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1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
18話 クーデレのデレ
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やっと聴けた。
ありがとうと小さく彼女に囁いて、オリアーナに向けてた視線を腰を抜かした父親に戻すと、相当な顔つきをしていたのか、びくりと肩を鳴らした。
「悲しいって」
「え」
「オリアーナは悲しいって!貴方どれぐらい放ってた?!」
10年…これはかなり長いでしょう。
それはと、しどろもどろになる父親に対し、私は変わらず捲し立てた。
「貴方、オリアーナに何て言ってた?」
「え…」
「務まらないだの、傾かせるだのよく言えるわ!父親に信用されないっていうのは辛い事でしょう!」
「チアキ」
「貴方に何かあったとしても、周りに八つ当たりしていい理由にはならないから!」
「チアキ、」
「し、しかし、」
「父親になれとも事業主になれとも言わないけど、いい加減戻って来たらどうなの」
そこにきて私も少しは冷静になってくる…大事な事も2回言ってやったわ。
まあこのままこの酔っ払いに引きこもりになられてもそれはそれで困る話だ。
オリアーナと向き合う前にこの父親は自分自身と向き合わないと始まらない。
それには彼と対話するステージにのってもらう事からが妥当だろう。
「そうですね…これから毎日夕餉に関してだけ階下でとることにします」
「…え、チアキ、それはどういった、」
「目が覚めたならいらして下さい」
「……チアキ」
もちろん酔っ払いは何も言わない。
見かねて視線を外し、オリアーナに目配せして部屋を出た。
すぐに執事長が私を追いかけて来て、私を呼び立ち止まらせる。
「お嬢様、傷の手当を」
「ああ…」
平手打ちされたことか。
確かに多少痛みは残っているけど、耐えられない程じゃない。
けど身体はオリアーナのものだし、きちんと労るとしよう。
「では私の自室でお願いできますか?」
「畏まりました。侍女を…アンナを遣わせます」
「ありがとうございます」
別れ際、帳簿のことを軽く伝えて自室に赴く…中途半端になってしまったが仕方ない。
あのままでは通常運行で帳簿確認は出来ないだろうし。
さて、この平手打ちのダメージが少ないのも、私の平手打ちで壁にめり込んだ父親も、はては箒に翻弄されて5階相当の高さから落ちても無傷だった時のことを考えると、やはり私の世界の常識から外れているし、この世界でもずれを感じる。
魂の入れ替えで私が最強の身体を手に入れているという設定でもいいけど、最強ならもっと必殺技みたいなものがだせそうな気もするし。
いいな、第三の眼とか開眼みたいな…いけない思考がそれたか。
「お嬢様」
「どうぞー」
入るなりアンナさんの心配そうな顔を見て良心が痛んだ。
大乱闘にならなくて良かったわ。
2発目きてたら間違いなく大乱闘だった。
「お嬢様、痛みは…」
「あまりないかな、かしら…張れなければいいでしょうし、骨等への影響は明日以降様子を見ながら考えましょう」
「畏まりました」
てきぱきと処置をし、湿布みたいなのを患部に貼ってアンナさんは去っていった。
淡々とした中に明らかに心配ですって感情が滲んでいて、大丈夫と言っても信じてもらえない可能性も高そうなので最低限の会話で終わる。
勿論、安心してもらうための雰囲気とか、言葉遣いには注意を払ったけど。
「チアキ…」
「ん?」
「その、あ、の、」
オリアーナにしては珍しく戸惑い言葉にするのを躊躇っている。
可愛いな、いくらでも待てるよと思いつつ彼女の言葉を待った。
「あ、ありがとうございます…」
「うん、どういたしまして」
クーデレのデレいらっしゃい。
まあこんな風にふざけてもいられないから、思考をシリアスに戻そう。
正直内容は割と深刻ではある。
「父とこれから食事を…とるのですか?」
「あぁ、それね。オリアーナが辛いなら一緒に来なくてもいいよ」
