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サン

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戸灘との話を終えて、美都子は悔しくて堪らなかった。
もっと簡単に鷹雄を自分の夫に出来ると思っていた。
戸灘の手前、鷹雄の女遊びもなくなると思っていた。
それなのに、唯一の味方であるはずの父に釘を刺され、美都子は自分の思い通りにはことが運ばないのが歯痒い。
美都子は腹立たしい気持ちのまま、水を飲んで落ち着こうと台所へ向かう。
夕飯の後片付けを、女達に混じって摂子も一緒にしていた。

「お水もらえる?」

美都子の声に摂子が反応する。コップに水を注ぐと美都子に黙って渡した。

「せっちゃん。もう真一の世話は良いわ」

美都子の言葉に摂子は顔を強張らせる。

「明日から私が真一の世話をするわ」

突然どうしたのかと、周りにいる女達も美都子を見ている。

「あのッ!しんちゃんのお世話は私が旦那様からお許しを頂いてます」

譲りたくない摂子もムキになる。

「良いと言ってるでしょ。私も真一と仲良くしたいのよ」

なぜ急にそんなふうに思ったのか、摂子は美都子の考えている事が分からない。

「さっきね、お父さんに、鷹雄と結婚したいと言ったのよ」 

勝ち誇ったように美都子は摂子に言う。

「結婚?」

摂子はびっくりして美都子を見る。周りも騒つく。 

「だから、そのために真一に慣れた方がいいでしょ。私は真一の母親になるんだから」

まだ結婚は正式に決まったわけではなかったが、摂子が真っ青になっていて美都子は気分が良くなる。摂子が鷹雄に懐いているのが、顔を見ていてるだけでも腹が立つので、摂子の悲しそうな顔を見るとスカッとする。

「……そうですか。突然だったから、びっくりです。夕方、鷹雄さんも何も言ってなかったし」

摂子の何気ない言葉に美都子はカッとなる。
まるで鷹雄は、なんでも摂子に話しているかの口ぶりに、自慢されているように感じる。

「もう、鷹雄の部屋にも行かないでね!鷹雄の事も真一の事も私がこれからは全てするんだから!」

美都子はそう言って、コップを摂子に押し付けると台所を後にした。

「せっちゃん」

よしえが摂子の背中を撫でる。

「……しんちゃんにお母さんができるのはいい事だよね」

泣きそうな顔で無理に摂子は笑う。
よしえは複雑な気持ちで微笑んで、ただ摂子の背を撫で続けた。
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