24 / 54
24話 狩猟大会 後編
しおりを挟む
どうやら山を越えた先の国から迷い混んできてらしい。山を越えるほど歩くこともないはずだが、薬草探しに山に入りどんどん深く進んでしまい偶然が重なったということだった。
「こちらで子供たちを送ろう」
「ありがとう。あの子達の国は?」
「ステラモリス公国、北に進んだ山中にある小さな国だな」
「成程」
大会主催の皇弟直属の騎士が見送りをと子供を連れていく。去り際側に来て感謝の言葉をもらった。
「きしさま、ありがとうございます!」
「ええ、これからは気をつけて」
「はい!」
まだ小さいのに薬草を探すとは何か事情があるのだろうか。
「ステラモリス公国は子供が薬草を扱うの?」
「公国は医療と農業に強い。この森に近い南側は医療の拠点もあるからその為だろう」
「そう」
「公国には俺達に近い年齢の公女殿下が一人いらっしゃる。今後会うかもしれないな」
少し年下の殿下がいるらしい。一瞬レースノワレの王女殿下が頭をよぎった。
「そういえば、ヴォックスは獲物を捕らえたのか?」
「ああ、俺はあれだ」
馬に乗せていたヴォックスの獲物は大きな銀色をしていた。
「銀色の狐」
「ああ。ユツィはあの雄鹿か」
ヴォックスが私の獲物を見た後、こちらを見下ろす。
「獲物を肩掛けにしてユツィに贈ってもいいか?」
「……ああ、かまわない」
ふと名案が浮かぶ。
「私もあの鹿の毛皮をつかって君になにか贈ってもいい?」
「え?」
「皇族のマントはテンの尻尾だろうから、それとは別のものにすればいいかなと思って」
「……」
「ヴォックス?」
黙り込んだヴォックスからどこか嬉しそうな雰囲気を感じる。
「ヴォックス?」
「……あ、いや……いいのか?」
「折角だし」
「……嬉しい」
楽しみにしている。
そう言って笑うヴォックスがあまりにも嬉しそうでこちらが戸惑うことになった。
* * *
「ユツィの雄鹿の角は次回の優勝杯に使われるらしいな」
「もう聞いたの」
出来上がりを渡し合う日となった。
帝都の職人に任せたら仕事は早いわ出来がいいわで文句のつけようもない。
「ぴったり」
「普段から頼んでいるからサイズは知っているだろうしな」
花が溢れる別棟、我々の新居で渡したから早速羽織ってもらった。いくら大きい雄鹿とはいえコートにできるほどではなかったので重ね着前提の肩掛けだ。冬場はマントやコートの上から飾り程度につけてもらえればアクセントにはなるだろう。
「ありがとう。大事にする」
笑う姿があまりに嬉しそうでこちらも笑ってしまう。普段あれだけ冷静にいるのに子供のようだ。
「ユツィ、これを」
「ありがとう」
銀色の狐は首巻きとなっていた。大きい狐だった分、充分に巻ける。
「これがあれば私でも立派な貴婦人に見えるかな?」
「? ユツィは元々貴婦人だろう」
巻いた姿を見せておどけてみせても真面目に返された。さすがだ。苦笑が漏れる。
「なら、その時がきたらエスコートを頼むよ」
「!」
目を開いた。驚くことでもないのに、息まで僅かに詰め、その後綻ばせて頷いた。
「君に似合うと思ってたが、想像以上に似合ってて良かった」
「そう?」
「今度、遠乗りに行こう」
「そうだね」
ヴォックスの様子にこちらも笑みが溢れた一瞬、あの日のことを思い出す。
殿下を逃がす為に離れたことは本当に良い判断だったのか。どちらにしても追い付かれてヴォックスと戦うのは目に見えている。ヴォックスの相手をすると他に助けはやれない。となるとヴォックスとの戦いに集中できる選択は良かったといえる。
「ユツィ?」
「……あ、なんでもない」
ヴォックスは私に誠実に向き合う。毎日なにかしら贈ってくるし笑いかけてくれる。グレース騎士学院にいた頃とは全く態度が違った。あの頃の方が気の合う同期生でよかったかもしれない。
「君には辛い思いをさせたと思っている」
「ヴォックス?」
一度躊躇うもゆっくり私のこぼれた髪を耳にかけた。目を細めるその中の光が揺るがない。
「もう少し待ってほしい」
「待つ?」
待つのはヴォックスの方だ。
私の気持ちが腑に落ちるまで待つと言ったのは彼で、その為に日々歩み寄ろうと態度に示してくれている。
「もう一度きちんと君に想いを伝える」
「充分理解しているし、告白だってあるし」
毎日愛を囁かれるのは恥ずかしくて私が無理だから数日に一度になっているけど、それでも充分伝わっているし待ってももらっていた。これ以上ヴォックスが何かする必要はないはずだ。
「……それでも」
静かに上半身屈み、顔を近づけた。
米神に柔らかい感触。
「え?」
「俺がやりたいから、きちんとやる」
「え?」
するりと銀色の巻物をとって自身は黄金色の肩掛けをとってコート掛けに置いて扉を開けた。
何事もなかったかのようだ。
「仕事だ、行こう」
背を向けたヴォックスが囁いた。
「あと少しで纏まれば君に言える」
「ヴォックス?」
「……行こう」
「ええ」
