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有利✕港【可愛い子】前
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ピアススタジオ兼ピアス専門店【銀河】それが有利が経営する店だ。業務内容はボディピアスの処置とボディピアスの販売、ピアスを開けるピアッサーとして有利は日々客の様々な場所にピアスを開けている。
ダイナミクス業界ではボディピアスは需要が高く、自分でも開けられる耳以外も開けたがる人が多い。特にSubに施す事が多く、そういうときに役立つのがこのピアススタジオだ。
しかし、入れ墨の方が一般的だったこの国では職業として弱いピアッサーは、少し前まで医師でなければできなかったこともあり、なり手が少ない。
無論、病院に行けばいいのだが問題がある。多くの場合、Domは自分のSubがピアスを開ける場合傍についているか自分で開けるのを望む。
自分のSubを他人に任せたくない、他人によってつけられた傷を残したくない、そんな思いを持ち付き添いを望む。
病院では対応しづらいそんな望みに寄り添えるのがこのピアススタジオだ。
こだわりが多い、ご主人様達の望みを聞き、希望に添うように施術をし、時にご主人様達の手を借りる。
Playの一つでもある内容をピアッサーとして手助けするそれが有利の仕事だ。
そんなコアな業務を有利は今まで予約から施術、片付けそして販売まで一人で行っていた。
店番がいないため、施術が入ってしまえば、販売は休みとなる。けして手を抜くことはできないため、施術はそれなりに時間がかかり重なってしまえば一日販売業ができないことがあった。
それが、港が店番をしてくれるようになり、店を閉めなくともよくなった。休憩も取れるようになったし、少しの間店を空けることもできるようになった。
例え週に数日だけであっても、正直凄く助かるようになった。
当初あまり乗り気ではなかった港だが、意外と淡々とこなしていた。接客業向きというほど愛想があるわけではないが、短い話しならば対応していた。
ダイナミクスを持つ客が多いこの店では、それで十分だった。
「有利、ホールプラグの黒の8G、スターってどこだっけ」
「レジ裏の上から五段目」
「わかった」
港はいつの間にかピアスの種類や穴の場所事の名称も、覚えていた。写真集を初めて見たときにはあれほど引いていたというのに、今では客相手に説明することもでき、実際に見せられても平然としている。
「有利、二時からの客来た」
「ありがとう! 奥に案内してくれる?」
「わかった。こっち」
ダイナミクスの客が多い店の為DomだけよりSubがいた方が客受けもいい。なにより、有利自身港がいてくれることを幸福だと感じていた。
既に一週間どころか二週間が過ぎ、そろそろ一ヶ月になろうとしている。その間港は何度か荷物を取りにシェアハウスに戻っていた。
しかし、それなりにあるだろう荷物を持ってくる様子はない。最初に言っていたとおりここに住み続けるつもりはないのだろう。
どうしたらもっと一緒にいてくれるか、有利はそれだけを考えていた。
「港、ご飯できたよ」
「ああ」
「今日はドリアにしてみたけどどうかな?」
店に出ない日に港がなにをしているかを有利は知らない。自宅には見守り用のカメラがつけられている為、何をしているかがわかるが外に出てしまえばどこで何をしているかわからない。
所有欲も執着心も強い自覚がある。本来ならば港のスマホ、できれば港自身にGPSをとりつけどこでなにをしているか逐一知りたい。
何をしていても自分の事を思い出すように、自分の存在をその体に常に刻み込んでおきたい。
しかし、いまの段階でそれをしてしまえば港は逃げてしまうだろうと思っていた。
無論、Domの力を使えば、縛り付けることも意思をねじ曲げることもできる。しかし、それをしては自分が本当に欲している物は手に入らない。
どんなに凶悪な欲望を持っていても、有利も一人の人間として望んで傍にいて欲しいと思っていた。
「港、仕事はどう? 楽しい?」
「それなりに」
「なにか不自由はない?」
「別に」
食事中に話しかけても港は相変わらず素っ気なく、テレビを見てこちらを見てはいない。消そうかと思えたが、港なりの抵抗かと思えば、止めることもできない。
「そっか。なにか不自由があったら言ってね」
「・・・・・・今度から店出ない日はデリバリーの仕事始める」
「え?」
「登録だけですぐできるし、好きな時に働けるから、店番は今まで通りやる」
「え? ちょっと待って!」
テレビを見ながら言われた内容に、有利は思わず声をあげて慌てて止めた。
「んだよ」
「俺聞いてないんだけど」
「他に仕事していいって言っただろ」
「で、でもさっき不自由はないって・・・・・・お給料足りないなら日にち増やしてくれていいし。わざわざ外にでなくても・・・・・・」
「そもそも、あそこそんなに儲かっていないだろ」
面倒くさそうにしながらも、思わず立ち上がった有利の様子に港は仕方なくテレビを見るのをやめた。テーブルに肘をつき、不機嫌そうに有利を睨む。
