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第五十三話【誓い】中

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「俺に?」
「そうそう、Dom側は他に考えてあるんだけど、Sub側を頼みたくて」
「冬真? 説明は?」
「Dom側は俺じゃないのか?」
「パートナー同士じゃダメだって伯父さん知ってんだろ?」
「冬真!」

 声を荒げれば、冬真は笑いながら、力也の肩を抱き寄せた。“ごめん、ごめん”と謝りながら、ご機嫌とりをするように先ほど声を荒げた口へキスする。
 いきなりキスをされ、反応できずにいた力也だが、唇を舐められ舌を差し込まれれば、あっさりと受け入れた。今日が初対面の二人がいる前で、熱いキスと共に愛情を込めたグレアを発せられ抗うこともできずにいれば、ゆっくりと口が離れた。

「クレイム式、知り合いたちの前でパートナーになることを誓うんだ。いやか?」

 どうやら結婚式とお披露目会を兼ねたものらしいと力也は納得した。クレイム記念にパーティをするのは聞いたことがあるが、それとは違うのだろうか。
 王華学校関係で行われている特別な意味のある物なのかもしれないが。

「嫌じゃない」
「よかった」
 
 その言葉と共に、額へキスをされる。それだけで、単純なもので満たされた気分になる。

「随分、甘やかしてんな」
「いいだろ~。すぐとろとろになって、すっげ可愛いんだよ」

 苦言かと思えば、冬真が返したのは明らかなのろけだった。一瞬驚いた力也だが、愉快そうな伯父の顔を見て、そう言えばこの人も同じ王華学校だったと思いなおした。
 もうあの学校の関係者のSubへの過保護に慣れたということはないが、またかと思うほどには動揺しないようになってきた。

「そうかそうか、体つきはかなり逞しく感じたが可愛いか」
「かっこよくて可愛いんだよ!しかも優しくてなんていうか、こうマジイケメンで」
「冬真、stop」

 お酒の所為か、気心の知れた二人の前だからか、テンションが上がり気味でのろけだした冬真はそう言われ止まった。話を遮られ、怒ることもせずに、楽しそうなのをみると自分よりも冬真の方が単純のように見えた。

「そうか。力也君はスポーツでもやっているのか?」
「はい、俺はスタントマンをしてます」
「スタントマンか! なら、さぞ鍛えられているんだろう?」
「力也君は細身だけど、筋肉がすごいよ」

 翼の補足に伯父は興味を持ったかのように、力也へと視線を送ってきた。見えていないながらも、その瞳はどこかワクワクとしているように見える。

「触っていいかな?」
「え?」

 先ほどとは違い、確認するように聞かれ、力也は戸惑い聞き返した。わざわざ聞いたということは、ただ撫でるだけではないのだろう。

(まさか、これやっぱりそういう流れなんじゃ?)

 状況的に、複数Playしか考えられず、どう答えたほうが正解なのかわからずにいると冬真が力也の両肩を捕まえた。そうして、伯父の方へ差し出すように押した。

「冬真?」
「ちょっと試したいことがあるんだ。丁度いいから力也、俺を信じて?」

 そう言うと、肩を掴んでいた手で力也の上着に手をかけると、服を胸のあたりまで捲り上げた。

「伯父さん、そのまま手を伸ばして」

 そう言われてもどこかわからず、探る様に伸ばされた手が翼に誘導され、力也の腹へと触れた。その筋肉の筋に気づいた叔父は手のひらで腹部を撫でた。

「ほう、本当に鍛えてんだな。これが筋肉か、意外と柔らかいんだな」
「力いれると硬くなるんだよな?」
「そうなのか?」
「はい」

 もの珍しそうに、遠慮なくさわさわと撫でられ、力也は力を入れた。途端に硬くなる筋肉に、伯父が驚いたような声をあげた。

「おお、本当に硬くなった! ほら翼も触ってごらん」
「いいかな?冬真君」
「どうぞ」

 力也に確認するわけではなく軽い口調で許可を出した冬真だが、その注意力は全て一点に集中していた。力也が不審に思うように、これは冬真が嫌がっていた複数Playに繋がるのではないかと思うような内容だ。しかしながら、今のところはPlay関係なくやるようなことしかしていない。
 それでも、力也に意見を求めてないのだから、無理やりに近い。

(やっぱり……)

 逃げられないように両肩を捕まえたままの冬真は、力也の様子に確信をもった。

「伯父さん、もっと上も触ってもいいよ」
「そうかい?じゃあ、こっちも」

 そう言われ、伯父は楽しそうに手をゆっくり腹より上、胸のあたりへと動かした。そうして硬い、胸筋を指で突いたり押したりし始めた。
 いやらしい触り方ではないが、次第に明らかに点検のように、傷跡にも指を滑らせ始めた。

