彗星と遭う

皆川大輔

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第一部

1-45「再開に湧く(6)」

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 近付いてくる二人に気づいた一星は「あ、お疲れ様」と重い顔を上げた。

 自転車を停めるや否や、眉間にしわを寄せながら暗い表情の一星に思わず「どうしたそんな辛気臭い顔して」と彗が突っ込むと、次いで自転車を停めた音葉が「あれ、キャプテンと一緒って言ってなかったっけ」と首を傾げた。

「うん、さっきまで一緒にいたんだけど……ね。いろいろ苦言を貰っちゃった」

「苦言?」

「そう。田名部先輩の配球について」

「ほー……そっちもか」

「そっちもって?」

「俺も新太さんにちょっと言われてさ。変化球の時、肘が少し下がってるから、ストレートとそれ以外がモロバレって話だろ?」

「……いや、僕の方はリードがダメだって話だった」

「リード? そんな悪くねーと思ったけどな」

「僕もそう思うんだけど、本橋先輩が言うには〝一打席目でどんな性格か見抜いて慎重なリードをするべきだった〟って言うんだよ」

 先ほど宗次郎から言われた言葉をかいつまんで説明してみると「はぁ?」とキツネにつままれたように口をあんぐりと空けた。

「無理だろ、どんな人なのかも知らねーのに」

「僕もそう思うんだけど……海瀬さんは何か気付いたことあった?」

 突然振られて焦った音葉は「えっ、私?」と自分を指差した。

「うん。あ、そもそも試合は見てなかったんだっけ」

「えっと、最初の方だけ見てたかな。遠くからだったし、ちょっと難しいかな」

「そっか……」

 肩を落とした一星に「なになに、何の話?」と、真奈美が話しかけた。

「ちょっとキャプテンに宿題出されてさ……って木原さん⁉」

 予想だにしない登場人物に一星は体を震わせると「イタズラ成功!」とピースをして、一星の背後からもこもこの薄ピンクなルームウェアに身を包んだ真奈美がひょっこりと顔を出した。右手に小さいビニール袋を、左手に携帯を携えたちょこっとお出かけスタイルだ。

「真奈美、どうしたの? 外食とか?」

「んーん、ご飯は家で食べたんだけど、テレビでアイスの特集やっててさぁ。一緒に見てたお姉ちゃんとじゃんけんして、負けた結果がコレ」と、袋の中からアイスを一個取り出して見せる。春とはいえまだまだ寒さの残る四月半ば。こんな時期にかき氷系のアイスか、と一星は苦笑いを浮かべた。

「で、何の話?」

「昨日の練習試合の話だよ。真奈美も見てたでしょ?」

「あー、あの空野くんがパカパカ打たれてたやつ?」

「そうそれ」

 間髪入れずに頷く音葉に「ぐっ……ま、間違いじゃねぇが」と彗はバツの悪い声を漏らした。

「何か気付いたことあった?」

「んー……特にはないかなぁ」

「技術的なことじゃなくていいんだ。何か気付いたこととか、思ったことない?」

 頭を抱えながら「うーん……」と悩みながら「よくあの空野くんが投げた球怖くないなって思ったくらいかな」と絞り出した。

「怖くない?」

「うん。だってさ、あんなに速い球が来たら普通は怖いじゃん? けど先輩たち、しっかり踏ん張ってたから、凄いなぁって」

 そう応えると、真奈美の携帯がピコンと鳴る。

「あ、ヤバ! お姉ちゃんめちゃオコだから行くね!」

 また明日、と言い残してその場を去る真奈美を見送ると、一星は「なるほど」と呟き、彗は「考えもしなかったなー」と、予想外の角度から来た感想に唸った。

 至極単純な感想に過ぎないが、第一打席の光景と照らし合わせると答えが見えてくる。

「明日とか試してみよう」と彗に提案すると「だな」と彗が短く応える。

 一人置いてけぼりをくらっていた音葉は「え、何で納得してるの?」と引き続きクエスチョンマークを頭に浮かべていた。
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