11 / 24
【3章】1人目攻略完了
2.
しおりを挟む
「あ」
「おう、トロンの嬢ちゃんじゃねえか」
それは、明日の仕込みに足りない材料を至急買いに出た時のこと。見覚えのある姿が向かい側から歩いてきて、無意識のうちに前髪を整える。
「こんにちは、ドラクさん。お仕事帰りですか?」
「まあな」
見上げて問うと、短く答えたドラクさん。すると、一緒にいた人達が私を見て我慢しきれないというように口を開いた。
「ねえねえドラクさんこの子誰すか?」
「まさか、こんな少女に手出してるんじゃ、」
「違えよ。行きつけの喫茶店の看板娘だ」
「あんた、喫茶店なんて洒落たとこ行くのね…」
「……似合わない」
「お前らな…」
テンポの良い会話といつもと違うドラクさんの姿に胸が高鳴りつつ、くすりと笑う。
「ふふ、こぢんまりした店ですが、ぜひいらしてくださいね」
「ええもちろん!今度行かせてもらうわね」
「こんなニコニコの可愛い子がいる店あったなら教えてくださいよ、ドラクさん」
「ほんとほんと」
「好き勝手言いやがって…。はあ、今度な」
「お待ちしてます」
私がそう告げた後、彼はキョロキョロと周りを見てから私を見た。
「そういや、嬢ちゃんは1人で買い物か?」
質問の意図が分からなかったが、深い意味もないだろうと納得して首を縦に振り、"明日の仕込みに足りないものがあるので日が暮れる前にと思いまして"と答えたのだが。
「…危ない」
「本当、ガイの言う通り。この時期すぐに日が落ちちゃうから女の子1人じゃ危ないわ、私達も一緒に行っても良いかしら」
「てか絶対について行くっスよ!?」
ドラクさんと一緒にいた3人が口々にそう言って私に詰め寄るものだから、私は1歩後ろへ引いてしまった。
「え、でもみなさんお仕事終わりでお疲れでは、」
「大丈夫っスよ!俺ら体力には自信あるんで!さ、行きましょ!」
さっと私の隣に並び背中を押した、人懐っこそうな男の人。距離の近さに驚いて、思わずドラクさんを見ると、彼は無言で男の人を私から引き剥がしてさっきまで男の人がいた場所_私の隣_に位置取った。
「おわっ、ちょ、ドラクさん?」
「そうだな、それが良い」
「じゃあお言葉に甘えて…。ありがとうございます」
「まあ…。ふふ、申し遅れたわ。ドラクがリーダーのパーティー、"グランドキャニオン"のマリーよ」
「同じくルークっス!」
「………ガイ」
「シーリルです…って、グランドキャニオンって、え、じゃあ、ドラクさんって、イルマー二侯爵家の…」
褐色の肌に綺麗な銀髪ロングのお姉さんの自己紹介を皮切りに、他の2人も自己紹介をしてくれたのだが、衝撃的な事実が発覚してしまった。
彼らは国内で名前を知らない人はほぼいない有名なパーティーだったから。リーダーのドラク=イルマー二様は現イルマー二侯爵家当主のお兄様で、貴族の血筋ながら冒険者としてその手腕を発揮しているというのは有名な話だ。
私も名前だけは知っていた。しかし彼らは名前は有名だけどあまり積極的に表に出てこないというのもあって、顔を知る機会がなかった。だから今まで気が付かなかったのだ。貴族の方がリーダーというだけで、パーティーメンバーの名前も曖昧だったから、ドラクさんとも結びつかなかった。
そういえば、私が休みで父さんと母さんが店にいる時にドラクさんが来たらしく、店を閉めた後に彼について聞かれたっけ。あの時は何故聞くのかと思ったしそれを訊ねたけれど、2人にはぐらかされたのだ。
両親は知っていたのかもしれない。ドラクさんのことを。
そう思うと、何だか仲間外れにされたような、子供扱いされたような、世間知らずと言われたような、いろんな気持ちが混ざる。 私の様子を見て、銀髪ロングのお姉さん…マリーさんが口を開いた。
「ねえドラク、そんな自己紹介もしてなかったの?」
「する必要ねえだろうが」
「こんな驚いちゃって可哀想っス…」
「い、い、今まで大変なご無礼を…!!!」
ドラクさんの方を見て頭を下げようとするとそれを手で制されてしまった。
「あーあーあー、気にすんな、大丈夫だから」
「でも、そんな、ただの平民が、」
「こうなるから言わなかったんだよ」