「沢山頑張ったんだね。いいこだ」
「力也は頑張り屋さんなんだよ」
「そうか。お、これは冬真がやったのかな?」

 労わるように撫でていた手が、乳首につけられたピアスへと触れた。ピクッと反応した力也に構わず、触り続けるところはさすがDomと言ったところか。

「はい、冬真に開けてもらいました」

 返事をすると思っていた冬真がなかなか返事をしないことで、仕方なく力也が返事をすると伯父はにっこりと慈しむような笑みを浮かべた。

「そうか、そうか。冬真は上手にできたかな?」
「はい、とてもうまかったです」
「それはよかった。触らせてくれてありがとう」

 そう言うとやっと伯父は手を離した。息を吐いた力也は両肩を離され、とりあえず服を直した。緊張をとき、何を考えて許可をだしたのかわからず、冬真へ不審そうな目線を送った。

「で?」
「うん。予想が当たったっぽい」
「予想?」
「ああ、お前が本当に怖い事がわかった」
「へぇ、聞こうか?」

 不思議そうにした力也とは違い、叔父と翼は先ほどとは違い気を引き締めたような表情へと変わった。

「ああ。力也は過去に色々あったからなんでも大丈夫だと思い込む癖があるが、そうじゃない。トラウマだって残ってる。コイツは油断すると直ぐに隠すし、誤魔化すけど、見てればわかる。力也が怖いのは、主人であるDomの狂気が理解できないことだ」

 それが冬真がだした結論だった。本来なら冬真の不機嫌なグレアも、他のDomの怒りも力也は不安にはなるが、すぐに復活した。
 あれを怖かったかと聞かれれば、恐らく首を振るだろう程に、堪えてはいない。とはいえ、冬真は不機嫌になったとは言え、力也に対しては長続きしないので結局のところ怖くはないだろうが。
 それでも、他のDomに対してはそうではないだろう。いくらAランクでも、Domが多ければそれなりに息苦しいはずだ。
 しかし、力也は普通に会話する程度でもDomの友人もいる。つまり、複数のDom相手に話すことを恐怖と感じてはいない。
 ならば、なぜ複数Playにあんな反応をしたか、普通に輪姦が嫌だとも言えるが、実は力也が見ていた【DPV】には輪姦もあった。冬真はそれにも気づいていた。
 だから話題にだしてしまったともいえる。

「狂気?」
「ああ、お前結局いつも相手の望みを考えすぎなんだよ。怒ってる人がなんで怒ってるかとか。自分がなんでこんなことされてるかとか考えてるだろ? それがわかれば、相手の心情が理解できるからお前はそこまで怖くないってなるんだ。でも、Subのお前じゃ、Domの狂気はわからない。相手の望みをかなえようと理解しようと考えるお前が恐怖と感じるのはそれだ」

 それは結局忠実で真面目な力也だからこその、恐怖だった。複数Playにしても、望みを読み切れず、考えることもできなくなる。それが不安でしょうがなかったのだろう。
 横断歩道の時も、相手がなぜこんなことをするのかがわからなかったのだろう。スタントマンをしているスリル好きでも感じた恐怖は精神的なものだった。

「だから、さっきのは怖くなかっただろ?」
「あー、そういや全然怖くはなかったな。なにすんだよとは思ったけど」
「悪い、先に教えたら意味なさそうだったから言わなかった」

 戯れの範疇だったおかげか、伯父だからいいのかと不思議には思ったが、落ち着いていられた。

「で、それを踏まえて冬真はなにを誓うんだ?
「俺は、堕ちないことを誓う。こいつが絶望しないように、俺に失望しないように、Domの狂気を狂気と思い、コイツが俺を考えるよりももっともっと考える。考え伝え続ける」

 伯父の質問へ答えたのは、はっきりとした誓いの内容ではなかった。Domとして生きながらその力と欲に抗い、考え続けることは自分を否定することにもつながり、それはけして容易いことではない。堕ちたほうが楽だろう。それでもそうして生きていく、力也の為ではなく失わないために自信をもって自分の中にある狂気を厭い続ける。

「冬真……」
「それと、もう一つ」

 驚きとこみ上げる想いに、目に涙が浮かぶ力也へ向き直った。慈愛と愛情を込めたグレアを放ち、にっこりといつも通りの笑みを浮かべる。

「これからも際限なくお前を甘やかしまくることを誓う」

 感動に包まれていた筈の、力也だがそのにこにことした意地の悪い笑顔に、一瞬で涙が止まる。そうして、尚もにこにこする冬真の顔に訝しげな表情を浮かべた。

「許してくれるよな?」
「……無理!」

完全に強引に愛情を注ぎ続けようとしていることに、別の意味の恐怖を感じ思わずお断りをした。せっかくの感動的な場面が、色々台無しになってしまった事に、次の瞬間その場は笑いに包まれた。
 これだけは、どんなに力也が拒否しても、けして聞き届けられることのない内容だ。
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