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episode06:非情な来訪者
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「いつまでそんな場所でグタグタしているの?あなたは、今日から親がいないただの厄介者よ。さっさと自分の食いぶちくらいは働きなさいよ」
母親のサーシャが亡くなった後、第一王妃であるモルガナがリーリエの部屋の中にやって来て、冷ややかに言い放った。
冷たくなった母親の亡骸と離れたばかりのリーリエは、涙を拭いて「分かりました」と小さな声で答えた。
幼いリーリエですら、母親が亡くなった今助けてくれる人物は誰一人いないことを理解していたのだ。
母親の亡骸は、母親の祖国であるノーランド王国に引き取られていった。
本当は一緒にリーリエも母親の祖国に行きたかったのだが、父親のレオポルド三世が「リーリエはグランドール王国の人間である」と頑なに、ノーランド行きを拒否したのだ。
ノーランド王国の姫君であったサーシャがいなくなったことで、今までノーランド王国からあった監視が消えた。
それと同時に、今まで息を潜めていた第一王妃のモルガナの毒牙がリーリエに降りかかったのである。
身なりを粗末にさせられて、朝から晩まで奴隷達と同じように扱われた。
「何やってんの!違うわよ!」
少しでもモルガナの気分に沿わないことをすると、モルガナは容赦なくリーリエを鞭で叩いた。
「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」
腫れあがった腕を隠すと、それを理由にヒールのある靴でリーリエの顔は蹴り飛ばされた。
傷の手当をしてくれる侍女はいなかったので、夜自分のベッドで、痛みを我慢して泣きながら眠った。
パーティーなど他国も交える時などは、身なりをそれなりに整えられて、亡き第三王女の娘リーリエとして紹介された。
挨拶が終わると、すぐに別室に移されて豪華な衣装は脱ぐように命令される。
人目を盗んで自室へ戻り、モルガナに言いつけられていた仕事をするのだった。
***
「起きたか?」
目を開けるとクノリスが愛おしそうな表情で、リーリエのことを見ていた。
キスをしたあの日から、寝室を一緒にされてしまった。
一緒と言っても、リーリエがクノリスの部屋で寝ているだけなのだが。
「今、起きました……」
夢を見ていたようだった。
グランドール王国にいた時の、消そうとしても消せない記憶。
「うなされていたぞ。だいぶな」
「嫌な夢を見てしまって……」
「どんな夢だ?」
「……忘れてしまいました」
リーリエは嘘をついた。
クノリスには、リーリエがどのような扱いをされていたかは、言いたくない。
昔、リーリエは母親と一緒に奴隷であったクノリスを解放した。
その後、リーリエがされていた仕打ちを彼にわざわざ教える必要はない。
「祖国にいた時の夢か?」
「……」
リーリエが黙っているので、クノリスは「正解か」と小さく呟いた。
「祖国の夢でしたが、もう記憶がおぼろげです」
「話したくないなら、話す必要はない」
クノリスはリーリエを慰めるように、抱きしめた。
「あなたは……」
「なんだ?」
「グランドール王国にいた時のことを夢に見る?」
リーリエが質問をすると、クノリスはしばらく沈黙した後「たまにな」と答えた。
クノリスがどのような場所で、どのような状態でいたかをリーリエは覚えている。
母と一緒に切った鎖。
迫りくる炎。
「ひどい国……なくなってしまえばいいのに」
今まで我慢していた言葉を、リーリエは口に出した。
グランドール王国で、そのようなことを言っていると誰かに聞かれでもしたら、どのような目にあうか分からなかった。
クノリスは、リーリエの言葉には答えず、代わりに額にキスを落とした。
簡単にグランドール王国を攻め落とせないということは重々にリーリエも分かっていた。
メノーラの授業にて、最近習ったのだ。
第一王妃のモルガナは、大国ドルマン王国出身の人間であるということ。
ドルマン王国は、奴隷大国の先進でもある。
グランドール王国の多くの奴隷が、ドルマン王国に売られていた。
軍力、財力共にアダブランカ王国と同等の力を持つドルマン王国。
グランドール王国に手を出せば、背後にドルマン王国が控えている。
理由もなしに、グランドール王国に手を出すことは、できないのだ。
