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第1章 守護龍の謎

第5話 王都にやってきました

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 ***


 俺とフラウは村を出ると、ひとまず王都に向かうことにした。フラウが求めている情報が手に入るかもしれないし、俺も王都で何かしらの仕事をして金を稼がないといけない。

 フラウの怪我は少しずつ良くなっているようで、背負わなくても自力で歩けるようになった。なので意外と好奇心旺盛おうせいな彼女は、今は俺の前に立って歩いている。
 特に何事もなく、日が暮れる前に俺たちは王都に到着した。

「久しぶりだな。いつ見ても圧巻だな……」

 城壁に囲まれた王都を見上げて、俺は思わず感嘆の声を上げた。

「大きいですねー」

 隣に立つフラウも同じ感想を抱いたようだ。
 俺たちは立派な跳ね橋を渡って王都に足を踏み入れた。そこでは様々な人々が行き交っていて、活気に満ち溢れている。

「うわぁ、すごい人です」

 フラウは驚きながら周りをキョロキョロと見渡していた。

「はぐれるなよ?」
「は、はい」

 俺はフラウの手を取って歩き出す。が、やがてフラウの足が止まった。

「ロイ!」

 何事かと思っていたら突然大声で呼びかけられてびっくりする。フラウが必死に指さす先には高級料理屋があった。風に乗って肉を焼く美味そうな匂いが漂ってくる。

「ロイ!」
「……なんだよ。金がないから入れないぞそんなところ」
「……ロイ!」

 フラウは俺の言葉など耳に入っていない様子で、俺の手を強く握ったままただひたすら店の方向を凝視している。まるで親に置いて行かれまいとする子供のようだった。これはテコでも動きそうにない。

「……わかったよ。入るだけだからな」
「やった! ありがとうございます、ロイ!」

 フラウはとても嬉しそうな笑顔を見せた。これだけ見ると本当に普通の女の子で、こいつがデカくて強いドラゴンであることを忘れそうになる。……そういやドラゴンって何を食べるんだろう? 今までは普通に人間の食べ物を食べていたが、それでは心もとなかったのかもしれない。


 店内に入るとそこはにぎやかな喧騒けんそうに包まれていて、多くの客でごったがえしていた。席はほとんど埋まっており、給仕きゅうじ人が忙しなく働いている。

 カウンター席に通された俺はフラウと並んで座り、メニューを開く。

「どれにする?」
「ロイに任せます」
「じゃあこのシーフードサラダでいいか? 他にもいくつかあるみたいだけど、あんまり腹減ってないし……」

「ロイ」
「……はい」
「ロイに任せます」

 フラウの口調に謎の圧を感じた俺。

「……肉が食いたいのか?」
「ロイに任せますね」
「じゃあシーフードサラ──」
「ローイー?」
「……ステーキにするか?」
「はい、それでお願いします」

 フラウが満足げに微笑んで言う。結局俺は注文を取りに来た店員に肉料理を頼んだ。

 しばらくして料理が届いた。テーブルの上にはパン、スープ、野菜、そしてメインの皿には大きなステーキが載っている。

「おお……」

 思わず声が漏れた。フラウを見ると彼女は目を輝かせて今にも食べようとしている。

「いただきます」

 俺はまずはナイフとフォークを使って一口サイズに切り分け、それを口に運んだ。すると舌の上で旨味が広がる。続いてもう一切れを口に入れようとした時、フラウが俺のことをじっと見つめていることに気付いた。

「どうした?」
「あ、いえ……その……」

 フラウはそう言いつつもまだこっちを見ている。
 俺が首を傾げた次の瞬間、フラウは肉を手で掴み豪快にかぶりついた。瞬く間に大きなステーキはフラウの腹の中に消えていく。

「ちょっ、お前……」
「んぐ、おいしいです!」

 フラウは頬に手を当て、幸せそうな表情を浮かべた。

「手づかみとかワイルドすぎるだろ……」
「あ、すみません。つい……」

 フラウは脂まみれになった自分の手をぺろぺろと舐めた。

「やめろよ行儀ぎょうぎ悪いからな」

 俺は呆れながらも自分の分のステーキを切り分けて口に運ぶ。

 ……その時だった。グッとなにか重いものが俺の肩に乗ったかと思うと、俺のフラウの間にハゲ頭が割って入った。反射的にそちらを向くと、スキンヘッドの大男が俺とフラウの肩に腕を乗せて、どデカいビールびんあおっていた。その顔は真っ赤で酔っ払っているように見える。

「よお若いの! この店は初めてかぁ?」
「え、ああ、まぁ……」
「ここはなぁ~、お前らケツの青い若造が来るところじゃねぇぞ? オレみたいな荒くれたヤツが来るところなんだぜぇ?」
「へ、へえー」

 俺は引きつった笑みを返した。

「おう兄ちゃん、お前ら二人だけで来たのかぁ? 随分ずいぶん可愛らしいカノジョ連れてんじゃねぇか。うらやましいなぁおい!」

 男はガハハッと笑う。

「あ、はい……」
「こんな上玉じょうだまのカノジョ捕まえるとは大したもんだ。なぁ嬢ちゃん、良かったらオレと一緒に飲まねえか?」
「え、私ですか?」

 フラウは少し驚いたような顔をする。

「そうそう、一緒に飲んでくれるよな?」
「はい、喜んで」

 フラウは嬉しそうに返事をした。

「決まりだな! なんだよ良い子じゃねえか! ほれ、グラス持ってきてやったぞ!」
「あ、どうも……」
「そんで何飲むんだい? なんでも好きなもん言ってみな?」
「えっと……では、この赤い飲み物を」
「よしきた! 酒の強さはどんなもんだ? いけるクチかい? なに、心配すんなって、潰れたら介抱かいほうしてやるからよぉ」
「この店のどんな酒を飲んでも酔いつぶれることはないと思いますよ」
「ああん? なんだそりゃあ? そんなわけあるかっての!」
「いや、本当ですよ」
「けっ、じゃあ見せてもらおうじゃねぇか」

 男は向かいの席の客の手にあるワインの入ったグラスを奪い取るようにして取り、それを一気に飲み干した。ていうかこいつ、子どもに見えるフラウに酒飲ますとか正気か? それに乗るフラウもフラウだ。まあ、フラウのことだから男に乱暴されそうになったら自分でボコボコにしてやると思うけれど……。
 全く、めんどくさいやつに絡まれたもんだ。

 俺は店員が持ってきたワインをフラウと競い合うように一気飲みする男をじっくりと観察した。
 身長は俺より二回り以上も大きい文字通りの大男で、服装は質素。冒険者にも見える。そして何より特徴的なのが、その背中に差した巨大な大剣だった。

「ぷはー! なかなか強いじゃねえか! 気に入ったぜ!」
「それはどうも」

 男とフラウは互いに空になったグラスを差し出す。そこに再び店員がやってきた。

「おい! こっちにも同じの持ってこい! もちろんボトルでだぞ! がはははっ!!」

 男の笑い声が店内中に響き渡る。
 それからしばらく後、俺たちの座るテーブルの上には既に十本のボトルが並んでいた。ちなみに男とフラウは互いに譲らずに酒を飲み続け、気づいたら俺たちの周りには大勢のギャラリーができており、口々に声援を送っていた。
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