俺は絶対に男になんてときめかない!~ときめいたら女体化する体質なんてきいてない!~

立花リリオ

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41「幽霊騒動9」

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「…はあ…っ…!」

はっと目を開くと辺りは真っ暗闇で、今の状況を一瞬把握できなかった。
息が上がっていて自然と肩で息をしながら空気を目いっぱい体内に取り込む。まさかと思い手を胸にあてるとむにゅと柔らかな感触が伝わってきた。

寝ようとして意識が落ちた数分後にまた無意識の間に女の姿になっていたようだ。

また、これか…。
はあと深いため息を付くとゆっくりと起き上がった。

汗がびっしょりでくらくらとめまいもしている。
あまり良くない発現の仕方だろうなと知識のない俺でもなんとなくわかった。
この状態が続くと佐々木先生が言っていた取り返しのつかない事になるんじゃないかと背中に悪寒が走る。


スマホを付けて時刻を確認し、連絡先にある司波先生の名前をタップした。
コールして数秒すぐに出てくれてほっとするがそれと同じぐらい申し訳ない気持ちも沸いて来て開口一番に謝罪の言葉が口をついた。

「先生、すみません…また体質が出てしまいました…」
「わかりました、佐々木先生は今日は海寮で当直室にいるのでそちらに向かってもらえますか?佐々木先生には僕から連絡しておきますね。僕もすぐ向かいます」

状況を軽く説明すると、司波先生が安心させるように優しい声音で指示をくれたので了承し電話を切る。
当直室は俺の部屋から数歩の距離だが姿を見られたら困るのでバスタオルを手に取って頭から被るとふうと一つ深呼吸した。

ゆっくりと扉を開き廊下を見渡し人がいないことを確認してから外に出る。
見回りが強化されてるなんて話も出ていた。
慎重にいかないと…。

廊下の窓からも見えないように少しだけ屈んで歩いていると数歩歩いたところで突然背後がまぶしく光った。

「止まれ」

声を掛けられて思わずビクっと震え身体が硬直するように動けなくなる。
背後からライトで照らされているが顔はバスタオルを被っているから見えないはず。

さっき廊下を見た時にはいなかった。
なんで?どこから現れた?

頭の中で考えてもわからない、でも今はそんな事よりどうやってこの場を切り抜けるかだ。
姿を見られたら終わる。

「お前か、噂の幽霊は。噂なんて当てにならないと思っていたがまさか本当にいるとはな。これだけの騒ぎを起こしたんだ、多少の罰則は覚悟しておくんだな。大人しくそのバスタオルを取ってこちらを向け」

この声は…青瀬寮長だ。
普段の柔和なしゃべり方とは違う、淡々と冷えた声色に背筋がぞくりと震えた。

噂の幽霊ってなに?
俺じゃないって…。
何か勘違いされているけど今は姿を見られる訳にはいかない。

ま、まずい。
逃げなきゃ。

どこへ?

佐々木先生のいる当直室に逃げ込みたいがこの距離じゃ逃げた先をばっちり見られてしまうから入るわけにはいかない。
後ろにいる寮長をすり抜けてロビーの方に向かうのは不可能だし、行けたところで締め切られた玄関があるだけでそれ以上逃げ道はない。
ならばイチかバチか階段で2階に行くか?
行けたとしてもどこにも身を隠せる場所がない…。

頭の中で逃げるためにどうするか考え続けるが背後の寮長からの威圧感がすごくて怖気づいた身体が勝手に前へじりじりと動いてしまう。
そんな動きを察知してあっさりと腕を掴まれてしまった。

「無駄だ、逃げることは許さない」
「…っ…」

許さないと言葉通りの強い力で引っ張られて簡単に身体がぐらつきその勢いのまま寮寮の方へ倒れ込む。
力を込めたはずなのに。
今の身体では力を入れてもうまく踏ん張りがきかない。

バスタオルがズルっと滑り落ちそうになってしまいそれだけは死守せねばと慌てて掴まれていない方の手で押さえたらバランスを崩した身体は寮長とぶつかってしまった。

「っ…き、君は…」

思いっきり接触してしまい数秒、何故だか寮長の腕を掴む力が緩んだのでその隙に腕から逃れ距離を取ってじりじりと相手の出方を伺ってみるが寮長はこちらを凝視したまま動かなかった。
幸いバスタオルは押さえていたので顔は見えていないはずだ。

でも依然どこにも逃げ場がない。

「そ、そんなはずは…なぜこんなところに…」
「青瀬くんどうかしましたか?」
「っ!…し、司波先生」

戸惑った様子の寮長の背後から聞き覚えのある声が聞こえてそちらに気を取られた瞬間、俺の近く、どこからか伸びてきた腕にバスタオルごと羽交い絞めにされ引きずり込まれた。
一瞬の事でまったく身体は反応できなかった。
誰なのか、どうして捕まったのか考える間もなく腕の中に捕らわれていた。

ただ怖さだけが身体を支配して小刻みに震えて動けない。

「しー…」

耳元でしーっと囁いた相手は俺の口元を軽く塞ぎながら扉をゆっくり締めると背後から抱き留めたまま扉の向こうの様子を伺っていた。
バスタオルを被っているので相手の姿も、ここがどこなのかもわからないままじっとしていることしかできない。
ドクドクと耳元で心臓が音を立てている。


「い、今ここに、…、いない…?いや階段の方か?」
「誰かいたんですか?」
「司波先生…おそらく例の騒動の人物と見られる者がいましたが……すみません、見失いました…」


そんなやり取りが扉の向こうで聞こえてくるが背後から回された腕はしっかりと俺の事を掴んでいて全く身動きが取れない。

大きな腕は見なくても身体に回された感触でわかった、圧倒的な体格差だ。
抵抗しようにも力が恐怖で全く入らなくてただ大人しくされるがままじっとするしかなかった。

「…手荒な事をして悪かったね。ずっと様子を伺ってたんだけど司波先生がファインプレイしてくれたおかげで君をここへ連れて来られた」

外の様子にほっとしたように息をついてバスタオルを取った佐々木先生が俺の顔を覗き込んだ。
優しく微笑む佐々木先生の姿を目で確かめた瞬間安堵し身体に入っていた力が抜ける。ふにゃっと足から崩れ落ちそうになった俺をしっかりと掴んで膝の上に乗せられた。

じわりとにじんだ涙を見つけると困ったように微笑んで指先で涙を拭われる。

「ごめんね、怖かったね」
「…だ、大丈夫です…びっくりしたけど…」

じっとこちらを見つめる瞳が揺いだ。

「ああ、そんな顔しないで…もう少しうまくやれれば良かったんだけど…」

じわじわとにじむ視界は今にも涙が零れ落ちそうでそれを堪えるので精一杯だったのに、優しい言葉を掛けられて余計に泣きそうになってしまう。

どうしよう。
先生が困っているのに怖さと安心といろんなことが一気に起きすぎて頭の中がまだ整理できない。

そんな様子をじっと見つめていた瞳が近付いてきたと思ったらちゅっと目元にキスをされた。
びっくりしていると両手で顔を包まれる。
冷えたほっぺたがじわじわと温まっていく。
こんなに冷えていたのか。
混乱した頭が少しだけ和らいだ気がした。



「青瀬くん、もしかしたら君の現れる場所に目星がついていたのかもしれないね。俺も廊下を警戒していたけど直前まで気配を感じなかった。さすがは寮長だ」

感心したように佐々木先生が呟く。

「もしかして、この前司波先生の部屋に行く時もこの格好で歩いてたの?」

俺が持っていたバスタオルに気付きそれを広げたバスタオルを頭に被せられた。
真っ白な視界のなかコクリと頷く。

「なるほどね」

掛けられたバスタオルをちらりとめくるときょとんとする俺を見ながらふふっと笑いかけられるが何がなるほどなのか。
一体何の話をしているんだろう。

「可愛いゆうれいさんは君だったのか」

幽霊?なんでここでその話が。

…ん?
今までの会話の流れで何かが繋がりそうになったが意識は背中に回された掌に移ってしまった。
話しながらも震えていた身体を宥めるように背中を優しく擦って落ち着かせようとしてくれていた事に今更ながら気付いた。
俺の震えが止まるまで数分、何気ない会話で俺の緊張をほぐそうとしてくれる先生の優しさは普段のいい加減な調子とは明らかに違っていてなんていうか、胸のあたりがくすぐったいような。
目が合うと優しい眼差しがこちらを見た。