きっと、メノーラの授業を受けたせいで、昔の嫌な夢を見たのだろ。
リーリエは枕に顔を埋め「嫌な気持ちにさせてごめんなさい」とクノリスに謝罪した。
母親のサーシャが亡くなった後、第一王妃であるモルガナがリーリエの部屋の中にやって来て、冷ややかに言い放った。
冷たくなった母親の亡骸と離れたばかりのリーリエは、涙を拭いて「分かりました」と小さな声で答えた。
幼いリーリエですら、母親が亡くなった今助けてくれる人物は誰一人いないことを理解していたのだ。
母親の亡骸は、母親の祖国であるノーランド王国に引き取られていった。
本当は一緒にリーリエも母親の祖国に行きたかったのだが、父親のレオポルド三世が「リーリエはグランドール王国の人間である」と頑なに、ノーランド行きを拒否したのだ。
ノーランド王国の姫君であったサーシャがいなくなったことで、今までノーランド王国からあった監視が消えた。
それと同時に、今まで息を潜めていた第一王妃のモルガナの毒牙がリーリエに降りかかったのである。
身なりを粗末にさせられて、朝から晩まで奴隷達と同じように扱われた。
「何やってんの!違うわよ!」
少しでもモルガナの気分に沿わないことをすると、モルガナは容赦なくリーリエを鞭で叩いた。
「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」
腫れあがった腕を隠すと、それを理由にヒールのある靴でリーリエの顔は蹴り飛ばされた。
傷の手当をしてくれる侍女はいなかったので、夜自分のベッドで、痛みを我慢して泣きながら眠った。
パーティーなど他国も交える時などは、身なりをそれなりに整えられて、亡き第三王女の娘リーリエとして紹介された。
挨拶が終わると、すぐに別室に移されて豪華な衣装は脱ぐように命令される。
人目を盗んで自室へ戻り、モルガナに言いつけられていた仕事をするのだった。
***
「起きたか?」
目を開けるとクノリスが愛おしそうな表情で、リーリエのことを見ていた。
キスをしたあの日から、寝室を一緒にされてしまった。
一緒と言っても、リーリエがクノリスの部屋で寝ているだけなのだが。
「今、起きました……」
夢を見ていたようだった。
グランドール王国にいた時の、消そうとしても消せない記憶。
「うなされていたぞ。だいぶな」
「嫌な夢を見てしまって……」
「どんな夢だ?」
「……忘れてしまいました」
リーリエは嘘をついた。
クノリスには、リーリエがどのような扱いをされていたかは、言いたくない。
昔、リーリエは母親と一緒に奴隷であったクノリスを解放した。
その後、リーリエがされていた仕打ちを彼にわざわざ教える必要はない。
「祖国にいた時の夢か?」
「……」
リーリエが黙っているので、クノリスは「正解か」と小さく呟いた。
「祖国の夢でしたが、もう記憶がおぼろげです」
「話したくないなら、話す必要はない」
クノリスはリーリエを慰めるように、抱きしめた。
「あなたは……」
「なんだ?」
「グランドール王国にいた時のことを夢に見る?」
リーリエが質問をすると、クノリスはしばらく沈黙した後「たまにな」と答えた。
クノリスがどのような場所で、どのような状態でいたかをリーリエは覚えている。
母と一緒に切った鎖。
迫りくる炎。
「ひどい国……なくなってしまえばいいのに」
今まで我慢していた言葉を、リーリエは口に出した。
グランドール王国で、そのようなことを言っていると誰かに聞かれでもしたら、どのような目にあうか分からなかった。
クノリスは、リーリエの言葉には答えず、代わりに額にキスを落とした。
簡単にグランドール王国を攻め落とせないということは重々にリーリエも分かっていた。
メノーラの授業にて、最近習ったのだ。
第一王妃のモルガナは、大国ドルマン王国出身の人間であるということ。
ドルマン王国は、奴隷大国の先進でもある。
グランドール王国の多くの奴隷が、ドルマン王国に売られていた。
軍力、財力共にアダブランカ王国と同等の力を持つドルマン王国。
グランドール王国に手を出せば、背後にドルマン王国が控えている。
理由もなしに、グランドール王国に手を出すことは、できないのだ。
きっと、メノーラの授業を受けたせいで、昔の嫌な夢を見たのだろ。
リーリエは枕に顔を埋め「嫌な気持ちにさせてごめんなさい」とクノリスに謝罪した。
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