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第一部
1-39「それは無慈悲な高校野球の洗礼(5)」
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「連れていくべきです」と話す嵐に「いや、まだはえーっすよ」と首を振る真司。
意見が真っ二つに割れて睨み合う二年生二人。お互いのライバル関係に微笑みながら真田はタバコを取り出して火を灯した。
「ここ、禁煙です」
「気のせいだ」と灰皿を出すと真田は脇目も振らず目一杯に吸い込んでニコチンを取り込んだ。
「ったっく……」と呆れながら嵐は視線を真司に移すと「というか真司、なんで反対なんだ?」と問い詰める。
「なんでって、そらまだ公式戦に出れるレベルじゃーねーじゃん」
「それ以上に経験積んだ方が夏の戦力になるだろって言ってんだよ」
「そりゃわかるが、今じゃないだろ。シード権もあるし、経験なら練習試合で積めばいいじゃんか」
「公式戦の経験が必要だって言ってんだよ。もしシード取れなくても、もう一人使える投手がいれば――」
二人の議論が独り歩きを始めたところで「そこまで」とタバコの煙を二人に吐き出して真田が制止する。
「あとは俺が決める。今日は助かった」
――だから最終決定は俺に任せろ。
そう言わんばかりの強い眼差しを二人に向けながら真田はタバコの火を消すと「うぃーっす」と真司は不満を表に出しながらも引き上げる。こうなればもう戦う必要もないよと、嵐も「……いえ」と力なく呟いてその場を後にする。
二人がいなくなったのを見計らうと、真田は「想像以上だな、良くも悪くも」と小さく呟いた。
考えを張り巡らせながら二本目のタバコに火を灯す。
どうしたもんか、と悩みながらため息と一緒に煙を空中に吐き出した。
※
戦に負け、命かながら自分の城へ逃げる兵士の気分だった。
頭を駆け巡る雑念を振り払うかのように、彗は自転車を全力で漕ぐ。通行人や車だけではなく、信号すらも見逃してくれたようで、家まで全く止まることはなかった。
ずっとフルスロットル。ずっと頭が沸騰しそうな熱のまま、彗は自宅近くまで来たところで立ち止まった。
――……いけね。
今日から料理当番は母に戻る。
きっと、輝と朱里はワクワクしながら食卓を囲もうとしているはず。
そんな中で、引きずってちゃ世話無いな、と彗は無理矢理笑顔を作り込んでから玄関に入った。
「たーだいま」
「兄ちゃんおかえりー」
朱里が出迎えてくれる。次いで輝がとことこと玄関までくると「おかえりー……どうしたの?」と出迎えながら首を傾げた。
「あ? なにが?」
「なんか疲れてるじゃん」
「……久々のがっちりとした練習だったからじゃねーかな」
上手く言葉絵を取り繕いながら靴を脱ぐと「伊達に何年も兄妹やってないな」と小さく笑いながら自分の部屋に向かった。
部屋に入ると、大きなため息をついてベッドにボフッと顔を埋める。
悔しさ、不甲斐なさ、自らへの苛立ち、その他諸々。
「あー……!」
枕に口を押し当て、音を殺して吐き出してから部屋着に着替えると、彗はリビングへ向かった。
久々に嗅ぐ香ばしいしょう油とニンニクの匂いが鼻孔を突く。
「お疲れさん! 好きなだけ食べな」
そう言って母が出してくれたのは、彗の大好物である唐揚げだった。
「いや、別に疲れてないよ」
無駄に強がりながら彗はそれを一つ手に取り、口に運ぶ。
久方ぶりの唐揚げは、どこか懐かしい味がした。
意見が真っ二つに割れて睨み合う二年生二人。お互いのライバル関係に微笑みながら真田はタバコを取り出して火を灯した。
「ここ、禁煙です」
「気のせいだ」と灰皿を出すと真田は脇目も振らず目一杯に吸い込んでニコチンを取り込んだ。
「ったっく……」と呆れながら嵐は視線を真司に移すと「というか真司、なんで反対なんだ?」と問い詰める。
「なんでって、そらまだ公式戦に出れるレベルじゃーねーじゃん」
「それ以上に経験積んだ方が夏の戦力になるだろって言ってんだよ」
「そりゃわかるが、今じゃないだろ。シード権もあるし、経験なら練習試合で積めばいいじゃんか」
「公式戦の経験が必要だって言ってんだよ。もしシード取れなくても、もう一人使える投手がいれば――」
二人の議論が独り歩きを始めたところで「そこまで」とタバコの煙を二人に吐き出して真田が制止する。
「あとは俺が決める。今日は助かった」
――だから最終決定は俺に任せろ。
そう言わんばかりの強い眼差しを二人に向けながら真田はタバコの火を消すと「うぃーっす」と真司は不満を表に出しながらも引き上げる。こうなればもう戦う必要もないよと、嵐も「……いえ」と力なく呟いてその場を後にする。
二人がいなくなったのを見計らうと、真田は「想像以上だな、良くも悪くも」と小さく呟いた。
考えを張り巡らせながら二本目のタバコに火を灯す。
どうしたもんか、と悩みながらため息と一緒に煙を空中に吐き出した。
※
戦に負け、命かながら自分の城へ逃げる兵士の気分だった。
頭を駆け巡る雑念を振り払うかのように、彗は自転車を全力で漕ぐ。通行人や車だけではなく、信号すらも見逃してくれたようで、家まで全く止まることはなかった。
ずっとフルスロットル。ずっと頭が沸騰しそうな熱のまま、彗は自宅近くまで来たところで立ち止まった。
――……いけね。
今日から料理当番は母に戻る。
きっと、輝と朱里はワクワクしながら食卓を囲もうとしているはず。
そんな中で、引きずってちゃ世話無いな、と彗は無理矢理笑顔を作り込んでから玄関に入った。
「たーだいま」
「兄ちゃんおかえりー」
朱里が出迎えてくれる。次いで輝がとことこと玄関までくると「おかえりー……どうしたの?」と出迎えながら首を傾げた。
「あ? なにが?」
「なんか疲れてるじゃん」
「……久々のがっちりとした練習だったからじゃねーかな」
上手く言葉絵を取り繕いながら靴を脱ぐと「伊達に何年も兄妹やってないな」と小さく笑いながら自分の部屋に向かった。
部屋に入ると、大きなため息をついてベッドにボフッと顔を埋める。
悔しさ、不甲斐なさ、自らへの苛立ち、その他諸々。
「あー……!」
枕に口を押し当て、音を殺して吐き出してから部屋着に着替えると、彗はリビングへ向かった。
久々に嗅ぐ香ばしいしょう油とニンニクの匂いが鼻孔を突く。
「お疲れさん! 好きなだけ食べな」
そう言って母が出してくれたのは、彗の大好物である唐揚げだった。
「いや、別に疲れてないよ」
無駄に強がりながら彗はそれを一つ手に取り、口に運ぶ。
久方ぶりの唐揚げは、どこか懐かしい味がした。
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