34 / 57
episode06:非情な来訪者
2
しおりを挟むダットーリオは、婚儀の儀式に参加した後、国に戻ることになっている。
それまでは、長期滞在としてアダブランカ王国にいるのだそうだ。
「前王の派閥がまた活発に動いているのだろう。アダブランカ王国という国もなかなか落ち着かないなあ」
リーリエがトスカニーニ王国へ案内された日から、随分と日にちが経ったが、未だに前王政派閥の人間の尻尾はつかめていない。
結婚式の前には片付けたいと意気込んでいたクノリスも、すっかり頭を悩ませている状態だった。
「ダットーリオ……」
「なんだ?クノリス。遠慮はしないでいい。朝食はこんなにたくさんあるのだからな」
「そういうことを言いたいんじゃない。分かっているのに、わざと嫌がらせをするのをやめろ」
「自分の妻になるであろう女性と一緒にいちゃつきたいなんて理由で、同盟国であるイタカリーナ王国の皇太子を放置するとは、ずいぶんとアダブランカ王国も偉くなったものじゃないか」
余裕しゃくしゃくと、ダットーリオは食事を続け、ミーナにお茶のお替りを求めた。
クノリスはわざとらしく大きなため息をついたが、ダットーリオは無視を決め込んでいるので諦めたようだった。
和やかに、食事が進んでいると思われた時だった。
「お食事中に大変申し訳ありません……!」と血相を変えたアンドレアが、部屋の中に入って来た。
「どうした、アンドレア?」
あまりに慌てるアンドレアに、クノリスは落ち着いた表情で尋ねる。
アンドレアは、一度リーリエを見た後、クノリスに用件を耳打ちした。
「なんだと?」
アンドレアの用件を聞いたクノリスは、驚いたように声を上げて「俺は一旦ここで失礼する」と席を立った。
「どうしたの?」
クノリスは、食事に来なかったことがあっても、食事の途中で席を外すということが初めてだったので、リーリエは不安げな表情でクノリスを見た。
「君のお嫁さん候補は、今日一日私が預かろう」
突然ダットーリオが声をあげると「すまない……ダットーリオ」とクノリスが言葉を漏らし、リーリエの頭にキスを落とした後、アンドレアと共に部屋を出て行った。
「何があったんでしょうか……」
理由を教えてもらえなかったリーリエの心の中は不安な気持ちでいっぱいだった。
ダットーリオは、外の景色を眺めながらお茶を飲んでいる。
「リーリエ様。本日の授業が始まりますので、そろそろ」
「え、ええ」
リーリエが腰を上げると、ダットーリオが「私も同行しよう。君の受けている授業とやらに興味があるな」と笑顔で言った。
***
メノーラは、突然ダットーリオが授業に参加するというので大慌てだった。
「君の授業の質で、今後のアダブランカ王国の質が決まるのだからな。楽しみにさせていただくよ」
「は……はい!私、もちろんでございます!」
完全に委縮してしまっているメノーラに、ダットーリオはリーリエよりも前のめりに授業に参加し、質問という名の意地悪をして楽しんでいるようだった。
午後になると、散歩の時間がやって来た。
城の中に一日中籠っていると身体の疲れが取れないので、一日に一回は庭を散歩するようにしているのだ。
「今日は、外に出ない方がよさそうだ。君のスケジュールを変更させてくれ」
ダットーリオはそれだけ言うと、ミーナにボードゲームとお茶の準備をするように指示をした。
散々授業でイジメられたメノーラは、意気消沈している。
ミーナが指示されたボードゲームと、お茶を持って戻ってくると、ダットーリオは「さて、みんなでゲームでもしようか」と隅に座って落ち込んでいるメノーラにも声をかけた。
生まれて初めてボードゲームというものをしたのだが、なかなか面白いものだった。
提案者のダットーリオはもちろん強かったのだが、ダットーリオに引けを取らないほど強かったのは意外にもミーナだった。
「教師は彼女じゃなくて、君の方がいいんじゃないか?」
ダットーリオはメノーラの前で楽しそうに、ミーナに言った。
「そうやって相手を混乱させようとする手を何度も使うと、つまらない男に見えますよ。殿下」
「言ってくれるね」
「手の内を見せすぎです。ところで、こちらの駒ががら空きのようですが、私が頂いても?」
「それが誘導だとは思わないのか?君は」
「あらまあ、無駄なおしゃべりばかりしているので、殿下がそんなに優秀だと思っておりませんでした」
見ているこちらがハラハラするような会話を繰り広げていたが、ダットーリオが怒るような気配は見受けられなかった。
「リーリエ様……ミーナさんって一体何者なんですの?」
驚いたメノーラが、リーリエに質問してきたが、全く同じ疑問をリーリエもミーナに抱いていたため質問には答えられなかった。
結局勝負がつかないまま対戦が終わり「では次リーリエ様どうぞ」と満面の笑みでミーナに言われた時、リーリエは思わず後退ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』
鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。
だからこそ転生後に誓った――
「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。
気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。
「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」
――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。
なぜか気づけば、
・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変
・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功
・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす
・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末
「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」
自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、
“やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。
一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、
実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。
「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」
働かないつもりだった貴族夫人が、
自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。
これは、
何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる