彗星と遭う

皆川大輔

文字の大きさ
51 / 179
第一部

1-46「リベンジ(1)」

しおりを挟む
 春の大会二日前。
 ピりついた空気の中、彗と一星は、自分たちへ向けられている奇異の視線を感じていた。
 一つではない、複数の悪意すら感じられる、そんな視線。

 ――無理もねーわ。

 明後日の春季大会。
 グラウンドで背番号19と20を背負って戦うのは、苦しい練習を耐え抜いてきた上級生ではなく、たった数日前に練習に参加し始めたばかりでロクな結果も残せていない一年生二人。反感を買うのは至極当然のことだ。
 ふと、彗はあるプロ野球選手が残した言葉を思い出した。

『結果は信頼生んで、力をくれる。そのために僕たちピッチャーは結果を出すんです』

 メジャーで最も優秀だったピッチャーに贈られるサイヤング賞を複数受賞した、日本の野球史でナンバーワンとも呼ばれる伝説のピッチャー、〝菅原智則すがわらとものり〟の格言だ。

 バッターボックスに入るバッターも、マウンドにいるピッチャーも、勝負の瞬間はいつも一人。極端な話をしてしまえば、孤独なスポーツだ。
 ただ、そんな孤独な状況でも、信頼できる仲間がいればそれだけで力になる。
 その力を生むために必要な結果を求めて、彗は再びマウンドに立っていた。

 今回対峙するのは二軍ではない。新太や宗次郎はもちろん、この間は味方だった嵐に、滅多打ちにされた真司のいる一軍のスタメン相手だ。
 本番が二日後に控えた一軍の調整の場を借りての志願登板。
 空を見上げると、やはり快晴だった。
 世界一を決める大会でも、昨日の練習試合でも快晴。入学してから続けた早朝練習でも雲一つ見たことはない。

 ――いやーに青空に愛されているな。

 この調子じゃ夏は大変だな、と笑いながら彗はバッターボックスを見た。
 打席に悠々と入ったのは、一昨日と全く同じ、田名部真司だ。

「ちょっとは考えてきたかぁ?」

 余裕たっぷりに打席に入る真司。この打者を打ち取らないと、信頼なんて夢のまた夢。

「もちろんです」

 そう応えて彗は大きく振りかぶった。


       ※


「おっ」

 グラウンドを一望できる高さ三メートルのタワーに座る真田は、志願登板をしている彗の一球目を見て感心していた。
 まず一球目、インコースの厳しいところ。真司はバットを動かすことはできず、見逃してストライク。

「何か掴んだか?」

 先日の練習試合では、ただただ速い球を投げるだけのピッチャーと、セオリー通りのリードをするキャッチャーという印象しかなかった。
 もちろんそれをできるだけでもすごいことだが、もっと上の選手に育ってほしいと決断したベンチ入り。
 ベンチ入りがギリギリの生徒から見れば贔屓を感じるだろうし、入部した一年からねたまれるだろう。事実、昨日今日と空気は最悪。

 前哨戦とはいえ、春の大会前にやることではなかったのかもしれない。
 仮にも公式戦。自身が就任してから扱きに扱き、見上げ上げた自慢の教え子たちはベスト8くらいまで行ってくれるだろうという手ごたえがある。だからこそ、キツイ練習についてきてくれた生徒たちの輪を乱さないように、手堅く上級生を選出して盤石な状態で挑んだ方が良かったかもしれない。

「ただなぁ」と、真田は二球目にも投げ込まれたストレートを見ながら呟いた。

 二球連続で同じコースにストレート。しかし、ミート力に定評があり、先日ホームランも打ってみせたあの真司が、空振りをしている。

「やっぱあれは賭けたくなるよなぁ」

 変化球は中学生仕様。コントロールも甘々。
 様々な点でレベルアップは必要なことは明白だが、そんな欠点すら度外視で見たいという欲が勝ってしまう、そんな可能性を持っている。

「ま、これで文句も出なくなるだろ」

 迷いなく投げ込まれた三球目のストレートを見て真田は呟く。
 三球目もストレート。逃げるという選択肢もあった中での全力投球に真司はバットを出すことができず、見逃し。
 結果として、ストレートだけで三球三振。
 不満を持っていた生徒たちが納得するには充分すぎる結末だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

処理中です...