上 下
2 / 30
青空の向こう

第1話

しおりを挟む


 僕にはわからなかった。

 彼女が空を見上げる理由が。


 「明日天気が晴れたら」


 そう、彼女は話す。

 飾り気のない笑顔で、海が見える場所まで行こうと言った。

 瀬戸内海の海。

 僕たちが住んでいる、街の丘の向こうへ。


 「もし私が死んだら、骨は海に撒いてな?」

 「縁起でもないこと言うなや」

 「仮にの話や」

 「仮にもクソもあらへん。そんな話聞きたないわ」

 「心配してくれとるんや?」

 「当たり前や!」


 彼女はいつも気丈に振る舞ってた。

 彼女らしいと言えば、彼女らしい。

 子供の頃からだ。

 どんなことにも前向きで、まっすぐ何かを追いかけて。

 僕はいつも、彼女の背中を追いかけてた。

 向こう見ずなその姿に惹かれ、彼女みたいになりたいと思った。


 「甲子園」に行く。


 その夢を思い描いたのは、夏の季節の下、サンダルを脱ぎ捨て、裸足で海岸を走る彼女の後ろを姿を見た時だった。

 僕は彼女の後ろ姿に、雲ひとつない空の青さを見た。

 


しおりを挟む

処理中です...