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第一部
1-40「再開に湧く(1)」
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「ま、そりゃそうだ」
二軍メンバーとの試合翌日。早朝練習で二軍行きを告げられた雄介は、購買の競争を勝ち取って手に入れた焼きそばパンを食らいながら妬みを包み隠さず彗にぶつけた。
「あ? どうした?」
毎度お馴染みとなった白飯弁当をかき込みながらクエスチョンマークを浮かべる彗。そういうところ腹立つわ、と心の底で呟きながら雄介は「怪物と天才は違うなって話」と首を振る。
「正直、不思議でしょうがないや。なんで一軍なんだろ」
既に昼食を食べ終えた一星も、彗と同じようにクエスチョンマークを浮かべながらお茶でのどを潤していた。
「なんでって、通用するって思ったんだろ? 認められたんだよ」
「うーん……そうなのかなぁ。あれだけいいようにやられてたし、二軍スタートだと思ったんだけど……」
首を傾げる一星に「まーあれだ、取り合えず最初の目標は突破できたってことを喜ぼうぜ」とご飯を全て平らげると彗は「まーあれだ、試合までまだ三日あるし、練習するしかねーよ」とのんきに大きなあくびを浮かべていた。
※
放課後、練習が始まる前が仕事の本番みたいなところがある。
昨日、入部初日の昨日は試合をするだけであることと、一軍の主力メンバーは不在だったので簡単なものだったが、今日は部員全員が揃いきつめの練習をするとのこと。
真奈美は「なるほどぉ……」と、先日教わったジャグ運びを何往復もしながら、その辛さを実感していた。
放課後練習で県立なのだからと甘い練習は一切なし。
ランニングを中心としたアップを終了すると、守備練習に移行。
その時間に由香はスポーツドリンクの素を買いに出かけ、グラウンドに残された音葉と真奈美はひたすらに観察。時折ジャグの中身を確認し、量が減っては継ぎ足して、量が減っては継ぎ足し手を繰り返し、これで四往復目だった。
ジャグがいっぱいになったら、今度はひたすら観察。
――勉強しないとやっぱ面白さわかんないよね。
そんなことを思いながら真奈美は、隣で目を輝かせている音葉を見た。
「やっぱ二人とも動き良いね」
隣で観察をしている音葉は時折野球を見に来たおじさんのように満足気に腕を組みながら唸っている。心底、楽しんでいるんだな、と笑いながら「二人って?」と話しかけた。
「もちろん、空野くんと武山くん」
「だよね」と呟き、真奈美も目を凝らして二人を探してみる……が、いくら探しても見つからない。みんな同じユニフォームで似たような動きしかしない上に、帽子まで被っていると誰が誰だか判断できず、真奈美は観念して「ね、二人ともどこにいるの?」とこそっと尋ねた。
「えっと、あそこ!」と、音葉は練習場の右奥を指差した。
「右のあそこ、ポールがあるでしょ? その下あたりにいる、ライトってポジションで二人とも練習してる。ほら、次は空野くんみたいだよ」
そう音葉が言うと、監督が「次、ライト!」と大きく叫んでボールを打った。
ぐんぐんと伸びていったボールを、ライトに入っている彗が「オーライ!」とホームベース付近にいる真奈美の耳にも届くくらいの掛け声を上げながらダッシュし、見事滑り込みながらボールをキャッチした。
周囲の先輩たちと一星から拍手を浴びている。
「すごいねぇ……私だったら突っ込めないなぁ」
「ま、あの二人はどこのポジションでもある程度は守れるだろうから不思議じゃないけどね」
「なんで音葉が自慢気なの?」
「なんとなく」
そう応える音葉がどこか面白くて笑っていると「バックホーム!」と誰かが叫んだ。それに呼応して、彗はホームにボールを投げ込む。
レーザービームのように低い弾道で返球されたボールは、ドンッ、と背番号2の主将である本橋宗次郎がキャッチした。
――相変わらず怖いなぁ。
もしこっちに飛んで来たら、なんてことを考えていると、真奈美はある違和感に気づいた。
「ね、音葉。空野くんってピッチャーじゃなかったっけ」
「……そうだよ」
「あそこライトってところだよね? なんで?」
「うーん……」と首を傾げる音葉。野球のことならば何でも教えてくれる音葉もその答えはわからないらしく「きっと監督に何か考えがあるんだよ」と話を逸らした。
「へぇー……」
疑問符を消せないまま、真奈美はさっき補充したものとはまた別のジャグが空になったことに気づいて「入れてくるねー」とその場を後にした。
※
放課後の練習が終わるのは夜の七時。すっかりその練習習慣に慣れている二年生以上はいつも通りけろっとした表情だが、初めて一高校生の練習に参加した彗と一星には疲労の色が顕著に見えていた。
露骨に肩で息をしている様子を見ながら新太は笑みを浮かべて「お疲れ。どうだったよ、練習は」と彗に話しかけた。
「……体力には自信あった方なんですけど、正直言うと疲れました」
彗は力なく笑いながら応える。
「あの人が監督になってからめっちゃ厳しくなったからな」と去年の夏、練習量の多さに苦しんだ経験を思い出しながら新太はチラリと部室を見渡した。
今、部室にいるのは彗だけ。まだ荷物がもう一人分あるから、噂の天才クンもいるんだろうな、と思いながら新太は「まだ帰んないの?」と尋ねてみる。
