子飼-秘密の共有-

五嶋樒榴

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春の夜の夢

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シャワーを浴び終え真騎士が部屋に戻ると、晋は誰かと電話をしていたのか慌てて切った。
「仕事の電話」
尋ねもしないのに晋が真騎士に言った。
「そう。大丈夫?」
「うん。明日のことで確認の電話だったから」
晋はそう言うと、スマホのカバーを閉じてリビングテーブルに置いた。
「スマホ変えた?カバーも変わったね」
真騎士が尋ねると晋は頷く。
「新しい機種にしたんだ。だからカバーもサイズ変わったから」
「そっか」
晋のスマホが鳴った。晋はビクッとした。
「電話、かかって来てるよ」
「あ、うん。また仕事かな」
晋の様子がおかしいのは直ぐに分かった。
「はい。……………はい。……………また明日」
晋の会話を聞きながら真騎士はソファに腰掛けていた。
「また仕事の電話?忙しいね。休みの日まで電話来るんだ。前はそんなことなかったよね」
真騎士が言うと晋は俯いた。
「……………ごめんなさい。ごめん」
晋が消え入りそうな声で真騎士に謝る。
「……………誰?」
「……………店長」
「浮気?本気?」
「……………分かんない。ごめんなさい」
「分かんないってどう言うこと?」
「……………寂しかった。飲み会があって、店長に誘われて。断れなかった」
「……………言い訳だよね?」
晋は頷く。
「電話なんだって?」
「……………今何してるんだ?って。友達と楽しんでこいよって」
晋の言葉に真騎士はため息をついた。
「友達って。今日、友達と会うって言ってるんだ。ははは。その店長も、お前に騙されてるわけか。まさか今からセックスしますなんて言えないよね。向こうはお前と付き合ってると思ってるんだからさ!」
真騎士は後半声を張り上げた。晋はビクッとして怯えている。
「ごめんなさい!」
真騎士は立ち上がると着替え始めた。
無性に腹が立ちながら、晋とこれで別れると思った時、麻人の顔が浮かんでそれもまた腹が立つ。

なんで端元さんの顔が浮かぶんだ!
俺は端元さんと浮気してない。
ちゃんと断った。
キスしたけど、俺からしたわけじゃない!

「真騎士。ごめん!本当にごめんなさい!」
「もういい。もう終わりだから。もう余計なこと聞きたくない」
一切遮断するように真騎士は晋の声を聞こうとしない。
「……………でも、辛かったんだ。就職してからは会えないし連絡も減ったし。それに付き合い始めてからもずっと、真騎士、僕といても、いつも気持ちは他に行ってたでしょ?」
晋の言葉に、心の中がざわつく。
「……………」
「真騎士は僕が気付いてないと思ってたでしょ?でも僕は気付いていて目を瞑った。真騎士が好きだったから。でも会えなくなって疑心暗鬼になった。自分が浮気したからかもしれないけど、真騎士も浮気してるんじゃないかって」
「もうやめよう。俺もお前を傷つけてたこと認めるから。寂しい思いさせてごめん。忙しかったじゃ言い訳にならないよね。でももう無理。それは晋も一緒でしょ?どうせならさっき会った時言って欲しかった。もう他に好きな男ができたって」
「ごめん!ごめんなさい!ずるくてごめんなさい!」

ずるいのは俺だ。
春夜を重ねて晋を抱いていたくせに。
晋が感じ取っていた通りなのに。
晋を責められない。

「俺こそずるくてごめん。その店長と幸せにね」
真騎士はそう言うと晋の部屋を出た。
もう、自分には春夜だけがいればいいと思った。
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