った?」
一通り目を通した矢沢は、いたずらな眼差しで問いかけてくる。待ってました、と言わんばかりに彗は「コーチの意図を汲み取って、考えました」と誇らしげに答えた。
「ほう……? 聞かせてもらおうか」
じろじろと品定めをしているかのような矢沢に、彗は「もちろん」と答えると、矢沢の持っていたメニューに初めから書かれていた三十球以内という一文を指差して「これは、俺の身体にかかる負担を考えてってことなんすよね?」と続けた。
ほう、と唸ると、矢沢は傍にあったベンチまで足を進めると、すっと座り込んで「その根拠は?」とタバコの箱を取り出すが、彗は「ここ、禁煙っす」と言いながら矢沢から取り上げると「あなたが一応名コーチだから」と言って箱を握りつぶした。
まだたっぷりタバコが残っていたようで、若干物悲しそうに矢沢は「ま、及第点ってところだな」と苦笑いをした。
矢沢の言葉に引っかかり、彗は思わず「及第点?」と突っかかるような言葉を零した。
「ん? 何かおかしいか?」
及第点と言う言葉は、完璧ではないが合格と言う意味だ。つまり、満点ではないということになる。
いきなり満点を貰うことが難しいということは承知しているが、昼休みが終わってから授業そっちのけで考え抜いたメニューにいちゃもんをつけられているみたいな感情に陥っていった彗は「どこがダメだったんですか」と詰め寄った。
「は?」
「いや、今、及第点って言ったじゃないっすか」
「満点じゃない理由を教えてくれないっすか」
彗が食い下がると、矢沢はため息を零しながら「素人の一年坊主が考えたメニューが満点なわけないだろ」と言いながら頭をポリポリとかくと「お前の考えたメニューをベースに、俺が内容に肉付けをする」と彗が書いてきたメニューを人差し指でくるっと丸を描くと「それで満点だ」と言ってにやりと笑った。
※
放課後、練習前。
真田は部員たちに話があると言い、集めていた。
部員たちをざっと見渡してみると、明らかに不安がっている。
――疑惑の謎コーチを招聘した後にわざわざ集めるんだから……そりゃこうなるか。
矢沢は何も知らされていない部員たちに同情しながら、真田の一言を待っていると、等々に「練習試合が決まった!」と叫びのような声を上げた。
「日程は、五月十日。来月の二週目になる土曜日だ」とまで言うと、若干溜めながら「相手は、桜海大葉山」と言い切った。
春日部共平に並ぶほどの、神奈川にある名門校。プロに何人も選手を輩出していることに加え、甲子園の常連校でもある高校。動揺が広がるのは至極当然だった。
――このまま、戦えるのか?
部員たちは、明らかに不安がっている。
それ自体は無理もない――が、これから並み居る強豪校を倒して甲子園を目指そうというときに、そんな表情で大丈夫なのか、と怪訝な表情を浮かべていると、真田は「そんな顔すんな!」と再び声を上げた。
「俺たちは春日部共平にも勝った。夏のシードも獲得した。それに……今回は、向こうから頼み込んできたんだよ」
真田の言葉で、雰囲気が一変する。
「俺たちは、そんな強豪に並べるくらいになったんだ、自身もっと持とうぜ?」
――これが、教師ってやつか。
矢沢は、たった数秒で士気を上げる同級生にただただ感心するばかりだった。
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