彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

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第一章

第15話 法国と帝国

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ルオール法国、首都パルティア。
今代の勇者を召喚したと法国民は喜びを露わにしていた。
街はお祭り騒ぎで至る所に露店が出ていた。
それも全て、召喚された勇者が他の勇者を上回るであろう実力を既に身に着けていたからであった。

他国を上回る戦力を手にしたルオール法国が喜び勇むのも無理はない。
長年アルトバイゼン王国と争い続けており、領土問題は尽きる事がなかったのだ。



時は戻り、丁度黒峰達がリンネ教からの襲撃に遭っていた頃――
ルオール法国の王、ルクレティア・ルオールは召喚に立ち会い目の前に佇む凛々しい女性を見つめる。

召喚魔法陣の中心に立つ女性は甲冑を身に着けており、腰には剣を差している。
髪は金色の長髪で艷やかな髪質だった。

「ここは……?」
「勇者殿、妾の名はルクレティア・ルオール。ここはルオール法国だ。是非とも我が国に力を貸して欲しい」
ルクレティアは単刀直入に勇者へと問い掛けた。
いまいち状況を把握していない勇者、金髪の女性は相手が王だと分かるとすぐに傅く。
その動きは洗練されており、取って付けたような礼ではなかった。

「寡聞にして貴方様の事を知らずご無礼を。私の名はエミリア・テンプルトンと申します。しかし……ここは一体……?」
王に傅くエミリアは現状が理解できず、額には大粒の汗が浮かぶ。
王城の広間にて召喚されたエミリアの周りには、鎧を身に纏う騎士が幾人も並んでいる。

「ああ、すまないな。エミリア、ここはそなたのいた世界とは別世界になる。詳しく説明しても理解が追い付かんだろう。だから今は妾に力を貸してくれる事だけを考えてくれればいい」
王自ら一騎士であるエミリアに頼み事をするなど、彼女がいた世界では考えられなかった。
騎士は王の手足。
すなわち王は騎士を顎で使い、戦に勝利する事だけを考えているものだ。

しかしエミリアの目の前に悠然と立つルクレティアは頭を下げた。
たかが騎士に頭を下げる王が何処にいるのか。
それ程までにこの国は追い込まれているのだと分かる。

「まだ状況が掴めておりませんが、私は祖国に剣を捧げた身。おいそれと主君を鞍替えするなど到底できません」
エミリアの言葉に重く頷いたルクレティアは言葉を続ける。

「分かっている。騎士の格好をしたそなたならばそう言うだろう事は想定済みだ。しかし妾は鞍替えを頼んでいる訳では無いのだ」
「と言いますと?」
「期間限定で良い。我が国の剣となって欲しい。全て終われば元の世界へ戻すと誓おう。頼まれてくれんか?」
ルクレティアの言葉にエミリアは口籠る。
王がこれだけの騎士の前で誓うと言ったのだ。
それを反故にする事は恐らくない。
元の世界へと帰すと約束してくれるのであれば、目の前の王に手を貸しても良いのではないか。
そう考え、エミリアは数秒の沈黙を破った。


「畏まりました。我が剣、貴方様に預けましょう。この身朽ち果てるまで我が剣はこの国を守護すると、誓います」
「誓ってくれるか!そうか……ありがとうエミリア。いや、勇者エミリア。そなたならば一騎当千の活躍を見せてくれるだろう」
ルクレティアは喜びを露わにした。
目の前の騎士は勇者として召喚された。
おおよそ何処かの世界で騎士をしていたであろう彼女であれば、既に力は備わっている。
そこに加えて勇者の力を授かるとなれば、即戦力であることは間違いなかった。

「我が国には敵が多い……アルトバイゼン王国に魔国。他にも敵対する国家は少なくない。しかし国力で劣る我が国はいつも苦戦を強いられる。そこで遂に成功した勇者召喚の魔法……エミリアには期待している」
ルクレティアはほくそ笑んだ。
これでやっとアルトバイゼン王国を相手にしてもそれなりに戦える。
幾度となく領土侵攻していたが、良い成果は得られていない。
それも今日で終わる。


「我が国最高の魔法使いと剣士をエミリアの指南につける。そうだな……2ヶ月後にはアルトバイゼン王国から白星を取るぞ!」
「「「おおおおー!!!」」」
側近や騎士達は握り拳を掲げ雄叫びを上げた。
戦意は上々、後はエミリア次第だとルクレティアの口角は上がった。



――――――――
レブスフィア帝国、帝都ユナイトでは歓喜の声が響く。
勇者を2人召喚したとお触れが回ると当然帝国民は祝いムードに包まれた。
勇者の召喚魔法は生半可な者では行使すら出来ず、出来ても命を落とす可能性が高いと言われている。
そんな中、2人もの勇者を召喚できたのはひとえに優秀な召喚術士のお陰と言えるだろう。