きゅん。

いやいや…。

ちょっと優しくされただけでちょろすぎだろ…。
熱い頬とドキドキする心臓の音にだらだらと焦るように汗が滴る。
これはきっとさっきまで危機的状況にあったせいだ。
吊り橋効果ってすごいなー(棒読み

くそ…治まれよ心臓…。


「さて、応急処置しようか」
「…っ…」
「大丈夫だよ。唇にはキスはしない」
「あ、えっちょっと…」

あからさまに反応して身構える俺に小さく笑いながら瞼や頬にキスをされた。
柔らかい感触が顔中に触れて、ぴくりと瞼が震える。
あまりに優しい触れ方が気恥ずかしくて落ち着かないので目を伏せてプルプルと耐えていると、今度は頬を撫でられた。

そのまま指を滑られて唇に触れる。

軽く指先で押されてちゅっちゅと唇に指を押し当ててくる動作に、否が応にでもキスを意識してしまう。

うう…っ。
やっぱりいちいち動作がえっちだ…。
それにさっきから心臓が騒いでいるせいか、じわじわとお腹の下も熱くなっている気がする。
なんでそこが熱くなるのかわからない。

「…っ……♡♡」

ドキドキする心臓。
何度も押し当てられる指先を思わず吸ってしまった。
一瞬ピクリと唇に触れる指先の動きが止まってちゅっと音を立てて離れて行ったかと思うと、佐々木先生が吐息だけで笑う。

「……ふふ…唇、気になるよね。ここ、俺ので触れたらどんな感じだと思う?」
「…っは、…し、知らない…」

つい、意地を張って思ってもない事を言ってしまった。
なんだか佐々木先生には反抗心というか、素直になれない。
悔しいのだ、見透かされた感じが。
自分の思い通りにならない心臓も、熱くなる身体も。

でもそんな俺の様子も楽しくて仕方がないって顔をしているから、俺はちっとも面白くない。
益々反抗したい気持ちがむくむくと湧いてくる。

ぷいっとそっぽを向いていたら先ほどまで俺の唇に触れていた親指が目の前に差し出された。
意図がわからなくて目の前にある指をじっと見つめているとゆっくりと指先が動くのでつられるように俺の視線もついて行く。

佐々木先生の口元へたどり着くと指先は唇で止まって、俺に見せつけるようにちゅっと音を立てて吸った。

「…っっ…♡♡」

佐々木先生の指が…。
さっきまで俺の唇に触れていた指先が、先生の唇に触れている。
ちゅっと吸い付く唇は柔らかそうに形を変えて指先を包んだ。


は、はああ!?
な、なにしてんの、この人…。

真っ赤になりながらもその光景から目が逸らせない俺を見て楽しそうな声色で笑うともう一度そこに愛おしそうに口付けた。
ドクンと心臓が高鳴って、バクバク全身から音が出ているみたいに喧しくて身体が熱くてくらくらする。

「ふっ、ふふふ…うん、いいね。反応がいい。癖になりそうだな」
「…く、癖に、ならないでください…」

それだけ言い返すのが精一杯だった。
瞳を覗き込みながら佐々木先生が少し思案してから俺に言い聞かせるように囁いた。

「タイムリミットは次の体質が出るまでかな。次体質が発現したら問答無用で俺がリバートして、キスするからね♡」

それはつまりそれまでに相手を見つけてキスしろって事か。

そりゃあさ。
初めての相手って俺も大事だと思うよ。
理想のシチュエーションとかだって考えたことあるし。

でもここ男子校で男しかいないんだよ?

誰とするんだよってばあ…。




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