英雄王と鳥籠の中の姫君

坂合奏

文字の大きさ
45 / 57
episode08:隠した嘘と作戦

2

しおりを挟む

 数日後、前王政派閥の数名の人間がアダブランカ王国騎士団によって、捕らえられた。

 前王政派閥の人間達が、尋問によって吐いたのは、資金源はグランドール王国からだということだった。

 これによってクノリス王が宣言していた、グランドール王国との開戦は本格的な話となり、反対派の人間達も意見を賛成に変えざる得ない状況となってしまった。 

 グランドール王国出身であるリーリエは、クノリスによって再び王宮の一室に隠されている状態である。

 婚儀の儀式は、次の満月まで延長されることとなってしまった。

 婚儀の儀式が延期になったことで、ダットーリオは国に帰ってしまった。

「大変な状況になってしまいましたが、お気を落とさずにいきましょう」

 メノーラが気を使ってリーリエを励ましてくれた。

 ミーナはまだ復帰をしていない。

 復帰をしたとしても、リーリエを守れなかったという理由で、リーリエの側近になることはクノリスが許さないだろう。

 全てがマイナスの方向へ向かっている。

「メノーラ。私……どうしたらいいか」

「お気持ち分かります」

 メノーラが気持ちに寄り添ってくれたことで、リーリエは、初めて涙をこぼして泣いた。

「泣いても……どうしようもないって分かっているのだけど」

「いいんです。泣いてください!泣いて当然です!私だって悲しいです」

 メノーラの瞳からも大粒の涙が溢れだした。

 母が亡くなって以来、リーリエは初めて声を上げて泣いた。
 一緒に泣くメノーラもあまりに泣くので、声を聞いて慌てたアンドレアが部屋の中に飛び込んでくるほどだった。

 大泣きしているリーリエを見て、アンドレアは気まずそうな表情でリーリエに濡れた顔をハンカチで拭くように促し、一緒に泣いているメノーラに「何があったんですか?」と厳しい表情で尋ねた。

 ひとしきり泣いた後、リーリエとメノーラは、目と鼻を真っ赤にした状態で授業を再開した。

 はたから見たらあまりの情緒不安定さに、見たものは戸惑うほどだった。

「アンドレア。あなたは下がっていてください」

 泣き腫らした目でリーリエが訴えると「ですが……」とアンドレアは困惑している様子だった。

「聞こえませんでしたか?下がっていなさいと言ったんです」 

 珍しく大きな声を出したリーリエの言葉に、アンドレアは頭を下げて部屋を出て行った。

「メノーラ」

「なんですか?」

「お願い。力を貸して。私は、やっぱり戦争は嫌。例えどんなに祖国が憎くても」

「承知しました。考えましょう」

 メノーラは泣き腫らした瞳を袖で拭った後、大きく頷いた。


***


 メノーラがいくら力を貸してくれると言っていても、王宮の講師では出来ることはたかが知れている。

 一番早いのは、大臣であるメノーラの父であるイーデラフト公爵に協力を仰ぐことだった。

「まずは私の方からお父様に話が出来るようにお伝えいたしますわ」

「ありがとう」

「リーリエ様。最終目標を決めましょう。リーリエ様は、どこを目標にいたしますか?クノリス様の目標は、奴隷制度を全土で停止すること。そのために、グランドール王国の権力を戦争によって自分の手中に収めるということです」

 メノーラはアダブランカ王国の現状について詳しく説明し始めた。

 クノリスのしようとしていることは、全部が悪いことではない。

 奴隷制度が撤廃されれば、救われる命は多いだろう。

 戦争が手段だということも分かっている。

 だが、戦争を反対している人間達が国内でいるのにも関わらず、戦争を行うこと。

 そして、グランドール王国との戦でアダブランカ王国が劣勢になり、クノリスが捕まることにでもなれば、クノリスは奴隷として公開処刑されるだろう。

 彼が元奴隷だと知っているのは、ダットーリオとリーリエだけだ。

 元奴隷の王ということがアダブランカ王国に広まれば、これを期に奴隷制度に賛成していた国が、一斉にアダブランカ王国に攻め入るに違いなかった。

「私は、話し合いでの解決を求めたい」

「なるほど。ですが、聞いたところによると、相手側は話し合いの席をもうけようとしていないではありませんか?私たちでは知り得ないグランドール王国の弱点はありませんでしょうか?」

「弱点ってほどではないけれど……」

 リーリエは、モルガナ王妃の日記を取り出してメノーラに手渡した。

 メノーラはその日記を見ると「なんと!」と興奮気味で読み漁っている。

「とんでもないプライベートダイアリーですわ!そういうことだったんですね!納得がいきました!」

「どういうこと?」

「おそらくグランドール王国の件は、グランドール王国第一王妃であるモルガナの故郷であるドルマン王国が裏で操作している形なのでしょう。モルガナ妃の権力が城の中で強かったんじゃないでしょうか?」

「ええ。その通りよ」

「このノルフという男を捕らえられるといいのですが……。私たちだけでは無理ですね。人を使いましょう。ちょうど仕事を失っている男を二人ほど知っていますわ」

 メノーラは、今までに見たことがないほど生き生きとした表情で、リーリエに笑って見せた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

処理中です...