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第三章

メイウェザー男爵家でのパーティー(4)

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「……お父様」

 思わず声を漏らせば、ジェイラスは忌々しいとばかりにセレニアのことをにらみつけてきた。その目の迫力に押されてしまい、ここに来るまでに培った決意がガタガタと崩れて行ってしまいそうだ。

「そもそも、お前のような出来損ないを育ててやっただけ感謝してほしいな! お前に父と呼ばれるだけで虫唾が走る!」

 ジェイラスのその言葉にセレニアは殴られたようなダメージを受ける。

 なんだかんだ言っても、セレニアはジェイラスのことを父だと思っていたのだろう。しかし、それさえも拒絶されセレニアの手が震えてしまう。

「……もう、いい」

 そんなジェイラスの様子を見かねたのか、ジュードがそう声を上げて手をパンっとたたく。すると、端に控えていた兵たちがこちらに近づいてくる。その後、ジュードは「侯爵を詐欺罪で連行しろ」と声を出す。

「なっ!」
「勝手に人を保証人にしていたのですから、当然でしょう」

 ジュードのその言葉に合わせて、兵たちがジェイラスを引きずっていく。その様子を何処かぼんやりと見つめていれば、ジュードの視線は次にバーバラに向かう。

 バーバラはジュードの視線に気が付いてかわなわなと唇を震わせていた。きっと、彼女は自分が次のターゲットになったと気が付いたのだろう。

「では、バーバラ夫人」

 ジュードが冷たい目のままバーバラを見下ろす。セレニアがそっと視線を上げバーバラを見据えれば、彼女はセレニアに縋るような視線を向けていた。大方、助けろと言うことだろう。

 しかし、今までセレニアがバーバラに助けてと言っても無視されてきた。自分だけ助けてもらおうなど、なんと都合のいいことか。

 そう思ってセレニアはバーバラから視線を逸らす。

「貴女には不貞の疑惑があります。……どうやら、下町に愛人がいるようで」

 淡々とそう言うジュードの言葉に、バーバラは見る見るうちに青ざめていく。

 貴族社会は男性社会だ。男性が愛人を持つことは咎められないものの、女性が愛人を持つと非難されるのが常。その証拠に、周囲の人間たちがざわめいていく。

「それも、一人どころか三人もいると。……とてもいいご身分ですね」

 にっこりと笑ってジュードがそう言う。その言葉を聞いて、セレニアはぎゅっと手のひらを握りしめてしまった。でも……そう覚悟を決め、バーバラを見据える。

「……お母様」

 ゆっくりとそう呼べば、もしかしたら彼女は改心して自分のことを愛してくれるかも――なんて、淡い期待があったわけではない。ただ、どうしようもないほどの呆れを孕んだ目で見つめることしか出来ない。

「い、今まで育ててやった恩を忘れたのですか! おまえ、早くその男を止めなさいっ!」

 対してバーバラはセレニアにそう命じてくる。……名前さえ、呼んでくれなかった。それに気が付き、セレニアは眉を下げる。

 それと同時に、何だろうか。不思議な感覚だった。

 バーバラを今まで母だと思っていた自分がばかばかしいと思ってしまったのだ。……ジェイラスもバーバラも、自分の家族じゃない。それはわかっていたはずなのに、まだまだ情が残っていたというのか。

(かといって、悪いことをされているのだから断罪されて当然だわ)

 そう思い、セレニアは「ジュード様」と言いながらジュードの顔を見上げる。

「……セレニア?」

 ジュードが驚いたようにセレニアの顔を見つめてくる。そのため、セレニアは「続けて、ください」と言う。

「もう、私にはあの方々に興味もありません。……どうか、一思いに断罪してくださいませ」

 目を伏せてそう言えば、ジュードは「……わかっているよ」と言いながらバーバラを見据える。

「お前っ!」
「お母様」

 バーバラに視線を向けられ、セレニアは強い意思の宿った目で彼女を見つめる。その後、ゆっくりと口を開いた。

「産んでくださったこと、感謝しております。でも、それだけです。それ以外には――何も、感謝しておりません」

 育ててくれたのは使用人たちだし、家族はアルフたちだった。もう、バーバラには何の感情も湧き出てこない。

「ついでに言うと、バーバラ夫人も詐欺罪の関与が疑われている。……連れていけ」

 ジュードの命令に兵たちが従う。バーバラは暴れていたが、最終的には折れてしまったらしい。大人しくなっていた。

「……アビゲイル嬢」

 バーバラが場を立ち去った後、ジュードの視線は最後にアビゲイルに向けられた。彼女はその目を震わせながら「な、なによ何よ何よっ!」と叫び出す。

「成金風情が、このわたくしを……」
「……アビゲイル嬢。言っちゃあなんだけれど、キミが今まで侍らせてきた男性たちの末路、知っている?」

 不意にジュードが話題を変える。それに驚きアビゲイルが目を見開く。その様子を見るに、彼女は何も知らないのだろう。それをセレニアは悟った。

「キミが今まで取り巻きとして侍らせてきた男性たちは、みな一人残らず廃嫡された」
「……なっ!」
「キミに溺れて、家の財産も売り払ってしまうような輩に成り下がったようだからね」
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