なにかを決めたのだろう。全く揺るがない姿に瞳を伏せる。対して私はぶれてばかりだなとふと思った。
「こちらで子供たちを送ろう」
「ありがとう。あの子達の国は?」
「ステラモリス公国、北に進んだ山中にある小さな国だな」
「成程」
大会主催の皇弟直属の騎士が見送りをと子供を連れていく。去り際側に来て感謝の言葉をもらった。
「きしさま、ありがとうございます!」
「ええ、これからは気をつけて」
「はい!」
まだ小さいのに薬草を探すとは何か事情があるのだろうか。
「ステラモリス公国は子供が薬草を扱うの?」
「公国は医療と農業に強い。この森に近い南側は医療の拠点もあるからその為だろう」
「そう」
「公国には俺達に近い年齢の公女殿下が一人いらっしゃる。今後会うかもしれないな」
少し年下の殿下がいるらしい。一瞬レースノワレの王女殿下が頭をよぎった。
「そういえば、ヴォックスは獲物を捕らえたのか?」
「ああ、俺はあれだ」
馬に乗せていたヴォックスの獲物は大きな銀色をしていた。
「銀色の狐」
「ああ。ユツィはあの雄鹿か」
ヴォックスが私の獲物を見た後、こちらを見下ろす。
「獲物を肩掛けにしてユツィに贈ってもいいか?」
「……ああ、かまわない」
ふと名案が浮かぶ。
「私もあの鹿の毛皮をつかって君になにか贈ってもいい?」
「え?」
「皇族のマントはテンの尻尾だろうから、それとは別のものにすればいいかなと思って」
「……」
「ヴォックス?」
黙り込んだヴォックスからどこか嬉しそうな雰囲気を感じる。
「ヴォックス?」
「……あ、いや……いいのか?」
「折角だし」
「……嬉しい」
楽しみにしている。
そう言って笑うヴォックスがあまりにも嬉しそうでこちらが戸惑うことになった。
* * *
「ユツィの雄鹿の角は次回の優勝杯に使われるらしいな」
「もう聞いたの」
出来上がりを渡し合う日となった。
帝都の職人に任せたら仕事は早いわ出来がいいわで文句のつけようもない。
「ぴったり」
「普段から頼んでいるからサイズは知っているだろうしな」
花が溢れる別棟、我々の新居で渡したから早速羽織ってもらった。いくら大きい雄鹿とはいえコートにできるほどではなかったので重ね着前提の肩掛けだ。冬場はマントやコートの上から飾り程度につけてもらえればアクセントにはなるだろう。
「ありがとう。大事にする」
笑う姿があまりに嬉しそうでこちらも笑ってしまう。普段あれだけ冷静にいるのに子供のようだ。
「ユツィ、これを」
「ありがとう」
銀色の狐は首巻きとなっていた。大きい狐だった分、充分に巻ける。
「これがあれば私でも立派な貴婦人に見えるかな?」
「? ユツィは元々貴婦人だろう」
巻いた姿を見せておどけてみせても真面目に返された。さすがだ。苦笑が漏れる。
「なら、その時がきたらエスコートを頼むよ」
「!」
目を開いた。驚くことでもないのに、息まで僅かに詰め、その後綻ばせて頷いた。
「君に似合うと思ってたが、想像以上に似合ってて良かった」
「そう?」
「今度、遠乗りに行こう」
「そうだね」
ヴォックスの様子にこちらも笑みが溢れた一瞬、あの日のことを思い出す。
殿下を逃がす為に離れたことは本当に良い判断だったのか。どちらにしても追い付かれてヴォックスと戦うのは目に見えている。ヴォックスの相手をすると他に助けはやれない。となるとヴォックスとの戦いに集中できる選択は良かったといえる。
「ユツィ?」
「……あ、なんでもない」
ヴォックスは私に誠実に向き合う。毎日なにかしら贈ってくるし笑いかけてくれる。グレース騎士学院にいた頃とは全く態度が違った。あの頃の方が気の合う同期生でよかったかもしれない。
「君には辛い思いをさせたと思っている」
「ヴォックス?」
一度躊躇うもゆっくり私のこぼれた髪を耳にかけた。目を細めるその中の光が揺るがない。
「もう少し待ってほしい」
「待つ?」
待つのはヴォックスの方だ。
私の気持ちが腑に落ちるまで待つと言ったのは彼で、その為に日々歩み寄ろうと態度に示してくれている。
「もう一度きちんと君に想いを伝える」
「充分理解しているし、告白だってあるし」
毎日愛を囁かれるのは恥ずかしくて私が無理だから数日に一度になっているけど、それでも充分伝わっているし待ってももらっていた。これ以上ヴォックスが何かする必要はないはずだ。
「……それでも」
静かに上半身屈み、顔を近づけた。
米神に柔らかい感触。
「え?」
「俺がやりたいから、きちんとやる」
「え?」
するりと銀色の巻物をとって自身は黄金色の肩掛けをとってコート掛けに置いて扉を開けた。
何事もなかったかのようだ。
「仕事だ、行こう」
背を向けたヴォックスが囁いた。
「あと少しで纏まれば君に言える」
「ヴォックス?」
「……行こう」
「ええ」
なにかを決めたのだろう。全く揺るがない姿に瞳を伏せる。対して私はぶれてばかりだなとふと思った。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる