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第一部
1-46「リベンジ(1)」
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春の大会二日前。
ピりついた空気の中、彗と一星は、自分たちへ向けられている奇異の視線を感じていた。
一つではない、複数の悪意すら感じられる、そんな視線。
――無理もねーわ。
明後日の春季大会。
グラウンドで背番号19と20を背負って戦うのは、苦しい練習を耐え抜いてきた上級生ではなく、たった数日前に練習に参加し始めたばかりでロクな結果も残せていない一年生二人。反感を買うのは至極当然のことだ。
ふと、彗はあるプロ野球選手が残した言葉を思い出した。
『結果は信頼生んで、力をくれる。そのために僕たちピッチャーは結果を出すんです』
メジャーで最も優秀だったピッチャーに贈られるサイヤング賞を複数受賞した、日本の野球史でナンバーワンとも呼ばれる伝説のピッチャー、〝菅原智則〟の格言だ。
バッターボックスに入るバッターも、マウンドにいるピッチャーも、勝負の瞬間はいつも一人。極端な話をしてしまえば、孤独なスポーツだ。
ただ、そんな孤独な状況でも、信頼できる仲間がいればそれだけで力になる。
その力を生むために必要な結果を求めて、彗は再びマウンドに立っていた。
今回対峙するのは二軍ではない。新太や宗次郎はもちろん、この間は味方だった嵐に、滅多打ちにされた真司のいる一軍のスタメン相手だ。
本番が二日後に控えた一軍の調整の場を借りての志願登板。
空を見上げると、やはり快晴だった。
世界一を決める大会でも、昨日の練習試合でも快晴。入学してから続けた早朝練習でも雲一つ見たことはない。
――いやーに青空に愛されているな。
この調子じゃ夏は大変だな、と笑いながら彗はバッターボックスを見た。
打席に悠々と入ったのは、一昨日と全く同じ、田名部真司だ。
「ちょっとは考えてきたかぁ?」
余裕たっぷりに打席に入る真司。この打者を打ち取らないと、信頼なんて夢のまた夢。
「もちろんです」
そう応えて彗は大きく振りかぶった。
※
「おっ」
グラウンドを一望できる高さ三メートルのタワーに座る真田は、志願登板をしている彗の一球目を見て感心していた。
まず一球目、インコースの厳しいところ。真司はバットを動かすことはできず、見逃してストライク。
「何か掴んだか?」
先日の練習試合では、ただただ速い球を投げるだけのピッチャーと、セオリー通りのリードをするキャッチャーという印象しかなかった。
もちろんそれをできるだけでもすごいことだが、もっと上の選手に育ってほしいと決断したベンチ入り。
ベンチ入りがギリギリの生徒から見れば贔屓を感じるだろうし、入部した一年からねたまれるだろう。事実、昨日今日と空気は最悪。
前哨戦とはいえ、春の大会前にやることではなかったのかもしれない。
仮にも公式戦。自身が就任してから扱きに扱き、見上げ上げた自慢の教え子たちはベスト8くらいまで行ってくれるだろうという手ごたえがある。だからこそ、キツイ練習についてきてくれた生徒たちの輪を乱さないように、手堅く上級生を選出して盤石な状態で挑んだ方が良かったかもしれない。
「ただなぁ」と、真田は二球目にも投げ込まれたストレートを見ながら呟いた。
二球連続で同じコースにストレート。しかし、ミート力に定評があり、先日ホームランも打ってみせたあの真司が、空振りをしている。
「やっぱあれは賭けたくなるよなぁ」
変化球は中学生仕様。コントロールも甘々。
様々な点でレベルアップは必要なことは明白だが、そんな欠点すら度外視で見たいという欲が勝ってしまう、そんな可能性を持っている。
「ま、これで文句も出なくなるだろ」
迷いなく投げ込まれた三球目のストレートを見て真田は呟く。
三球目もストレート。逃げるという選択肢もあった中での全力投球に真司はバットを出すことができず、見逃し。
結果として、ストレートだけで三球三振。
