追放済み聖女の願う事

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4話 精霊を誘拐。反省も後悔も一切していない

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 シュリが私の怒りをおさめようとしてくれるけど、もう後戻りできない。
 だって腹が立つもの。

「根性叩き直す、ねえ……殺す気でないと私に殺されますよ?」
「そんなに死にたい?」
「ええ、やれるものなら」

 さっきから煽ってくれるじゃん。
 トンと彼の胸に手を置いた。
 抵抗はなかった。

「?」

 不可解だと言わんばかりに眉根を寄せる。
 次に私の手にしていたものが彼の胸に当たり、その感触に聡明な彼はすぐに気づいた。

「まさか、」
「連れてくから」
「ま、」

 一瞬で消える。
 相対していた力がなくなり、よろけるシュリはなんとか自力で立っていた。
 そしてカツンと金の剣が落ちた。

「ちょ、エクラ、無茶しすぎ」
「ごめん、軽くキレた」
「女の子がそういう言葉遣い駄目だって言ってるのに」
「知ってる」
「で? どうするの?」

 視線を私の手元におろしたまま言った。私が何をしたかシュリはよく分かっていた。
 掌の中には翡翠。うっすら黒色を帯びている。
 宝石に精霊を封印するとか、古き良きロールプレイングゲームにある展開じゃない?
 封印が解かれると世界は闇に包まれた、的な。あ、いけない。彼はまだラスボスでもなんでもなかった。

「連れていく」
「マジ?」
「もち。根性叩き直し修行の幕開けですぞ!」
「うわ、かわいそ……ちょっと同情する」
「え、なんで? そんなハードワークさせないよ?」
「知ってるけど、エクラ強引だから彼の意見無視するでしょ」
「そんなことは、ありませんよ」

 すでに最初から無視気味ではあるけど。
 シュリに苦笑を送って、近くに落ちた金の剣を手にした。

「それも持ってくわけ?」
「うん、形見だから」

 すると聞き覚えのある吠え声が聞こえた。
 破壊されつくして入り口がとても広くなったそこにお座りしている犬一匹。

「トレゾール、ついてきたの?」

 私の精霊。見た目は黒い中型犬で人の言葉を喋る事はないけれど意思疎通はばっちりだ。
 そんなトレゾールは首輪に何かを挟んでいて、それを私に向けた。とれということか。

「誰?」
「オンブルだ」
「てことは、ばーさん達が動いたってこと?」
「うん……いけない、監視者がこっちに来る」

 オンブルは私の従兄であり、聖女のサポーター的役割を担う監視者だ。名前の通り、聖女がきちんと求められる使命を果たしているか監視する役割も担っている。これは王都と聖女側で取り交わされた約束事。
 そしてシュリが言うのは大聖女と呼ばれる超越者たち、この大聖女こそチートってやつだ。
 未来は見える、歴史の始まりから過去が見える、精霊の力もいらず自身の持つ力だけで十二分。
 正直、大聖女が本気出せば世界は転覆すると思う。
 さておき、もっと簡単に言えば、大聖女は重役、私達聖女は末端社員、監視者は中間管理職みたいな感じ。
 こんな時も御先祖様の記憶便利だわ、社畜本当お疲れ。

「十中八九こっちに文句くるやつじゃん?」
「でもサリュークレを置いてはいけない……師匠に言われたのよ」
「はいはい、エクラしたいようにしなよ」
「ありがと」
「俺って優しいからね~」

 振り返り、師匠を見やる。最期に言った言葉だけでも、私はかなえてみせる。

「急ごう」
「オッケー」

 監視者が来ると厄介だ。
 オンブルは監視者の中でも血縁だからか、助けてくれることが多い。それもきっと大聖女に知られているところではあるのだけど、見逃してくれてる内は存分に甘える事にしている。
 オンブルへのお礼は後できちんとしておくか。

「戻るよ」

* * *

 転移の魔法ですぐに戻れば、私の精霊達は血塗れの私に悲鳴を上げた。

「主人! なんですか、その格好?!」
「あ、大丈夫。私の血じゃないから」

 自分の屋敷の庭に戻ってくれば、ちらほらと集まっていたらしい。私の精霊達が全員で迎えてくれた。
 血まみれの私を見てヴァンが着替えを用意しますと言って走り去っていく。見た目は小学生男子なのにこの屋敷で一ニを争うくらいしっかりしている。

「でも主、顔色悪いよ~?」
「あ、それね……」

 火の精霊フーが私の顔を覗き込む。ちなみにフーちゃんは中学生女子で、美少女だ。まさに熱い。
 そんなフーちゃんの言う通りというところか、握りしめた右手を開けば黒く濁る翡翠。
 瘴気を片手に立ってられるほど、私の聖女レベルは高くない。聖女だからって皆が皆チートではないからね。大聖女だけだよ。それ知ったら御先祖様嘆きそうだなあ。

「……どうした?」
「はい」
「え、おい、これは」

 金の精霊オールに、師匠のとこの精霊パラの所持品だった金の剣を渡す。
 触れれば金の剣が記憶したことがわかるはずだ。同じ金の精霊、大元は繋がっている。こういう媒体があれば尚更起きたことがわかるだろう。

「これで分かったでしょ」
「……これは俺が話すことではない」
「オッケー」

 ヴァンが着替えを抱えて戻ってきたところで、皆に見えるように翡翠を掲げた。

「はいはい皆、報告だよー!」

 さしたリアクションがないのはいつものことだ。御先祖様のノリってなかなかウケない。私の性分に合ってるから採用してるんだけども。ま、そこは気を取り直して、見せびらかそう。

「師匠んとこのサリュークレ連れて来ちゃった~的な」
「ん?」
「んん?」
「おい、それ」

 濁る翡翠を見て状況を察した皆が顔色を変えた。

「主人! なんてことを!」
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