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17.後宮という箱庭

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数日して、私の後宮見学会が決まった
カイリ殿下がフェンさんと一緒に迎えに来る
裏門に出ると、フェンさんが跪いて私を迎えた

「マリア様のことを存じ上げないとはいえ、今までの御無礼の数々、申し訳ございませんでした。どうかお許し頂きたく…」

今までとは違う態度に驚き、慌てて、頭をあげるように言った

「とりあえず、一度門をくぐってみてはどうだ?」
カイリ殿下は意地悪そうにフェンさんに言うと、
「いえ…おそらくは……。」
分かりきってる事だと言わんばかりの口調で、裏門の境界線を越えようとすると、

パチっと静電気みたいな音がして、それ以上前に進めないようだ。見えない壁がそこにはあった。

「ふっ……ダメだな」

殿下はクスッと笑った
家の門を踏み絵にしないで欲しい……

ペンダントのおかげか、フェンさんからトゲトゲしく刺さってくる魔力が感じられない
少しホッとした

後宮へは転移の魔法で向かうようだ
正門へまわると、カイリ殿下は魔法陣を呼び出し、私に手を差し出す。その手を取って目を閉じた。通る時は迷わず足を踏み出す!これで目を開けると到着している。

こんな便利な瞬間移動の魔法って、誰がどうやって設置するんだろ。魔法陣が敷かれたとでしか移動できないらしいけど……魔法って凄い

後宮に到着すると、自然と門が開く
人物の魔力を検知して開く仕組みだ。許可されない者は通ることが出来ない。もちろん許可されてるのは殿下だけなのだが…

門を進むと、大きな噴水がある。その噴水を、中心に、放射状に道が伸び、その先に小ぶりだけど立派な宮殿が円を描くように並んでいる

後宮ってこんな作りなの?

「ここは元々貴族の屋敷だったところだ。その屋敷を後宮用に改装した」

後宮ってそんな造り方するの?

「まずは、メリナのところだな。アルバも一緒にいるだろう」

えーっと、その方々がカイリ殿下のお后候補ってやつでいいんですかね?後宮って、そういうとこ…なんですよね?

赤い薔薇のガーデンアーチをくぐると、玄関にたどり着く
フェンさんが、コンコンっとドアをノックすると、内側からドアが開き、金髪のウェーブヘアの女性が出迎えた

「ようこそいらっしゃいました。人払いは全て済ませてあります。ごゆっくりなさってください」
そう言ってニコリと微笑むと、こちらです。と言って、部屋に案内してくれた。

部屋に通されると、黒髪のウェーブヘアの女性が待っていた

「お待ちしておりました」
と、美しく一礼すると、案内役を務めてくれた女性と並んでソファーに座った

「紹介しよう。黒髪の方がこの赤い薔薇の屋敷の住人、メリナだ。そして、金髪の方がアルバ。一応隣の白薔薇の屋敷に住んでいる」

「こちらがみさきだ。」

カイリ殿下が端的にそれぞれを紹介し終えると、目の前の2人は扇を口元に当て、ニコニコしながら話し始めた

「この娘がみさきさんね?可愛いわ~。ねぇ?アルバちゃん?」
「そうね。意外だったわ。カイリくんは案外カワイイ系がお好みだったのねぇ~ふぅぅん?」

クスクス噂話に花を咲かせるように2人はニヤニヤとこちらを眺めている
そもそも、それぞれの御屋敷があるのに、一緒にいてこんなに仲良しって……。後宮って、なんか妃候補の皆様が、我よ我よとしてるんじゃないの?

「あら。何か困っていそうだわ?」
「きっと、またカイリくんが説明不足なせいよ」

「そうね。だっていつも言葉足らずですものね?」
「かわいい女の子を困らせてはダメよ?」

「みさきさんにきちんと説明されてはいかがです?カイリで・ん・か?」
「きっと、後宮のことも何もお話にならずに連れてきたんじゃありませんか?カイリで・ん・か?」

なんか、このお2人の息ぴったりな攻撃に殿下は後ずさりしそうな勢いだ。
そして、カイリ殿下はゆっくりと口を開いた

「みさき、説明不足だったようだ。すまない……。この2人は貴族の令嬢で、私の幼なじみのようなものだ。まぁ、色々あって、2人にはこの後宮に住んでもらっている」

「その色々をきちんとお話にならないと~」
「だから誤解されるんですよ~」

2人の合いの手が入る

「私たちがお話しましょう。」
「みさきさん?どうぞこちらにいらして?」
私は言われるがまま、2人の間に空けられた1人分の空間に腰を下ろした

「おい……」

陛下を除け者にするような形で話が進む

「この後宮は、表向きには妃となる者が住むとされているけれど、そうであって、そうでないのよ」
「殿下方が自由に行き来できて、癒しをお求めになる。というのがここの後宮よ」


「私とメリナちゃんは小さい頃から仲が良かったわ、だけど、貴族の娘は自由に恋愛も結婚も許されない。ある一定の年齢になれば結婚しなくてはならない」
「でも、私達は2人でずっと一緒に生きていきたかった。他の男の人のところに嫁ぐなんて考えられなかった」


「だから、2人で逃げ出したりもした。」
「でもね、何をしても私たちの貴族の娘としての運命は変えようがなかったの……」


「カイリくんは私たちの屋敷の庭に時々忍び込んできていた子だったのよ…」
「まさか王族の方とは知らなくて、私達は歳も近かったから仲良くなったの」

「ある日、私達は決心したの。2人が一緒に暮らせないなら、2人で天国で暮らしましょうって」
「そして、屋敷の裏に流れる河に身を投げようとしたわ」

「でもね、カイリくんに止められたの」
「2人で過ごせないなら、2人で過ごせる場所に住めばいい。って言って、この屋敷に私たちを住ませてくれたわ」


「お父様達もびっくりだったわね。王太子殿下がお造りになられる後宮に入るんですもの」
「私達はここで2人でずっと一緒に暮らして行けるわ」

2人は思い出話を語り終えると、私に耳打ちをした

『言葉は少ないけれど、優しいお方よ。怖がらないであげてね?』

「もぅいいか……」

「返して欲しいのね……クスクス」
「仲間はずれが寂しいんじゃなくて?……クスクス」

2人にいじられながら、ちょっと拗ねた様子のカイリ殿下が席を立つ

「行くぞ」
そう言って、赤薔薇の屋敷を後にした
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