上 下
18 / 58
3、もう、ムリなんだって

おばちゃんたちの追求

しおりを挟む
「瞬ちゃーん、昨日のあれって『彼氏』?」

「は?」

 とぼけてはみたが、きっとムダだと知っていた。

 Aチームの一周目からのシフト。更衣室で白衣を着こんでいた瞬は、同じAチームのメンバーに囲まれた。

「仕事終わりに迎えにきてくれるなんて、優しい~」

「瞬ちゃんなんて通勤時間何分でもないんでしょ? よほど早く会いたかったのね」

「えー、ヤだあ。ラブラブじゃん」

「瞬ちゃんカワイイから、彼氏さんもぞっこんなんじゃない?」

「瞬ちゃんよりちょっと歳上? いつからつき合ってんの」

 矢継ぎ早に質問されて、瞬はその場に固まるしかなかった。

(どうしよう。ごまかせる? それとも『別に彼氏じゃない』ってホントのことを説明する?)

 別に彼氏じゃない。本当のことだ。

 伸幸は、ただの居候。

 昨日一度くらい身体を触らせたからって。

「やだカワイイ! 瞬ちゃん顔真っ赤」

(え? え? 嘘!)

 瞬は拳で頬をこすった。

「キャー!」

 三十代から六十代の女性が一斉に叫ぶ。

 トントントン。

 武藤華が開いたドアを拳で叩いていた。

「時間ですよ。そろそろみなさん、出ましょうか」

 瞬を囲んでキャーキャー言っていたメンバーは、「はーい」と返事してぞろぞろと更衣室を出ていった。

「うるさくして、すみませんでした」

 別に瞬が謝るところじゃないが、この辺は社会で覚えた処世術だ。

「別に」

 華はくるりときびすを返した。

 スタスタと廊下を進む華に続き、瞬も作業場へ移動する。

「で?」

 唐突に、華は足を止めた。

「彼氏なの?」

「ええ……?」

 まさか追求されるとは。

(助けてくれたんじゃなかったの?)

 瞬はどう答えようか迷った。

 この弁当屋はただの腰かけだ。住むのに金が要るので、近所でバイトしてみただけだ。

 一生この仕事をするわけじゃないし、もっと何かやりたいことが見つかったら出ていく、この街から。

 じゃあ、誤解されても、別にいい。

 面倒が少ない方がラクだ。

 そう思ったはずなのに。

「はあ……まあ……。まだ『つき合ってる』とは言えないんですけど、大体そんなもんかもしれません」

 口をついて出た言葉は、どんな嘘より瞬の気持ちに合っていた。

「そう」

 華は瞬を見上げた。

「上手くいくといいわね」

 優しいキレイな笑顔だった。

「ありがとうございます」

 つられて、瞬も素直にそう答えてしまった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

オメガの僕が運命の番と幸せを掴むまで

BL / 連載中 24h.ポイント:355pt お気に入り:85

いつでも僕の帰る場所

BL / 連載中 24h.ポイント:10,814pt お気に入り:1,177

犬のさんぽのお兄さん

BL / 連載中 24h.ポイント:975pt お気に入り:24

朝日に捧ぐセレナーデ 〜天使なSubの育て方〜

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:261

天涯孤独になった僕をイケメン外国人が甘やかしてくれます

BL / 完結 24h.ポイント:3,784pt お気に入り:2,774

勝手に昔話

児童書・童話 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

鬼上司と秘密の同居

BL / 連載中 24h.ポイント:3,281pt お気に入り:629

処理中です...