帝城の広間では近衛騎士や宮廷魔導士が笑顔を浮かべていた。
全員の視線は中央の魔法陣へと注がれている。

「な、何が起きたんだ!?」
「……説明を求めます」
召喚された2人の男女は辺りを見回し驚きながらも臨戦態勢を取っていた。

皇帝は杖を2人の勇者へと向けると、魔法の詠唱を口にした。


「護り、封じ、包み込め。堅牢たる結界ソリッドバリア
2人の勇者を中心にすりガラスのような薄い半球状の結界が生成された。
自分達の置かれた状況に、2人の勇者は皇帝を睨みつける。

「暴れられても厄介だ。召喚しておいて早々すまないが安全対策だと思ってくれたまえ」
皇帝の言葉に反発するように、男の勇者が片手を彼へと向けた。

「面白い事してくれるじゃねぇか!俺達姉弟を知らねぇのか!?なら今教えてやるよ!"瓦解せよ"」
男が何やら言葉を放つと皇帝の生み出した結界は崩れるようにして消え去った。
流石に想定外だったのか皇帝は目を見開いて驚く。

「馬鹿な!?上級魔法をいとも簡単に……」
「おいジジイ!俺達を閉じ込めて勝ち誇った顔してんじゃねぇぞ!」
男は片手を皇帝に向けたまま一歩踏み出す。
そんな様子をただ見守るだけで終わるはずがない近衛騎士が数名皇帝の前へと躍り出た。

「ま、待て!この御方をどなたと心得る!」
「知るか!"破砕せよ"」
今度は近衛騎士の持つ剣が粉々に飛び散った。
男はただ片手を上げて言葉を口にしただけだ。

「変わった力を持つ勇者が召喚されたものだな……」
皇帝が呟き指を鳴らすと白黒のローブを羽織った男が何処からか突然現れた。
音もなく気配すら感じさせなかったその男に、勇者は警戒を露わにする。

「どっから出てきやがった……」
「もう辞めなさいロスト。相手が怖がっているわ」
ロストと呼ばれた男は姉を横目に大人しくなる。
力関係は姉であろう女の勇者にある事は明白であった。

「アネキ、こいつら俺達をいきなり召喚しやがったんだぜ?しかも閉じ込めようとバカみてぇな事も――」
「黙りなさい。……さて、まずは説明をしてもらえませんか?」
有無を言わせぬ迫力にロストも口を噤む。
皇帝も女の迫力に少しだけ後ずさる。
とはいえ黙ったままでは何も変わらず、皇帝は意を決して本題へと移った。

「我の名はマゼラン・リ・レブスフィア。この国の皇帝である。そなた達には我が国の勇者として、襲い掛かる敵を薙ぎ払ってほしい。もちろん相応の礼はしよう」
「勇者……?ふふふ、私達を誰だと思っているのですか?英雄と呼ばれた私達の力を欲するのでしたらそう安くはありませんよ」
「……分かっておる。先程の魔法、我は見た事がなかった。あれだけの力を持ってすれば魔国すらもそなた達の相手ではないだろう」
召喚された2人の勇者は既に他を圧倒する力を有している。
皇帝はそんな彼らを仲間に引き入れれば、魔国がどれだけ勢力を広げても負ける事はないと考えていた。

「そなた達の求める物、何でも用意しよう」
「何でも……?なかなか大きく出たものですね皇帝陛下。私達を、悪鬼羅刹と呼ばれた英雄に力を借りるというのは生半可な謝礼ではすみませんよ?」
「これでも我が国は裕福な方でな……莫大な金品を求められても用意できる」
これだけの力を持つ2人は何としても欲しい。
噂ではアルトバイゼン王国が5人もの勇者召喚に成功したと聞いている皇帝は、この2人は絶対に逃したくない人材であり国庫を半分以上使ってでも契約を結ぶつもりであった。

「おい……アネキ。どうすんだ?どうせ元の世界に帰った所で雑魚ばっかだぜ。それならこの提案乗っても面白いかもしれないぜ?」
ロストは意外にも乗り気であり、どちらかと言えば姉の方が顎に手を当て難しい顔を見せていた。

「……分かりました。貴方達の国に力を貸します。謝礼は後ほど決めるとして、まずは名乗りましょう。私はカミラ、こっちの愚弟はロスト。元の世界で私達2人は悪鬼羅刹の英雄と呼ばれていました」
「悪鬼羅刹の英雄、か。カミラ殿ロスト殿、快い返事有り難く思う。まずはこちらに手を当ててくれないか?」
カミラも案外普通に力を貸してくれると口にしたお陰で、広間に詰める騎士達にもホッとした顔が浮かんでいた。
皇帝は水晶を差し出し、手を翳すよう促すと疑心暗鬼の目を向けながら2人は手を当てた。


「ロスト殿、黒色の紋章剣は1本。カミラ殿は黒色の紋章剣は2本です」
魔導士がそう口にするとその場にいた皇帝を含む全ての者が呆気にとられた。
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