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第2章
②
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「で、んかは」
「どうしました?」
「――殿下は、なにをおっしゃっているんですか」
ようやく気持ちが言葉になった。
殿下の顔を見て問いかけると、彼が小首をかしげる。かと思えば微笑んだ。
「言葉のままの意味です。ラードルフさんは俺と結婚するんです」
「そんなの、許されるわけがないでしょう」
同性婚だってある。庶民や貴族ならば、許されることだ。
が、王族に限ってはダメに決まっているだろう。王族は必ず異性と婚姻せねばならない。
「ヴィクトール殿下は王族です。王族は異性と婚姻する必要が――」
「――ねぇ、ラードルフさん。俺はあなた以外どうでもいいんですよ」
殿下が当然のように宣言する。
「もしもあなたが俺との婚姻を拒否するのならば、そうですね。適当な女性を娶りましょうか。もちろん、形だけの婚姻です」
「殿下」
「俺の心はあなたにある。だから、その女性は不幸になるでしょうね」
笑いながら残酷なことを殿下が言う。
信じられなかった。ヴィクトール殿下はとても優しく、民を思いやっていた。
「彼女は俺に愛されることはなく、どんどん心を病むんです。罪のない女性が不幸になるのは、あなただって耐えられないでしょう?」
「――っ」
これでも俺は元騎士だ。
殿下の言う通りだった。そうなれば俺は耐えられない。
「だから大人しくしてくださいね。あなたは俺と婚姻関係を結んで、俺の愛を受け続けるだけでいい。ほかにはなにもしなくていい」
「それは」
「俺にひたすら愛されて、この箱庭にいるだけでいいんです」
ヴィクトール殿下の言葉が表すのは究極の愛の形だったのだろうか。
大切に箱にしまい込み、ほかの人間の目には晒さない。触れさせることも許さない。
(どこで間違えた? どこでおかしくなった?)
俺はどこで道を間違えたのだろうか。殿下の指導係は上手くこなせたはずだ。あの後の行動も、おかしなことはなかった――はずだ。
視線を動かす。室内にあるものを見渡して、武器になりそうなものがないかを探した。
(花瓶なら、なんとかなるか)
勢いよく殿下の手を振り払い、花瓶に近づいた。その花瓶をたたき割って、ガラスの破片を作る。
「ラードルフさん?」
ガラスの破片を、俺は自らの首に当てた。
「殿下、今すぐにこの茶番は終わらせてください。俺を解放してください。さもないと、俺はここで自害します」
ガラスの破片が喉元の皮膚を軽く切ったらしい。手に血が垂れてくる。そもそも、ガラスの破片を握っている俺の手自体も、傷だらけとなっている。血がぽたぽたと絨毯に落ちていくのがわかった。
「――間違えましたか」
俺のほうに足を踏み出して、殿下が近づいてくる。
「今後は簡単に割れないものにしなくちゃダメですね。何度も自死を図られたらたまったものじゃない」
殿下が俺の真正面に立つ。顔を上げて見つめると、殿下は不気味な笑みを浮かべた。
「そんな危ないものは取り上げなくちゃダメですね」
手が伸びてくる。殿下は、ガラスの破片を持つ俺の手に自身の手を重ねる。
慌てて喉元に突き付けようとした。が、殿下の手が俺の皮膚とガラスの破片の間に伸びてきた。
「あんまりわがままだと、俺にも考えがあるんですけど」
さすがに殿下の手を傷つけるわけにはいかず、力を抜くことしか出来ない。殿下は俺の手からガラスの破片を奪い取り、その場に落とした。
殿下の手のひらにはべっとりとした血がついていた。俺の血なのか、はたまた――殿下の血なのかは判別できそうにない。
「自死を封じる魔術でもかけましょうか。それとも、足枷でもつけて移動範囲を狭めましょうか」
淡々と殿下が言葉を紡ぐ。この場に似つかないほどに冷静な言葉は、俺の背筋を震え上がらせるには十分だった。
「ね、どっちがいいです? ラードルフさん」
そんなの問いかけられても、どっちも嫌に決まっている。
「答えられないんですか? じゃあ、もうこんな危険なことはしないって誓ってください。一度くらいは大目に見ますから」
「どうしました?」
「――殿下は、なにをおっしゃっているんですか」
ようやく気持ちが言葉になった。
殿下の顔を見て問いかけると、彼が小首をかしげる。かと思えば微笑んだ。
「言葉のままの意味です。ラードルフさんは俺と結婚するんです」
「そんなの、許されるわけがないでしょう」
同性婚だってある。庶民や貴族ならば、許されることだ。
が、王族に限ってはダメに決まっているだろう。王族は必ず異性と婚姻せねばならない。
「ヴィクトール殿下は王族です。王族は異性と婚姻する必要が――」
「――ねぇ、ラードルフさん。俺はあなた以外どうでもいいんですよ」
殿下が当然のように宣言する。
「もしもあなたが俺との婚姻を拒否するのならば、そうですね。適当な女性を娶りましょうか。もちろん、形だけの婚姻です」
「殿下」
「俺の心はあなたにある。だから、その女性は不幸になるでしょうね」
笑いながら残酷なことを殿下が言う。
信じられなかった。ヴィクトール殿下はとても優しく、民を思いやっていた。
「彼女は俺に愛されることはなく、どんどん心を病むんです。罪のない女性が不幸になるのは、あなただって耐えられないでしょう?」
「――っ」
これでも俺は元騎士だ。
殿下の言う通りだった。そうなれば俺は耐えられない。
「だから大人しくしてくださいね。あなたは俺と婚姻関係を結んで、俺の愛を受け続けるだけでいい。ほかにはなにもしなくていい」
「それは」
「俺にひたすら愛されて、この箱庭にいるだけでいいんです」
ヴィクトール殿下の言葉が表すのは究極の愛の形だったのだろうか。
大切に箱にしまい込み、ほかの人間の目には晒さない。触れさせることも許さない。
(どこで間違えた? どこでおかしくなった?)
俺はどこで道を間違えたのだろうか。殿下の指導係は上手くこなせたはずだ。あの後の行動も、おかしなことはなかった――はずだ。
視線を動かす。室内にあるものを見渡して、武器になりそうなものがないかを探した。
(花瓶なら、なんとかなるか)
勢いよく殿下の手を振り払い、花瓶に近づいた。その花瓶をたたき割って、ガラスの破片を作る。
「ラードルフさん?」
ガラスの破片を、俺は自らの首に当てた。
「殿下、今すぐにこの茶番は終わらせてください。俺を解放してください。さもないと、俺はここで自害します」
ガラスの破片が喉元の皮膚を軽く切ったらしい。手に血が垂れてくる。そもそも、ガラスの破片を握っている俺の手自体も、傷だらけとなっている。血がぽたぽたと絨毯に落ちていくのがわかった。
「――間違えましたか」
俺のほうに足を踏み出して、殿下が近づいてくる。
「今後は簡単に割れないものにしなくちゃダメですね。何度も自死を図られたらたまったものじゃない」
殿下が俺の真正面に立つ。顔を上げて見つめると、殿下は不気味な笑みを浮かべた。
「そんな危ないものは取り上げなくちゃダメですね」
手が伸びてくる。殿下は、ガラスの破片を持つ俺の手に自身の手を重ねる。
慌てて喉元に突き付けようとした。が、殿下の手が俺の皮膚とガラスの破片の間に伸びてきた。
「あんまりわがままだと、俺にも考えがあるんですけど」
さすがに殿下の手を傷つけるわけにはいかず、力を抜くことしか出来ない。殿下は俺の手からガラスの破片を奪い取り、その場に落とした。
殿下の手のひらにはべっとりとした血がついていた。俺の血なのか、はたまた――殿下の血なのかは判別できそうにない。
「自死を封じる魔術でもかけましょうか。それとも、足枷でもつけて移動範囲を狭めましょうか」
淡々と殿下が言葉を紡ぐ。この場に似つかないほどに冷静な言葉は、俺の背筋を震え上がらせるには十分だった。
「ね、どっちがいいです? ラードルフさん」
そんなの問いかけられても、どっちも嫌に決まっている。
「答えられないんですか? じゃあ、もうこんな危険なことはしないって誓ってください。一度くらいは大目に見ますから」
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