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第2章
報告 1
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数日後。大学内の食堂にて。俺は政利といつも通り昼食を摂っていた。
政利の前にはから揚げ定食。俺の前にはとんかつ定食が置かれている。他愛もない話をしながら食事をしている最中、俺はふと思い出して改まって政利を見つめた。
「そうそう。……政利に、一つ報告があってさ」
味噌汁を口に運んで、そう告げる。政利は、きょとんとしつつも俺の目を見つめてくる。相変わらず、何処となく人のよさそうな顔立ちだ。
「なんだ、幸大?」
「俺、同居始めた」
「は、はぁ!?」
政利が、バンっとテーブルをたたいて立ち上がる。周囲の視線が一気にこちらに集まって、俺は頬を引きつらせた。
だけど、政利はそんなこと気にもしていないらしい。ただ「誰と!?」と言って俺の顔に自身の顔を近づけてくるだけだ。
「……なんか、よくわからん外国人」
一応アレクはインキュバスっていう種族らしいけれど、表向きはフランス人ということになっているらしい。なので、俺はきょとんとしつつそう言ったのだけれど、政利は眉を顰めるだけだった。多分、好意的には受け止めていない。
「よ、よくわからんて……」
「いや、実際そうなんだよ。俺の住んでいるアパートの近くで行き倒れててさ。まぁ、その縁、っていうか?」
真実を述べただけなのに、政利はまるで疑うような目で見つめてくる。……失礼だ。俺は、真実を述べているだけなのに。
一瞬そう思ったが、確かに俺の言葉は少し現実離れしているかもしれない。そもそも、外国人はともかく、行き倒れているなんてこのご時世滅多なことではないだろう。……俺も、思ったことだし。
「……危なくないのか?」
しばらくして政利がそう問いかけてきた。その頃には興奮も収まっているらしく、周囲に配慮して小声になっていた。
だから、二人で顔を突き合わせる。
「別に、悪い奴じゃなさそうだし……」
「そういう問題じゃない」
ゆるゆると首を横に振って、政利は周囲をちらりと見渡した。そして、さらに声を潜める。
「だって、俺らオメガじゃん。……変なことに巻き込まれる可能性、高いわけだし……」
「まぁ、確かにな……」
それは間違いない。ベータやアルファに比べて、オメガは面倒ごとに巻き込まれやすい。いろいろと注意する必要がある。
「だけど、あいつ俺が放り出したら行く当てないみたいだしさ……。金も持ってないし、この状態で放り出すのは……」
視線を下げてそう言うと、政利は額を押さえてしまった。これは、奴が呆れているときの癖みたいなものだ。
「幸大のお人好しは今に始まったことじゃないけれど、今回ばかりは見過ごせないなぁ……」
……言葉に詰まった。政利に心配をかけているのは、不本意だ。かといって、アレクを放り出すなんてことも考えていない。
さて、どうしたものか。
「けど、アレク……そいつは、本当に困ってるみたいだったし……」
視線を彷徨わせて、なんとか政利に認めてもらおうとする。どうして俺がここまで政利に認めてもらいたいのか。それは、政利が俺にとって親友であるということ。そして、なによりも――いざとなったときに、頼れるのは政利しかいないからだ。
「……あのね、幸大」
「……はい」
「俺は幸大の危機感の薄いところが心配なんだ。……いつか誘拐されるんじゃないかって、気が気じゃなくて……」
誘拐って。そんな、人を子供みたいに……。
「政利は、俺のことを小学生かなにかだと思っているのか?」
「そういうんじゃないからね。……大体、高校生のときも誘拐未遂に遭ってるし……」
……もう、なにも言えなかった。ただ黙って、視線を逸らす。……本当に、政利には敵わない。
政利の前にはから揚げ定食。俺の前にはとんかつ定食が置かれている。他愛もない話をしながら食事をしている最中、俺はふと思い出して改まって政利を見つめた。
「そうそう。……政利に、一つ報告があってさ」
味噌汁を口に運んで、そう告げる。政利は、きょとんとしつつも俺の目を見つめてくる。相変わらず、何処となく人のよさそうな顔立ちだ。
「なんだ、幸大?」
「俺、同居始めた」
「は、はぁ!?」
政利が、バンっとテーブルをたたいて立ち上がる。周囲の視線が一気にこちらに集まって、俺は頬を引きつらせた。
だけど、政利はそんなこと気にもしていないらしい。ただ「誰と!?」と言って俺の顔に自身の顔を近づけてくるだけだ。
「……なんか、よくわからん外国人」
一応アレクはインキュバスっていう種族らしいけれど、表向きはフランス人ということになっているらしい。なので、俺はきょとんとしつつそう言ったのだけれど、政利は眉を顰めるだけだった。多分、好意的には受け止めていない。
「よ、よくわからんて……」
「いや、実際そうなんだよ。俺の住んでいるアパートの近くで行き倒れててさ。まぁ、その縁、っていうか?」
真実を述べただけなのに、政利はまるで疑うような目で見つめてくる。……失礼だ。俺は、真実を述べているだけなのに。
一瞬そう思ったが、確かに俺の言葉は少し現実離れしているかもしれない。そもそも、外国人はともかく、行き倒れているなんてこのご時世滅多なことではないだろう。……俺も、思ったことだし。
「……危なくないのか?」
しばらくして政利がそう問いかけてきた。その頃には興奮も収まっているらしく、周囲に配慮して小声になっていた。
だから、二人で顔を突き合わせる。
「別に、悪い奴じゃなさそうだし……」
「そういう問題じゃない」
ゆるゆると首を横に振って、政利は周囲をちらりと見渡した。そして、さらに声を潜める。
「だって、俺らオメガじゃん。……変なことに巻き込まれる可能性、高いわけだし……」
「まぁ、確かにな……」
それは間違いない。ベータやアルファに比べて、オメガは面倒ごとに巻き込まれやすい。いろいろと注意する必要がある。
「だけど、あいつ俺が放り出したら行く当てないみたいだしさ……。金も持ってないし、この状態で放り出すのは……」
視線を下げてそう言うと、政利は額を押さえてしまった。これは、奴が呆れているときの癖みたいなものだ。
「幸大のお人好しは今に始まったことじゃないけれど、今回ばかりは見過ごせないなぁ……」
……言葉に詰まった。政利に心配をかけているのは、不本意だ。かといって、アレクを放り出すなんてことも考えていない。
さて、どうしたものか。
「けど、アレク……そいつは、本当に困ってるみたいだったし……」
視線を彷徨わせて、なんとか政利に認めてもらおうとする。どうして俺がここまで政利に認めてもらいたいのか。それは、政利が俺にとって親友であるということ。そして、なによりも――いざとなったときに、頼れるのは政利しかいないからだ。
「……あのね、幸大」
「……はい」
「俺は幸大の危機感の薄いところが心配なんだ。……いつか誘拐されるんじゃないかって、気が気じゃなくて……」
誘拐って。そんな、人を子供みたいに……。
「政利は、俺のことを小学生かなにかだと思っているのか?」
「そういうんじゃないからね。……大体、高校生のときも誘拐未遂に遭ってるし……」
……もう、なにも言えなかった。ただ黙って、視線を逸らす。……本当に、政利には敵わない。
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