「……今日は守備練習と打撃練習ちょこっとだったんで、少し投げてこーかなって」
二軍メンバーとの試合翌日。早朝練習で二軍行きを告げられた雄介は、購買の競争を勝ち取って手に入れた焼きそばパンを食らいながら妬みを包み隠さず彗にぶつけた。
「あ? どうした?」
毎度お馴染みとなった白飯弁当をかき込みながらクエスチョンマークを浮かべる彗。そういうところ腹立つわ、と心の底で呟きながら雄介は「怪物と天才は違うなって話」と首を振る。
「正直、不思議でしょうがないや。なんで一軍なんだろ」
既に昼食を食べ終えた一星も、彗と同じようにクエスチョンマークを浮かべながらお茶でのどを潤していた。
「なんでって、通用するって思ったんだろ? 認められたんだよ」
「うーん……そうなのかなぁ。あれだけいいようにやられてたし、二軍スタートだと思ったんだけど……」
首を傾げる一星に「まーあれだ、取り合えず最初の目標は突破できたってことを喜ぼうぜ」とご飯を全て平らげると彗は「まーあれだ、試合までまだ三日あるし、練習するしかねーよ」とのんきに大きなあくびを浮かべていた。
※
放課後、練習が始まる前が仕事の本番みたいなところがある。
昨日、入部初日の昨日は試合をするだけであることと、一軍の主力メンバーは不在だったので簡単なものだったが、今日は部員全員が揃いきつめの練習をするとのこと。
真奈美は「なるほどぉ……」と、先日教わったジャグ運びを何往復もしながら、その辛さを実感していた。
放課後練習で県立なのだからと甘い練習は一切なし。
ランニングを中心としたアップを終了すると、守備練習に移行。
その時間に由香はスポーツドリンクの素を買いに出かけ、グラウンドに残された音葉と真奈美はひたすらに観察。時折ジャグの中身を確認し、量が減っては継ぎ足して、量が減っては継ぎ足し手を繰り返し、これで四往復目だった。
ジャグがいっぱいになったら、今度はひたすら観察。
――勉強しないとやっぱ面白さわかんないよね。
そんなことを思いながら真奈美は、隣で目を輝かせている音葉を見た。
「やっぱ二人とも動き良いね」
隣で観察をしている音葉は時折野球を見に来たおじさんのように満足気に腕を組みながら唸っている。心底、楽しんでいるんだな、と笑いながら「二人って?」と話しかけた。
「もちろん、空野くんと武山くん」
「だよね」と呟き、真奈美も目を凝らして二人を探してみる……が、いくら探しても見つからない。みんな同じユニフォームで似たような動きしかしない上に、帽子まで被っていると誰が誰だか判断できず、真奈美は観念して「ね、二人ともどこにいるの?」とこそっと尋ねた。
「えっと、あそこ!」と、音葉は練習場の右奥を指差した。
「右のあそこ、ポールがあるでしょ? その下あたりにいる、ライトってポジションで二人とも練習してる。ほら、次は空野くんみたいだよ」
そう音葉が言うと、監督が「次、ライト!」と大きく叫んでボールを打った。
ぐんぐんと伸びていったボールを、ライトに入っている彗が「オーライ!」とホームベース付近にいる真奈美の耳にも届くくらいの掛け声を上げながらダッシュし、見事滑り込みながらボールをキャッチした。
周囲の先輩たちと一星から拍手を浴びている。
「すごいねぇ……私だったら突っ込めないなぁ」
「ま、あの二人はどこのポジションでもある程度は守れるだろうから不思議じゃないけどね」
「なんで音葉が自慢気なの?」
「なんとなく」
そう応える音葉がどこか面白くて笑っていると「バックホーム!」と誰かが叫んだ。それに呼応して、彗はホームにボールを投げ込む。
レーザービームのように低い弾道で返球されたボールは、ドンッ、と背番号2の主将である本橋宗次郎がキャッチした。
――相変わらず怖いなぁ。
もしこっちに飛んで来たら、なんてことを考えていると、真奈美はある違和感に気づいた。
「ね、音葉。空野くんってピッチャーじゃなかったっけ」
「……そうだよ」
「あそこライトってところだよね? なんで?」
「うーん……」と首を傾げる音葉。野球のことならば何でも教えてくれる音葉もその答えはわからないらしく「きっと監督に何か考えがあるんだよ」と話を逸らした。
「へぇー……」
疑問符を消せないまま、真奈美はさっき補充したものとはまた別のジャグが空になったことに気づいて「入れてくるねー」とその場を後にした。
※
放課後の練習が終わるのは夜の七時。すっかりその練習習慣に慣れている二年生以上はいつも通りけろっとした表情だが、初めて一高校生の練習に参加した彗と一星には疲労の色が顕著に見えていた。
露骨に肩で息をしている様子を見ながら新太は笑みを浮かべて「お疲れ。どうだったよ、練習は」と彗に話しかけた。
「……体力には自信あった方なんですけど、正直言うと疲れました」
彗は力なく笑いながら応える。
「あの人が監督になってからめっちゃ厳しくなったからな」と去年の夏、練習量の多さに苦しんだ経験を思い出しながら新太はチラリと部室を見渡した。
今、部室にいるのは彗だけ。まだ荷物がもう一人分あるから、噂の天才クンもいるんだろうな、と思いながら新太は「まだ帰んないの?」と尋ねてみる。
「……今日は守備練習と打撃練習ちょこっとだったんで、少し投げてこーかなって」
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