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最終話 最高の更新

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「ちょっと、エール! 自分で歩けるわよ!」
「今人生で最高な気持ちを味わってるところなので、しばらく私に抱かれてて下さい」

 ステラモリスの森の中、エールが私を横抱きにして進んでいる。
 ステラモリス公国、スペルビア城に向かってるわけで、このままだと高確率でサクとクラスに見つかってしまう。当然見られたくない。私はお姫様抱っこは観賞したい派だし。

「ねえ気になったんだけど」
「はい」
「最高って今がってこと?」
「ええ。最悪形式的な夫婦で側にいるだけだと思ってましたので、触れることができると思うと感無量です」

 いやいや、両想いになる以前も結構触ってたよね?

「キスはしなかったでしょう?」

 人の考えてることを読まないでよ。

「夫婦になったら同じベッドでも寝られます」
「結婚してないわよ」
「まだしてないだけです……結婚、してくれるでしょう?」
「……」

 急に調子に乗り始めた。なんてやつ。

「現金な男」
「なんとでも。私も必死だったので」

 そう言われてみると、エールはだいぶ前から私のことが好きだと言っていた。十年来の片想いが実るなら感無量なのか。

「にしたって、ここを最高にすることないわ」
「というと?」
「最高なんて、これからいくらでも更新されるわよってこと」

 私と一緒にいる幸せはここが最高なんてありえないんだから、とそこまで言って、さすがに恥ずかしくなった。言うんじゃなかった。
 ちらりとエールを見ると、珍しく目元を赤くして驚いている。その後すぐ、抱く腕に力を込めるものだから、エールの首に深く腕を回して密着する羽目になった。

「エール!」
「フラルがあまりにも私を喜ばせるから」

 我慢できなくなると囁かれる。だめだ。この男は完全に有頂天になっている。

「おい」
「!」
「人の国でいちゃついてんじゃねえ」
「サクたん、これは違うんです! 誤解です!」

 降りようにもエールががっちり掴んでおろしてくれない。

「エールおろして! 恥ずかしいでしょ!」
「御二人に成果があったことを示さないと」
「二人なら見なくても分かるから!」

 クラスが困ったように笑いながら、恥ずかしいようなら私達は外しますと申し出てくる。
 女神かよ。眩しさに磨きがかかってる。

「いいんだよ、クラス。こいつがやり直した時に最初に願ったことは俺らに憧れてなんだから」
「え?」
「だめだよ、サク。それフィクタさん本人は気づいてないでしょ」
「はっ、ネタバラシしてやればいいんだ」

 おもしれえからと笑う。

「クラスん、なんと?」
「え、えっと……」
「お前は俺とクラスの仲を見て羨ましがったんだよ。自分もそういう相手が欲しいってな」

 一番はあんな死に方をしたくない。
 穏やかにすごしたい。
 けど、その根底にはサクとクラスを羨む気持ちがあった。

「巡回者の言葉を借りるなら、愛し愛される恋愛をしてから死にたい、だな」
「うへえ」

 恥ずかしさに頬に熱が集まる。無意識にそんなこと望んでいたわけ?

「お前ら折角だから少しここにいろ。からかってやる」
「ひどいよ、サクたん!」
「ああ、クラス以外に俺は基本ひどい奴だからな」

 開き直った。なんてヒーローだ。ありがとうございます!

「お言葉ですが、アチェンディーテ公爵令息」

 いつもの調子でエールが話す。おや、いつもの笑顔に戻った。

「すぐにでも婚姻を結びたいので、長居はできません」
「はい?」
「できるだけ早くに帝国に戻りたいのです」

 マジア侯爵夫妻に御挨拶、帝国とコロルベーマヌでの婚姻手続きをしたいと。急に行動早いわね。驚きだわ。

「まあそう言うと思って移動手段は用意してる。馬と馬車どっちがいい?」
「馬で」
「おう、二人乗りに問題ない強い馬を用意してる」
「ありがとうございます」
「あと、良ければ軽食を」
「ありがとうございます、ステラモリス公爵令嬢」

 クラスの手作り? それ手作り? 見せてエールそれ見せてよ!

「ということで、急ぎましょう」
「え? え?」

 いつの間にか馬に跨がりエールに抱えられたまま走り出した。
 サクがやれやれな顔を、クラスがにこやかな笑顔で見送ってくれている。
 早い、展開が早いぞ。

「エール、急ぎすぎよ」

 舌を噛まないように問いかける。エールはどこ吹く風だ。

「急ぎたくもなります。フラルの気が変わらない内に済ませましょう」
「……まあいいわ」

 気なんて変わらないけど仕方ない。
 物語の終わりとしては悪くないしねと笑うとエールが笑顔で終わりじゃないんでしょうと返す。

「これから最高の更新、よろしくお願いします」
「誰に向かって言ってるのよ」
「ふふ、フラル様々ですね」
「当然」

 だって私はこの物語のヒロインで、主人公だもの。

「ヒーロー様も怠けたら置いてくんだから」
「そうならないよう努力します」
「よろしい」

 私の中で一緒になったフィクタが高飛車に笑った。
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