追放済み聖女の願う事

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55話 今に見てろ、一話分使って愛を叫んでやる

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 動きがぴたりと止まった。
 本当、ことこの部分だけ相当察し悪いわ。
 反応もこの通りだしね。
 こういう時に赤くならないって、告白した私の立場なに?
 私の恋愛面でのプライドはないに等しい扱いだよ。

「サリュがー、好きです!」
「え?」
「好きだから一緒にいたいわけ! まだわかんない?!」

 キレながら告白とか、ちょっと雰囲気ないけど、もう後戻りできなかった。
 ついでに渾身の蹴りをお見舞いするけど、きちんと受けてきた。
 なんだ動き止まったから、いけると思ったのに。
 でも、動揺はしてる。

「え、は?」
「恋愛対象として好きって意味だからね!」
「え、ええ」

 頷く割に、分かってない。失礼な。
 ならば私のなけなしの語彙力を総動員だ。
 今に見てろ、一話分使って愛を叫んでやる。

「愛してる!」
「!」

 んー、順番飛び越えるけど。

「結婚して!」

 あ、これは鍵の子がよく言われてたからかな、効果があるぞ。
 肩びくってなった。いいぞ、続けよう。

「毎日お味噌汁作ってください」

 は、古いな。
 てかメゾンがご飯作ってくれるし、地域限定感があるから、何の意味もない。

「一緒に幸せになって!」
「……」
「大切にします!」

 あ、これはご両親への挨拶か。

「おじいちゃんおばあちゃんになっても一緒にいてください」

 あ、これはいけるな。

「指輪……ないわ、却下」

 こうなるなら用意しておけばよかった。三ヶ月の給料で買いました的な。
 けど、明らかに動きが鈍ったサリュを見るに効果はある。
 殴るも蹴るも、そこまで届かないけど、言葉は届いてるからよしとしよう。

「あ、色々飛び越えてた。まずはあれだ、付き合ってください!」

 あまりに遅い。
 先に結婚出てきちゃったし。順番間違えた、なんてことだ。

「あー! 順番さえ間違ってなければ、恋人になって! とかもありだったー!」

 駄目だ、なんだこいつみたいな顔されてる。
 ば、挽回せねば!
 言葉! 気の利いた言葉!
 ああ、格好いい口説き文句出てこないなー……難しいなあ。
 私の語彙力も中々乏しい、わらい。
 バリエーション豊かな告白ができるようになりたい。

「難しいものだね」
「え?」

 ここまできたんだ、あとは本音の中の本音を語るしかないか。

「サリュ、気の利いた口説き文句じゃなくなってくるけど、私の本音だからきちんと聞いてね?」
「?」

 拳、未だ通らず。
 明らかな動揺が見られるのに、手合わせ自体は冷静すぎて困る。
 言葉と行動のギャップがひどすぎ。
 けど、ここまできたらやめられない。
 正拳突きを繰り出しながら、告白を続けることにした。

「うん。誰がなんと言おうと、私はサリュじゃないとダメ」
「!」
「サリュ以外、考えられない」
「あ、貴方は、」

 あ、だめだ、サリュの動揺云々の前に、私が泣きそう。
 感情がボーダー突破すると泣きたくなるよね。
 取っ組み合いを続けながら、やる話じゃないし、泣きそうなのは知られたくない。
 けど、まだだ。

「私が皆と楽しく過ごしたいの中に、きちんとサリュがいるんだよ」
「……それは、」
「サリュが一緒にいなきゃ、意味ない」
「ぐっ……」
「側にいてほしいんだよ」

 拳を弾いて、サリュが後ろに身を引いた。
 次は言語を変えてみるかなと考えながら、追撃だとぐぐっと踏み込んで、飛びだそうとしたら、存外大きな声で止められた。

「止めなさい!」
「なにおう」
「これ以上、は、」
「お」

 やっとわかりやすい反応がやってきた。
 いつぞやと同じような反応。
 顔に限らず、首やら耳まで真っ赤にして、片手で口元を覆っている。
 本当、誰よりも女の子らしい反応だな。

「次は各国言語別の告白及びプロポーズが始まるところだったんだけど」
「こんな時にふざけないで下さい!」
「残念、大真面目ですう」
「ぐっ……」

 私が本気でやろうとしたのを理解したらしい。
 各国言語別告白タイム、いや、今言った愛の叫びを、そのまま多国語でやる予定だったよ。
 気付くの遅いな、やっとなの。
 あ、でもサリュ他の言語分かるのかな?
 西側は大丈夫そうだけど、東側弱そうだし、もう少し言葉が違う告白の続きをすればよかった?
 そんなサリュを見ても、平常心に戻ろうとするのに必死。
 まだまだ赤い。
 これなら、言語別タイムはわざわざやる必要はなさそう。

「どう? 伝わった?」
「それは、」

 動揺していて好機なので、また駆け出した。
 それでも私の拳を受けても、びくともしないの。
 いい加減一回ぐらい届いてもいいのに。

「言葉で言わないと、わからないでしょ」
「……」

 ずっと言わなかったし、言うつもりもなかった。
 けど言ってしまえば、早いものだ。
 今の私は、ついさっきの晩酌に見たサリュのように、すっきりした顔をしているんだろう。

「サリュの気持ちだって、言葉にしてもらって、やっとわかったんだよ」

 まさかあれだけの塩対応で、実は好きでしたなんて、本気なのと思わざるを得なかったけど、祝福を授かることでよくわかった。
 というか、私が聖女じゃないと祝福授かって、その時に分かることはなかった。
 生涯守る意志とその加護を感じることができるのは、私達ならではだから。
 死ぬ気なのに守ります、なんて、えらい矛盾してるけど。
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