「ピアッサーの客も多くねぇし、普通の客だってひっきりなしじゃねぇし、俺がいたら助かるっていうけどピアッサーは予約だし、日にち増やす必要もないだろ」
「それはそうだけど・・・・・・」
「ってか嫌なんだよ。これ以上テメェに絞りたくねぇんだよ」
「絞ってよ」
「絶対嫌だ」
そのはっきりとした拒否に有利は力尽きたように、椅子に崩れるように座った。
それなりにうまく行っていると思っていた。そりゃ、Playでは相変わらず泣かせてしまうし、怯えさせてしまう事も多い。
いつも怒られているし、心を開いてくれているなど間違えても言えない。それでも、港の耳には有利が開けたピアスの穴が増えていて、それは港が自分で望んだものだった。
軟骨は痛いんだろうと自ら言い出し、試してみるか聞いたところ、あっさりと了承したのだ。
開けたときは予想以上に痛かったと言っていたが、すぐにどれをつけるか選んでいた様子から言って気に入ってはいるらしい。
前回のように、ピアスの穴をいじってはいないがそれは痛みがなかなか治まらないからだろう。
そんな事もあり、それなりに歩み寄れていると思っていたのに、そうではなかったらしい。
「・・・・・・辛気くせぇ顔すんな、うっとうしい」
「ごめん、そうだよね。俺が言うことじゃないよね。デリバリーは自転車? 港、自転車持ってったけ?」
「買った」
「そうなんだ」
自転車を買った事も知らず、いつ買ったのかもわからない。その事実が、有利の気持ちを更に沈ませた。聞きたいことは色々あれど、踏み込もうとすると港は嫌な表情をするため詳しく尋ねることもできていない。
テーブル越しの距離が急に遠く感じた。既にパートナーがいる友人達は、事あるごとに自慢話をグループメッセージに送ってくる。
港の素っ気ない態度も好きだが、仲の良い友人とパートナーの様子をうらやましくないと言ったら嘘になる。
「・・・・・・デリバリーで港指名したら届けてくれる?」
「なんでだよ。その辺で買えよ」
「デリバリーしてる港みたいし」
「うっざ」
傍目からみれば嫌われているとしか思えない対応に、有利の心は沈んだ。全てが下心ありきで動いている為、嫌われているのだとしてもおかしくはない。
「ごちそうさん」
「あ、うん」
いつの間にか食事を終えていた港は、皿を持ち立ち上がるとキッチンに置いた。
「あ、後で俺が纏めて洗うから」
「そうかよ」
「おいしかった?」
「まぁな」
それだけ言うと、港は部屋に戻ってしまった。嫌な時は部屋にこもれば邪魔をしないと言ったからにはそれ以上なにをすることもできず、有利はため息を吐くと冷めてしまったドリアを食べた。
とてもじゃないが、今日はPlayに誘う気もおきなかった。
ダイナミクス業界ではボディピアスは需要が高く、自分でも開けられる耳以外も開けたがる人が多い。特にSubに施す事が多く、そういうときに役立つのがこのピアススタジオだ。
しかし、入れ墨の方が一般的だったこの国では職業として弱いピアッサーは、少し前まで医師でなければできなかったこともあり、なり手が少ない。
無論、病院に行けばいいのだが問題がある。多くの場合、Domは自分のSubがピアスを開ける場合傍についているか自分で開けるのを望む。
自分のSubを他人に任せたくない、他人によってつけられた傷を残したくない、そんな思いを持ち付き添いを望む。
病院では対応しづらいそんな望みに寄り添えるのがこのピアススタジオだ。
こだわりが多い、ご主人様達の望みを聞き、希望に添うように施術をし、時にご主人様達の手を借りる。
Playの一つでもある内容をピアッサーとして手助けするそれが有利の仕事だ。
そんなコアな業務を有利は今まで予約から施術、片付けそして販売まで一人で行っていた。
店番がいないため、施術が入ってしまえば、販売は休みとなる。けして手を抜くことはできないため、施術はそれなりに時間がかかり重なってしまえば一日販売業ができないことがあった。
それが、港が店番をしてくれるようになり、店を閉めなくともよくなった。休憩も取れるようになったし、少しの間店を空けることもできるようになった。
例え週に数日だけであっても、正直凄く助かるようになった。
当初あまり乗り気ではなかった港だが、意外と淡々とこなしていた。接客業向きというほど愛想があるわけではないが、短い話しならば対応していた。
ダイナミクスを持つ客が多いこの店では、それで十分だった。
「有利、ホールプラグの黒の8G、スターってどこだっけ」
「レジ裏の上から五段目」
「わかった」
港はいつの間にかピアスの種類や穴の場所事の名称も、覚えていた。写真集を初めて見たときにはあれほど引いていたというのに、今では客相手に説明することもでき、実際に見せられても平然としている。
「有利、二時からの客来た」
「ありがとう! 奥に案内してくれる?」
「わかった。こっち」
ダイナミクスの客が多い店の為DomだけよりSubがいた方が客受けもいい。なにより、有利自身港がいてくれることを幸福だと感じていた。
既に一週間どころか二週間が過ぎ、そろそろ一ヶ月になろうとしている。その間港は何度か荷物を取りにシェアハウスに戻っていた。
しかし、それなりにあるだろう荷物を持ってくる様子はない。最初に言っていたとおりここに住み続けるつもりはないのだろう。
どうしたらもっと一緒にいてくれるか、有利はそれだけを考えていた。
「港、ご飯できたよ」
「ああ」
「今日はドリアにしてみたけどどうかな?」
店に出ない日に港がなにをしているかを有利は知らない。自宅には見守り用のカメラがつけられている為、何をしているかがわかるが外に出てしまえばどこで何をしているかわからない。
所有欲も執着心も強い自覚がある。本来ならば港のスマホ、できれば港自身にGPSをとりつけどこでなにをしているか逐一知りたい。
何をしていても自分の事を思い出すように、自分の存在をその体に常に刻み込んでおきたい。
しかし、いまの段階でそれをしてしまえば港は逃げてしまうだろうと思っていた。
無論、Domの力を使えば、縛り付けることも意思をねじ曲げることもできる。しかし、それをしては自分が本当に欲している物は手に入らない。
どんなに凶悪な欲望を持っていても、有利も一人の人間として望んで傍にいて欲しいと思っていた。
「港、仕事はどう? 楽しい?」
「それなりに」
「なにか不自由はない?」
「別に」
食事中に話しかけても港は相変わらず素っ気なく、テレビを見てこちらを見てはいない。消そうかと思えたが、港なりの抵抗かと思えば、止めることもできない。
「そっか。なにか不自由があったら言ってね」
「・・・・・・今度から店出ない日はデリバリーの仕事始める」
「え?」
「登録だけですぐできるし、好きな時に働けるから、店番は今まで通りやる」
「え? ちょっと待って!」
テレビを見ながら言われた内容に、有利は思わず声をあげて慌てて止めた。
「んだよ」
「俺聞いてないんだけど」
「他に仕事していいって言っただろ」
「で、でもさっき不自由はないって・・・・・・お給料足りないなら日にち増やしてくれていいし。わざわざ外にでなくても・・・・・・」
「そもそも、あそこそんなに儲かっていないだろ」
面倒くさそうにしながらも、思わず立ち上がった有利の様子に港は仕方なくテレビを見るのをやめた。テーブルに肘をつき、不機嫌そうに有利を睨む。
「ピアッサーの客も多くねぇし、普通の客だってひっきりなしじゃねぇし、俺がいたら助かるっていうけどピアッサーは予約だし、日にち増やす必要もないだろ」
「それはそうだけど・・・・・・」
「ってか嫌なんだよ。これ以上テメェに絞りたくねぇんだよ」
「絞ってよ」
「絶対嫌だ」
そのはっきりとした拒否に有利は力尽きたように、椅子に崩れるように座った。
それなりにうまく行っていると思っていた。そりゃ、Playでは相変わらず泣かせてしまうし、怯えさせてしまう事も多い。
いつも怒られているし、心を開いてくれているなど間違えても言えない。それでも、港の耳には有利が開けたピアスの穴が増えていて、それは港が自分で望んだものだった。
軟骨は痛いんだろうと自ら言い出し、試してみるか聞いたところ、あっさりと了承したのだ。
開けたときは予想以上に痛かったと言っていたが、すぐにどれをつけるか選んでいた様子から言って気に入ってはいるらしい。
前回のように、ピアスの穴をいじってはいないがそれは痛みがなかなか治まらないからだろう。
そんな事もあり、それなりに歩み寄れていると思っていたのに、そうではなかったらしい。
「・・・・・・辛気くせぇ顔すんな、うっとうしい」
「ごめん、そうだよね。俺が言うことじゃないよね。デリバリーは自転車? 港、自転車持ってったけ?」
「買った」
「そうなんだ」
自転車を買った事も知らず、いつ買ったのかもわからない。その事実が、有利の気持ちを更に沈ませた。聞きたいことは色々あれど、踏み込もうとすると港は嫌な表情をするため詳しく尋ねることもできていない。
テーブル越しの距離が急に遠く感じた。既にパートナーがいる友人達は、事あるごとに自慢話をグループメッセージに送ってくる。
港の素っ気ない態度も好きだが、仲の良い友人とパートナーの様子をうらやましくないと言ったら嘘になる。
「・・・・・・デリバリーで港指名したら届けてくれる?」
「なんでだよ。その辺で買えよ」
「デリバリーしてる港みたいし」
「うっざ」
傍目からみれば嫌われているとしか思えない対応に、有利の心は沈んだ。全てが下心ありきで動いている為、嫌われているのだとしてもおかしくはない。
「ごちそうさん」
「あ、うん」
いつの間にか食事を終えていた港は、皿を持ち立ち上がるとキッチンに置いた。
「あ、後で俺が纏めて洗うから」
「そうかよ」
「おいしかった?」
「まぁな」
それだけ言うと、港は部屋に戻ってしまった。嫌な時は部屋にこもれば邪魔をしないと言ったからにはそれ以上なにをすることもできず、有利はため息を吐くと冷めてしまったドリアを食べた。
とてもじゃないが、今日はPlayに誘う気もおきなかった。
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