不満を持っていた生徒たちが納得するには充分すぎる結末だった。
ピりついた空気の中、彗と一星は、自分たちへ向けられている奇異の視線を感じていた。
一つではない、複数の悪意すら感じられる、そんな視線。
――無理もねーわ。
明後日の春季大会。
グラウンドで背番号19と20を背負って戦うのは、苦しい練習を耐え抜いてきた上級生ではなく、たった数日前に練習に参加し始めたばかりでロクな結果も残せていない一年生二人。反感を買うのは至極当然のことだ。
ふと、彗はあるプロ野球選手が残した言葉を思い出した。
『結果は信頼生んで、力をくれる。そのために僕たちピッチャーは結果を出すんです』
メジャーで最も優秀だったピッチャーに贈られるサイヤング賞を複数受賞した、日本の野球史でナンバーワンとも呼ばれる伝説のピッチャー、〝菅原智則〟の格言だ。
バッターボックスに入るバッターも、マウンドにいるピッチャーも、勝負の瞬間はいつも一人。極端な話をしてしまえば、孤独なスポーツだ。
ただ、そんな孤独な状況でも、信頼できる仲間がいればそれだけで力になる。
その力を生むために必要な結果を求めて、彗は再びマウンドに立っていた。
今回対峙するのは二軍ではない。新太や宗次郎はもちろん、この間は味方だった嵐に、滅多打ちにされた真司のいる一軍のスタメン相手だ。
本番が二日後に控えた一軍の調整の場を借りての志願登板。
空を見上げると、やはり快晴だった。
世界一を決める大会でも、昨日の練習試合でも快晴。入学してから続けた早朝練習でも雲一つ見たことはない。
――いやーに青空に愛されているな。
この調子じゃ夏は大変だな、と笑いながら彗はバッターボックスを見た。
打席に悠々と入ったのは、一昨日と全く同じ、田名部真司だ。
「ちょっとは考えてきたかぁ?」
余裕たっぷりに打席に入る真司。この打者を打ち取らないと、信頼なんて夢のまた夢。
「もちろんです」
そう応えて彗は大きく振りかぶった。
※
「おっ」
グラウンドを一望できる高さ三メートルのタワーに座る真田は、志願登板をしている彗の一球目を見て感心していた。
まず一球目、インコースの厳しいところ。真司はバットを動かすことはできず、見逃してストライク。
「何か掴んだか?」
先日の練習試合では、ただただ速い球を投げるだけのピッチャーと、セオリー通りのリードをするキャッチャーという印象しかなかった。
もちろんそれをできるだけでもすごいことだが、もっと上の選手に育ってほしいと決断したベンチ入り。
ベンチ入りがギリギリの生徒から見れば贔屓を感じるだろうし、入部した一年からねたまれるだろう。事実、昨日今日と空気は最悪。
前哨戦とはいえ、春の大会前にやることではなかったのかもしれない。
仮にも公式戦。自身が就任してから扱きに扱き、見上げ上げた自慢の教え子たちはベスト8くらいまで行ってくれるだろうという手ごたえがある。だからこそ、キツイ練習についてきてくれた生徒たちの輪を乱さないように、手堅く上級生を選出して盤石な状態で挑んだ方が良かったかもしれない。
「ただなぁ」と、真田は二球目にも投げ込まれたストレートを見ながら呟いた。
二球連続で同じコースにストレート。しかし、ミート力に定評があり、先日ホームランも打ってみせたあの真司が、空振りをしている。
「やっぱあれは賭けたくなるよなぁ」
変化球は中学生仕様。コントロールも甘々。
様々な点でレベルアップは必要なことは明白だが、そんな欠点すら度外視で見たいという欲が勝ってしまう、そんな可能性を持っている。
「ま、これで文句も出なくなるだろ」
迷いなく投げ込まれた三球目のストレートを見て真田は呟く。
三球目もストレート。逃げるという選択肢もあった中での全力投球に真司はバットを出すことができず、見逃し。
結果として、ストレートだけで三球三振。
不満を持っていた生徒たちが納得するには充分すぎる結末だった。
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