英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

坂合奏

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Episode08:I don't know own feeling

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 明け方に目が覚めた。

 きっとひどい顔をしているだろう。

 こっそり部屋を抜け出して、洗面所へと足を運ぶ。

 案の定、目が思い切り腫れていた。

「……ひどい顔」

 もう涙は出てこなかった。

 前の恋人と別れた時でも、これほどまで涙は溢れてこなかった。
 
 独りよがりだったとはいえ、こんなにも想える相手がいたということは、いいことなのかもしれない。

 このまま大人しくしていれば、ジャンと結婚をすることができる。

 こんなに好きになれた人と、一緒に生涯を共にできるのだから、それでいいではないか。

 萌衣は、心の中でそっと自分に言い聞かせた。

 いいんだ。

 これで、いい。

 きっと、萌衣さえ我慢していれば、いつかジャンは萌衣の方を向いてくれるかもしれない。

 だから、それまでジャンの望むいい妻を演じよう。 

 新しいタオルを取り出して、熱いお湯で濡らして瞳にあてる。

 明日の朝一で会議があるのだ。

 真っ赤に腫らした瞳のまま仕事に行くわけにはいかない。

 いや、休んでしまうのもいいかもしれない。

 有給だってまだたくさん残っているし、気持ちを切り替えたといっても、仕事中とはいえ、ジャンの顔を見るのは今はつらい。

 ずっと勤勉に働いてきたではないか。

 一日くらい休んだところで、クビにはならないだろう。

 クビになっても、もうどうでもいいが。

 時計を見ると、もう始発は動き出している。

 どこかに一人で出かけてしまうのもいいかもしれない。

 ジャンのいないどこかの場所へ。

 気持ちが落ち着いたら、明るく元気な姿で、積極的に結婚式のことも決めて、TOMOKAとだって、笑顔で……。

「ううっ……」

 思い出したくないのに。

 昨日のことなんか思い出したくない。

 溢れ出そうになる涙を、ホットタオルでぐっと抑え込み、涙が引っ込んだと確認したと同時に萌衣は、スマートフォンで行きたい場所を検索した。

 しかし、特になにも見つからない。

 こんな時まで、自分の気持ちが分からないなんて逆に笑えてくる。

 このままもたもたしていたら、ジャンが目覚めて起きてきてしまう。

 その前に家を出たかった。

 まだ目が腫れているが、サングラスをしてしまえばいいだろう。

 萌衣は、ホットタオルを洗濯機の中に入れて、自室に戻って出かける準備をした。

 化粧もせず、サングラスで瞳を隠して、萌衣は家をそっと出る。

 明け方の空は、太陽が赤紫色に照らしていた。

「綺麗……」

 朝焼けなんて見たのはいつぶりだろうか。

 高層マンションから見える東京の景色は、萌衣のこれからの人生を照らしてくれているように思えた。
 

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