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23話 狩猟大会 前編

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「珍しいね」
「元々この周辺の地域ではよく行われていたらしい」
「ふむ」

 狩猟大会が催された。
 皇弟主催であるあたり、これもパフォーマンスの一つだろう。
 武力介入も以前のような多くの人間が犠牲になるのではなく、そこに住む人間をいかしたまま併合されるだけとなっている。当然現皇帝は皇弟のやり方に不満を持っているが、争う姿勢を見せない。身体の具合がよくないという噂もあるし、世論が皇弟を支持しているのも大きいだろう。帝都では現皇帝から皇弟へ皇位継承がされるともっぱらの噂だ。

「折角だし一番を狙おうかな?」
「ユツィ、この森には黄金色の雄鹿がでるらしい」
「それが大物?」
「それか銀色の大きな狐か」
「ではどちらかを獲るかな」

 狩猟は制限時間もあるから運によるところもあるだろう。優勝者を決めるとはいえ、褒賞は特段なし。
 皇弟が来ている以上、急な褒賞授与も考えられるが、私をこれ以上政治利用する可能性は低い。

「ユツィ、気をつけて」
「今は好敵手だし、心配は無用」
「……分かった。俺としても負ける気はない」
「ええ」

 狩猟は北側山の頂を境界にしている。広い範囲ではあるが訓練で入ったこともあるので、帝都の騎士には馴染みがあった。

「……ふむ」
「副団長殿、いかがしました?」
「いいえ。東へ行きましょうか」

 一人につき一人監視役が着く。私には不参加を決めた帝都の警備騎士がついていた。同じ女性騎士ということで彼女は私と行動を共にできて嬉しそうだ。

「よっと」
「……生きたまま素手で捕らえる方を初めて見ました」
「ははは」

 私の手には兎が一匹。毛並みがいいが、優勝には至らないだろうと放してやった。
 さすがに私だって鹿ぐらい大きいものになれば素手ではいけない。

「!」
「副団長?」
「馬からおりて」

 息を殺し気配を断ち姿勢を低くして茂みから覗くと目当ての獲物を見つけた。

「……いた」
「珍しい……黄金色の鹿ですか」
「狙い通り」

 鹿の足跡、食事の跡を観察し時間がたっていないところから行動範囲を絞ったかいがあった。
 なるたけ音をたてずに弓をひく。

「こ、ここからやるんですか?!」
「……静かに」

 少し警戒している。もしかしたら他の参加者に何度か狙われたのかもしれない。
 弓をひいたまま少し待つ。警戒を一瞬緩めた瞬間、放った。

「!」
「よし」
「す、すごい……!」

 一発で仕留めることができた。手早く裁いて血を抜く。毛皮はさておき中身は今日の騎士団のごちそうにできる。

「噂通りの方!」

 感動されている事について何も言わないことにした。距離はかなりあったがヴォックスもこれぐらいはできる。
 鹿を馬に乗せ戻ろうかと思った時だった。僅かに子供の声が聞こえ振り返る。山の頂に近いところからだ。

「副団長?」
「少し、ここで待っててもらえます?」
「え、それは」
「すぐ戻ります」

 このあたりからは急斜面が多く馬が通れない。彼女がなにか言うのを無視して急斜面を駆け登った。

「……いた!」

 山の深いところに場違いな影。子供が二人、走っている。背後を何度も振り返っていた。
 視線の先に距離を一気に縮めようとする大きな猪が見え、急いで速度を加速させ子供と獣の間に入る。

「ちっ」

 小ぶりの熊程もある大きな猪だが、やや下で剣を振るわないとならない。斜面で踏ん張って振るうが力が全然乗らなかった。しかもこの獣、私の剣に噛みついてきて止めてくるとは。そのへんの騎士より胆力があるぞ。

「早く逃げなさい!」

 止まって戸惑う子供に声をかけると再び走り出した。
 一騎討ちは得意だがまずは剣を自由にしないといけない。けど力が段違いで抜ける気配がなかった。

「!」

 蹴り飛ばそうと片足を踏ん張ったところに急襲。
 矢が猪の米神を貫いた。一発で仕留められた猪は瞳をぐるんと回して横に倒れる。剣が自由になり、ほっと肩を落とす。

「ユツィ!」
「……ヴォックス」

 正確で大物を一発で仕留める力の強さはまさしく彼の力だった。

「怪我は?!」
「私は何も。ああ、子供たちが……」
「団長!」

 既に指示を出し済みだったのか子供二人が騎士に連れられこちらに戻ってきた。ヴォックスには護衛兼監視が人より多くつくから、一人は子供を保護し二人はヴォックスについている。

「無事でよかった」
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