「気持ちは分からないでもないけどさーあ」
「嬢ちゃん、俺は身分とか無しであんたの店に行ってる。最初はマディとの約束を果たすためだったが、今は好きで行ってんだ。特別扱いは求めてねえし、権利を振りかざすようなことは絶対にしねえ。約束する。だからいつも通り頼む」
「そうよ、そういうのドラクが1番嫌ってるやつだもの。気にしなくて良いわ」
「…ただの冒険者ドラクとして見てやれ」
「……うう、努力…します」
「はっは、頼んだぜ」
震えながらそう答えた私に、ドラクさんは楽しそうに笑ったのだった。
「……うっわそんな顔初めて見た……ドラクさん、その子に手出すのは犯罪級っスよ」
「そんなんじゃねえよ、娘みたいなもんだ」
「…、ふふ、良くして頂いてます」
「ほら、親も心配すんだろ、さっさと行くぞ」
「はい、そうしましょう」
"娘みたいなもん"
そうだ。年の差があるという事実は私の恋心に関係はないけれど、彼にとっては関係のあることで。
「………地雷」
「可哀想に、こんな男に引っかかって…。何が良いんだか分かんないけど顔は良い方…なのかしら」
「シーリルちゃんの気持ちに気付いてないでしょあれ。罪深いっスね、ドラクさん」
自分の気持ちを隠して笑うのに精一杯だった私は、後ろを歩く彼らのそんな言葉は聞こえなかった。
「おう、トロンの嬢ちゃんじゃねえか」
それは、明日の仕込みに足りない材料を至急買いに出た時のこと。見覚えのある姿が向かい側から歩いてきて、無意識のうちに前髪を整える。
「こんにちは、ドラクさん。お仕事帰りですか?」
「まあな」
見上げて問うと、短く答えたドラクさん。すると、一緒にいた人達が私を見て我慢しきれないというように口を開いた。
「ねえねえドラクさんこの子誰すか?」
「まさか、こんな少女に手出してるんじゃ、」
「違えよ。行きつけの喫茶店の看板娘だ」
「あんた、喫茶店なんて洒落たとこ行くのね…」
「……似合わない」
「お前らな…」
テンポの良い会話といつもと違うドラクさんの姿に胸が高鳴りつつ、くすりと笑う。
「ふふ、こぢんまりした店ですが、ぜひいらしてくださいね」
「ええもちろん!今度行かせてもらうわね」
「こんなニコニコの可愛い子がいる店あったなら教えてくださいよ、ドラクさん」
「ほんとほんと」
「好き勝手言いやがって…。はあ、今度な」
「お待ちしてます」
私がそう告げた後、彼はキョロキョロと周りを見てから私を見た。
「そういや、嬢ちゃんは1人で買い物か?」
質問の意図が分からなかったが、深い意味もないだろうと納得して首を縦に振り、"明日の仕込みに足りないものがあるので日が暮れる前にと思いまして"と答えたのだが。
「…危ない」
「本当、ガイの言う通り。この時期すぐに日が落ちちゃうから女の子1人じゃ危ないわ、私達も一緒に行っても良いかしら」
「てか絶対について行くっスよ!?」
ドラクさんと一緒にいた3人が口々にそう言って私に詰め寄るものだから、私は1歩後ろへ引いてしまった。
「え、でもみなさんお仕事終わりでお疲れでは、」
「大丈夫っスよ!俺ら体力には自信あるんで!さ、行きましょ!」
さっと私の隣に並び背中を押した、人懐っこそうな男の人。距離の近さに驚いて、思わずドラクさんを見ると、彼は無言で男の人を私から引き剥がしてさっきまで男の人がいた場所_私の隣_に位置取った。
「おわっ、ちょ、ドラクさん?」
「そうだな、それが良い」
「じゃあお言葉に甘えて…。ありがとうございます」
「まあ…。ふふ、申し遅れたわ。ドラクがリーダーのパーティー、"グランドキャニオン"のマリーよ」
「同じくルークっス!」
「………ガイ」
「シーリルです…って、グランドキャニオンって、え、じゃあ、ドラクさんって、イルマー二侯爵家の…」
褐色の肌に綺麗な銀髪ロングのお姉さんの自己紹介を皮切りに、他の2人も自己紹介をしてくれたのだが、衝撃的な事実が発覚してしまった。
彼らは国内で名前を知らない人はほぼいない有名なパーティーだったから。リーダーのドラク=イルマー二様は現イルマー二侯爵家当主のお兄様で、貴族の血筋ながら冒険者としてその手腕を発揮しているというのは有名な話だ。
私も名前だけは知っていた。しかし彼らは名前は有名だけどあまり積極的に表に出てこないというのもあって、顔を知る機会がなかった。だから今まで気が付かなかったのだ。貴族の方がリーダーというだけで、パーティーメンバーの名前も曖昧だったから、ドラクさんとも結びつかなかった。
そういえば、私が休みで父さんと母さんが店にいる時にドラクさんが来たらしく、店を閉めた後に彼について聞かれたっけ。あの時は何故聞くのかと思ったしそれを訊ねたけれど、2人にはぐらかされたのだ。
両親は知っていたのかもしれない。ドラクさんのことを。
そう思うと、何だか仲間外れにされたような、子供扱いされたような、世間知らずと言われたような、いろんな気持ちが混ざる。 私の様子を見て、銀髪ロングのお姉さん…マリーさんが口を開いた。
「ねえドラク、そんな自己紹介もしてなかったの?」
「する必要ねえだろうが」
「こんな驚いちゃって可哀想っス…」
「い、い、今まで大変なご無礼を…!!!」
ドラクさんの方を見て頭を下げようとするとそれを手で制されてしまった。
「あーあーあー、気にすんな、大丈夫だから」
「でも、そんな、ただの平民が、」
「こうなるから言わなかったんだよ」
「気持ちは分からないでもないけどさーあ」
「嬢ちゃん、俺は身分とか無しであんたの店に行ってる。最初はマディとの約束を果たすためだったが、今は好きで行ってんだ。特別扱いは求めてねえし、権利を振りかざすようなことは絶対にしねえ。約束する。だからいつも通り頼む」
「そうよ、そういうのドラクが1番嫌ってるやつだもの。気にしなくて良いわ」
「…ただの冒険者ドラクとして見てやれ」
「……うう、努力…します」
「はっは、頼んだぜ」
震えながらそう答えた私に、ドラクさんは楽しそうに笑ったのだった。
「……うっわそんな顔初めて見た……ドラクさん、その子に手出すのは犯罪級っスよ」
「そんなんじゃねえよ、娘みたいなもんだ」
「…、ふふ、良くして頂いてます」
「ほら、親も心配すんだろ、さっさと行くぞ」
「はい、そうしましょう」
"娘みたいなもん"
そうだ。年の差があるという事実は私の恋心に関係はないけれど、彼にとっては関係のあることで。
「………地雷」
「可哀想に、こんな男に引っかかって…。何が良いんだか分かんないけど顔は良い方…なのかしら」
「シーリルちゃんの気持ちに気付いてないでしょあれ。罪深いっスね、ドラクさん」
自分の気持ちを隠して笑うのに精一杯だった私は、後ろを歩く彼らのそんな言葉は聞こえなかった。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
【R18】青き竜の溺愛花嫁 ー竜族に生贄として捧げられたと思っていたのに、旦那様が甘すぎるー
夕月
恋愛
聖女の力を持たずに生まれてきたシェイラは、竜族の生贄となるべく育てられた。
成人を迎えたその日、生贄として捧げられたシェイラの前にあらわれたのは、大きく美しい青い竜。
そのまま喰われると思っていたのに、彼は人の姿となり、シェイラを花嫁だと言った――。
虐げられていたヒロイン(本人に自覚無し)が、竜族の国で本当の幸せを掴むまで。
ヒーローは竜の姿になることもありますが、Rシーンは人型のみです。
大人描写のある回には★をつけます。
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています
朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。
颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。
結婚してみると超一方的な溺愛が始まり……
「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」
冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。
別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる