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第1章 守護龍の謎
第37話 喪失
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「アイシア!」
『いつまでも寝てられないでしょ? ウチが隙を作るから、ロイはちゃんとこいつにトドメをさしなさい?』
「任せていいのか?」
『もちろん。フラウと一体化したあなたはもう妹同然。家族は守らないとね』
「ありがとよ、頼んだぜ!」
『うん!』
俺の言葉を聞いたアイシアはソフィアに向かって突進した。ソフィアは迎撃のためにいくつもの炎弾を放つが、アイシアはそれをものともせずにソフィアに体当たりをした。ソフィアは押し倒されるように体勢を崩しながらも、アイシアの首筋に噛み付く。
だが、アイシアは怯むことなくソフィアに組みつくと、そのまま地面に叩きつけた。
「今だ!」
俺は全力で地を蹴り、ソフィアに向かって跳躍する。フラウの力で全身に力がみなぎり、背中にドラゴンの翼が生えた。それだけではない。俺の全身は龍装甲よりも強固な鱗に覆われ、手には鋭い鉤爪。──まさにドラゴン自体を鎧として身にまとっているようだった。
『調子に乗るんじゃないわよ! 人間と死に損ないのドラゴン風情がぁっ!』
ソフィアの身体から炎が立ち昇る。だが、その瞬間アイシアも負けじとブレスを吹き出した。二つの力がぶつかり合い、爆発を起こす。俺は爆風に乗るようにして大きく跳躍すると、勢いのままに剣を突き刺した。
『ぎゃあああっ!』
ソフィアが悲鳴をあげる。俺の剣が、彼女の心臓を貫いていた。
『こんな……はずじゃあ……』
彼女の心臓から勢いよく魔力が溢れ出す。それはさながら血のようだった。
『あ、あたしは負けない……! こんなところで……終われない!』
「お前の負けだ。諦めろよ女神ソフィア」
『そう、あたしは女神! 女神なのよぉぉぉっ!』
ソフィアは必死に抵抗しようとするが、すでに勝敗は決していた。やがて、ソフィアの身体から力が抜けるとその場に崩れ落ちた。辺りは静寂に包まれた。
「終わった……か」
「ええ、女神ソフィアは再び休眠状態に入ったわ。女神ゆえ完全に滅ぼすことはできないけれど、これでしばらくは悪さもできないでしょう」
いつの間にやら近くに来ていたフリーダが言う。
「そっか……なら良かったよ。アイシアは無事か?」
俺が尋ねると、フリーダは黙って一点を示した。そこには人間の姿になったアイシアが瓦礫に寄りかかるようにして座っていた。
「……アイシア!」
俺は慌てて駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「平気よ。ちょっと疲れただけ」
「そうか、それならよかったけどよ……」
ホッとしたのも束の間、俺はあることに気づいた。アイシアの身体が淡く光り輝いているのだ。
「これは……まさか!? おい、しっかりしろ! アイシア!」
俺はアイシアを抱き起こすと、肩を揺すった。
「ごめん、少しだけ休ませて……なんだかすごく眠くて……」
「馬鹿野郎! 死ぬな! お前がいないとフラウはどうなるんだよ! 起きてくれよ! 頼むからさ! なあ! なあって! おいっ!!」
「フラウにはもうロイがいるから……大丈夫……」
アイシアは静かに目を閉じたまま、動かなくなった。
「……うそ、だろ?」
せっかく和解できたと思ったのに、俺の事を認めてくれたと思っていたのに、こんな別れ方になってしまうなんてあんまりだ。
「……クソッ」
「大丈夫、気絶してるだけよ? 力の使いすぎね」
「そう、なのか?」
「えぇ、ほら見て。少し動いてるでしょ?」
「本当だ……」
確かにアイシアの胸は上下している。
「心配しないで? そのうち起きるわ。それより今はアレをなんとかしないとね……」
フリーダが示した先には、豪華絢爛な衣装を身につけた国王ヨアヒム1世の姿があった。剣を抜いてこちらに向けているが、酷く怯えているようでもある。
「き、貴様ら! 恐れ多くも女神様を討伐するとは……天罰が下るぞ!」
「ああ、そうだな。でも安心してくれよ? アンタもちゃんと同じところに送ってやるからさ」
俺が一歩近づくと、ヨアヒムは腰を抜かしたのか地面にへたり込んだ。
「こ、殺さないでくれ!」
「殺しはしねえよ。俺はお前や女神ソフィアみたいに、気に入らないやつを手当り次第殺したりはしねぇ」「では一体何をするつもりなのだ!」
「決まってんだろうが、追放だよ。どこへでも好きに行くがいいさ」
俺は周囲を見渡す。あれだけ立派だった王都の街並みは、俺やフラウやフリーダやアリシア、そしてゴットフリートやソフィアが暴れたせいで一面瓦礫だらけになっていた。
「儂が……英雄ディートリッヒが作り上げた王国が……」
「奪い取ったの間違いだろ?」
「ぐぬ……」
「ディートリッヒとソフィアがマリオンとフラウに何をしたのか、忘れたとは言わせねえぞ? あいつらは彼らの大切なものを奪ったんだ!」
俺はヨアヒムの首根っこを掴むと、そのまま宙に浮かせる。
「ま、待ってくれ! 金ならいくらでも払う! 地位だって望むものをなんでも与えてやる! だから見逃してくれ! 儂は、儂の王国を失うわけにはいかんのだ!」
ヨアヒムは必死に懇願するが、俺が聞き入れるはずもない。
「ふざけんなよ! この期に及んでまだ地位にしがみつくつもりか! 命があるだけでもマシだと思えよ!」
「そんな……嫌じゃ! 死にたくないぃっ! 誰か助けてくれぇっ!!」
俺が腕を振り上げると、ヨアヒムは子供のように泣き喚いた。だが、それでも手を止めることはない。俺は剣を握る手に力を込める。
「──本当は殺してやりたいけど、そしたらお前らと同じになっちまうからな。それに、お前だけが悪いとも思わないし」
そう吐き捨てると、剣を投げ捨てて、ついでにヨアヒムを放り投げた。
「ぎゃあっ!」
「せいぜい長生きしろよ? そんで反省してこい」
俺は踵を返すと、フリーダとともにその場を去った。背後からはヨアヒムの悲鳴が聞こえてきたが、振り返ることはなかった。
「……フラウ」
全てが終わった後で、フラウを失ってしまった喪失感が襲いかかってきた。立っていられなくなった俺は瓦礫の上に座り込む。
「大丈夫?」
隣に座ってきたフリーダが声をかけてきた。
「ああ、なんとかな……」
フラウがいなくなってしまったことが、こんなにも悲しいなんて思ってもみなかった。きっとこれから先ずっと寂しい思いをするに違いない。
彼女の笑顔が、無邪気な表情が、時折見せる何かを決意したような真剣な表情が、恥ずかしがる顔が、脳裏に浮かんでは消えていく。
また、物陰からひょっこりフラウが顔を出すような気がしてならなかった。
「フラウのことが気になるのね?」
フリーダの言葉に、俺は黙って首を縦に振った。
「それなら、試してみる?」
「何をだ?」
「解呪」
「は? なんで?」
「魔法体系学上は、契約も呪いも原理は同じなの。あなたの解呪を使えば、フラウとの契約を解除して、彼女を元に戻すことができるかもしれない」
「マジか!? それならやるぞ!」
フリーダは困ったように笑っていた。
「でも、これは未知数のことだから、何が起きるかは分からない。契約を解除してもフラウが戻るとは限らないし、あなたの身体に良くないことが起こるかもしれない」
「それは……」
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「任せていいのか?」
『もちろん。フラウと一体化したあなたはもう妹同然。家族は守らないとね』
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俺の言葉を聞いたアイシアはソフィアに向かって突進した。ソフィアは迎撃のためにいくつもの炎弾を放つが、アイシアはそれをものともせずにソフィアに体当たりをした。ソフィアは押し倒されるように体勢を崩しながらも、アイシアの首筋に噛み付く。
だが、アイシアは怯むことなくソフィアに組みつくと、そのまま地面に叩きつけた。
「今だ!」
俺は全力で地を蹴り、ソフィアに向かって跳躍する。フラウの力で全身に力がみなぎり、背中にドラゴンの翼が生えた。それだけではない。俺の全身は龍装甲よりも強固な鱗に覆われ、手には鋭い鉤爪。──まさにドラゴン自体を鎧として身にまとっているようだった。
『調子に乗るんじゃないわよ! 人間と死に損ないのドラゴン風情がぁっ!』
ソフィアの身体から炎が立ち昇る。だが、その瞬間アイシアも負けじとブレスを吹き出した。二つの力がぶつかり合い、爆発を起こす。俺は爆風に乗るようにして大きく跳躍すると、勢いのままに剣を突き刺した。
『ぎゃあああっ!』
ソフィアが悲鳴をあげる。俺の剣が、彼女の心臓を貫いていた。
『こんな……はずじゃあ……』
彼女の心臓から勢いよく魔力が溢れ出す。それはさながら血のようだった。
『あ、あたしは負けない……! こんなところで……終われない!』
「お前の負けだ。諦めろよ女神ソフィア」
『そう、あたしは女神! 女神なのよぉぉぉっ!』
ソフィアは必死に抵抗しようとするが、すでに勝敗は決していた。やがて、ソフィアの身体から力が抜けるとその場に崩れ落ちた。辺りは静寂に包まれた。
「終わった……か」
「ええ、女神ソフィアは再び休眠状態に入ったわ。女神ゆえ完全に滅ぼすことはできないけれど、これでしばらくは悪さもできないでしょう」
いつの間にやら近くに来ていたフリーダが言う。
「そっか……なら良かったよ。アイシアは無事か?」
俺が尋ねると、フリーダは黙って一点を示した。そこには人間の姿になったアイシアが瓦礫に寄りかかるようにして座っていた。
「……アイシア!」
俺は慌てて駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「平気よ。ちょっと疲れただけ」
「そうか、それならよかったけどよ……」
ホッとしたのも束の間、俺はあることに気づいた。アイシアの身体が淡く光り輝いているのだ。
「これは……まさか!? おい、しっかりしろ! アイシア!」
俺はアイシアを抱き起こすと、肩を揺すった。
「ごめん、少しだけ休ませて……なんだかすごく眠くて……」
「馬鹿野郎! 死ぬな! お前がいないとフラウはどうなるんだよ! 起きてくれよ! 頼むからさ! なあ! なあって! おいっ!!」
「フラウにはもうロイがいるから……大丈夫……」
アイシアは静かに目を閉じたまま、動かなくなった。
「……うそ、だろ?」
せっかく和解できたと思ったのに、俺の事を認めてくれたと思っていたのに、こんな別れ方になってしまうなんてあんまりだ。
「……クソッ」
「大丈夫、気絶してるだけよ? 力の使いすぎね」
「そう、なのか?」
「えぇ、ほら見て。少し動いてるでしょ?」
「本当だ……」
確かにアイシアの胸は上下している。
「心配しないで? そのうち起きるわ。それより今はアレをなんとかしないとね……」
フリーダが示した先には、豪華絢爛な衣装を身につけた国王ヨアヒム1世の姿があった。剣を抜いてこちらに向けているが、酷く怯えているようでもある。
「き、貴様ら! 恐れ多くも女神様を討伐するとは……天罰が下るぞ!」
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「奪い取ったの間違いだろ?」
「ぐぬ……」
「ディートリッヒとソフィアがマリオンとフラウに何をしたのか、忘れたとは言わせねえぞ? あいつらは彼らの大切なものを奪ったんだ!」
俺はヨアヒムの首根っこを掴むと、そのまま宙に浮かせる。
「ま、待ってくれ! 金ならいくらでも払う! 地位だって望むものをなんでも与えてやる! だから見逃してくれ! 儂は、儂の王国を失うわけにはいかんのだ!」
ヨアヒムは必死に懇願するが、俺が聞き入れるはずもない。
「ふざけんなよ! この期に及んでまだ地位にしがみつくつもりか! 命があるだけでもマシだと思えよ!」
「そんな……嫌じゃ! 死にたくないぃっ! 誰か助けてくれぇっ!!」
俺が腕を振り上げると、ヨアヒムは子供のように泣き喚いた。だが、それでも手を止めることはない。俺は剣を握る手に力を込める。
「──本当は殺してやりたいけど、そしたらお前らと同じになっちまうからな。それに、お前だけが悪いとも思わないし」
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俺は踵を返すと、フリーダとともにその場を去った。背後からはヨアヒムの悲鳴が聞こえてきたが、振り返ることはなかった。
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全てが終わった後で、フラウを失ってしまった喪失感が襲いかかってきた。立っていられなくなった俺は瓦礫の上に座り込む。
「大丈夫?」
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「それなら、試してみる?」
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