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第七話【口先だけ】前

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 孝仁さんと将人さんとご飯に行った翌日、撮影がなく俺は休みだった。
 久しぶりに事務所と契約している柔道クラブにでも行ってみようと思い立ち、家をでた。
 俺が所属している事務所は、身体を鍛えたい人向けにいくつかのスポーツクラブと契約している。タレントのプライバシーを守りつつ、運動もできるので体を鍛えなくてはならないタレントからすると非常に助かる。
 俺はその中のスポーツクラブと柔道クラブを主に利用させてもらっている。
 1人で運動したいときは、スポーツクラブ、相手が欲しい時は柔道クラブって感じに。

 柔道場にいくと何人かの生徒がいた。顔を知っている人もいれば知らない人もいる中、次の稽古の時間に向けて柔軟をしようとしていると不意に壁側にいた男たちに手招きされた。

「リッキーじゃん」
「久しぶり」

 こいこいと手招きされとりあえず、見知った三人の元へ向かう。三人はこの柔道クラブの生徒でも比較的いつもいる人たちだ。
 別に苦手というほどではないが、人をいじるのが好きで、こっちの都合を考えないタイプなのでそんなに深くかかわりあいにはなるのは遠慮したい。

「最近こなかったじゃん」
「寂しかったぜ」

 近づいた瞬間手首を捕まえられ、無理やりそこに座らせられた。酔ってんじゃないんだからと思わずにはいられないが、悪気がないことも知ってる。

「すみません。最近忙しくて」
「俺たちてっきりどっかのDomの機嫌損ねて、監禁でもされてんじゃねぇかって言ってたんだぜ」
「あはは…そんなことないです」
「だよなー!てめぇみたいなやつ監禁してもイライラするだけだよな」
「確かに」

 そんなことを言いながらも両手を離してはくれず、挙句に俺を慰めるかのように頭に手を置いてきた。

「可愛そうにな、SubはPlayしてやんねぇと辛いのに」
「ちゃんとPlayしてるか?」
「大丈夫です」

 三人の様子は見方によっては心配してくれているかのようにも、感じるから反応に困る。
 言い方は悪くても、この三人は互いにこんな感じだから、俺が気にするのもおかしいような気さえしてくる。

「そういや、この前お前に紹介したSubいたじゃん。あれどうだった?」
「あーあれね、顔は可愛かったんだけど初々しさがなくてダメだった」
「やっぱり~?俺もだめだった」

 ギャハハハと笑いを上げる三人は全員Domだ。とはいえDomとしての力はそれほど強くなく、俺に三人のグレアは効かない。初めてあってすぐに気づいたけど、俺はわざわざ話しかけることはせずにいた。なのにたまたま、ダイナミクス用のバーにいたところをみつかりSubだとバレてしまった。
 それ以来会うとこうして絡んでくることがある。

(振り払うのもな…)

 たとえ手首を掴まれていたとしても、動くことはできるし、そもそも無視することもできた。それでも、Subの本能でなんとなくこの状態を受け入れてしまっている。

「よし、欲求不満だろうリッキーに俺が命令してやるよ」
「さすが、気が利く!」

 いつの間に俺がPlay不足の欲求不満だということになったのだろう。そう言うと三人の中の一人がその場に寝っ転がった。

「マッサージしろ」

 グレアを軽く放ちながら命令してくる。この場には他にダイナミクス持ちはいないらしく、他の生徒達はこちらを見てもいない。

「あの、俺、柔軟まだなんで」
「ああ?てめぇ、Subなのに逆らうのかよ」
「そういうこというから相手いねぇんだろ!」
「生意気言うなよな」

 怒っているような口調だが、顔は笑っているから、ここで俺が本気で怒ると空気が悪くなるだろう。ここは事務所の契約しているクラブだから、騒ぎになっても面倒だし…。

「わかりました。マッサージします」
「します?」
「させてください」

 そう言えば、ずっと抑えていた手首を外したからとりあえず横に移動する。
 どうせすぐに、教室が始まるからそう長くはしなくていいだろう。
 わざわざ言い直しを要求してきた男は背中に手を置いたら、あっさりとグレアをひっこめた。

「強すぎたらいってください」

 これが初めてというわけではないし、俺も整体に行くこともあるからなんとなくやり方はわかる。肩、背中、腰、足ともみほぐしていく。

「やっぱてめぇぐらい力あると便利だよな」
「こういうの売りにしてけばいいんじゃねぇの」
「Subらしくねぇんだからそうしろよ」
「そうですね」
「人がアドバイスしてやってんのに、本気にしてねぇだろ」
「そういうとこが感じ悪ぃだってんだよ」

 人の柔軟を引きとめて、マッサージさせておいて何を言っているのだろうか。
 アドバイスも毎度のことだから、もうわかってるし、選り好みすんなって言われても俺だって好き嫌いあるし…。

「午前の教室始めるぞ!」

 耳タコのアドバイスを聞いてたら、この柔道クラブの先生が号令をかけ始めた。

「滝上、お前さっき来たばかりだろ柔軟やったのか?」
「まだです」
「そんなことやってないで柔軟しろ!」
「はーい、じゃあそういうことなんで、ありがとうございました」

 俺に言われても困るんだけどなと思いつつも、止めてくれたことに感謝し、背中から手を離しおざなりの御礼を言う。急いで軽くでも柔軟しないと、こんなんで怪我するわけにはいかない。

ダーン!体は宙を舞い、勢いよく畳へと叩きつけられる。

「一本!勝者滝上!」

 先ほどマッサージした背中を問答無用でたたきつけた俺は、掴まれていた帯を直し頭を下げた。
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