「いえ……あの父が来るとは思えなく…」
まあそれもそうだろう。
10年引きこもっていて、変わらず酒を飲み続けていた人間がそう変わるかと言われると、なかなか保障は出来ない。
本人次第の話だから尚更だ。
けど、あの酔っ払いから少し滲んで見えた後悔や罪悪感は本音に違いない。
だから戻ってこいと伝えた。
存外オリアーナの父親は素直な人間のようだ…だからこそ奥さん亡くしてああなってしまったのかもしれないけど。
「来た時を考えて動いてみようよ」
「来た時を、ですか…」
「そうそう、えーとこの世界の医者……あ、メディコだっけ?その人たちって私達が体調崩したとき診てくれるの?」
「…はい。必要な時に屋敷に」
「往診タイプか」
「おーしん?」
医者がいるなら話が早い。
あの父親の気持ちがその方向を向いたとき、すぐに行動できるようにしよう。
「ここの専属はあの父親の様子を知ってるの?」
「はい、何度か治療をと進言して頂きましたが、父がその、追い返してしまい」
「なるほど、事情知ってれば話が早い」
「どうするのですか?」
「まずは医者に相談さ」
後でアンナさんに専属医とのアポイントをとりつけるようにしよう。
そして治療プランの作成にとりかかるとしようじゃないか。
こちらが準備万端なら、後は一歩を父親が踏み出せれば波に乗れる。
「父を治す気ですか?」
「本人が望めばね」
「治るのでしょうか…」
「アルコール依存症はかなり大変だけど、やろうと思えばやれるよ」
何事もね、と付け加える。
オリアーナの世界にアルコール依存症という言葉がなかったので最初から説明することになったけど、言葉こそないものの概念としてはアルコール依存症は存在した。
ありがたいことに病気としてみてくれているので、これなら医者と話がスムーズに進みそうだ。
「認知と行動療法、食事改善からかな」
「チアキはメディコなのですか?」
「ん?医者ではないよ。大学が社会学だったから社会心理学の面で少しかじってるのと、友人の一人がアルコール依存症だった時があってね」
「ええと?」
おっとこちらの世界の言葉をのせすぎたか。
もしかしたら初期の糖尿病の気配もあるのだけど、その話は伏せておこう。
アル中に焦点をあてて治療するだけでも他の不随する病気も改善がはかれる。
後は専属医がどう判断するか。
「では明日からやってみますか」
「…はい」
ありがとうと小さく彼女に囁いて、オリアーナに向けてた視線を腰を抜かした父親に戻すと、相当な顔つきをしていたのか、びくりと肩を鳴らした。
「悲しいって」
「え」
「オリアーナは悲しいって!貴方どれぐらい放ってた?!」
10年…これはかなり長いでしょう。
それはと、しどろもどろになる父親に対し、私は変わらず捲し立てた。
「貴方、オリアーナに何て言ってた?」
「え…」
「務まらないだの、傾かせるだのよく言えるわ!父親に信用されないっていうのは辛い事でしょう!」
「チアキ」
「貴方に何かあったとしても、周りに八つ当たりしていい理由にはならないから!」
「チアキ、」
「し、しかし、」
「父親になれとも事業主になれとも言わないけど、いい加減戻って来たらどうなの」
そこにきて私も少しは冷静になってくる…大事な事も2回言ってやったわ。
まあこのままこの酔っ払いに引きこもりになられてもそれはそれで困る話だ。
オリアーナと向き合う前にこの父親は自分自身と向き合わないと始まらない。
それには彼と対話するステージにのってもらう事からが妥当だろう。
「そうですね…これから毎日夕餉に関してだけ階下でとることにします」
「…え、チアキ、それはどういった、」
「目が覚めたならいらして下さい」
「……チアキ」
もちろん酔っ払いは何も言わない。
見かねて視線を外し、オリアーナに目配せして部屋を出た。
すぐに執事長が私を追いかけて来て、私を呼び立ち止まらせる。
「お嬢様、傷の手当を」
「ああ…」
平手打ちされたことか。
確かに多少痛みは残っているけど、耐えられない程じゃない。
けど身体はオリアーナのものだし、きちんと労るとしよう。
「では私の自室でお願いできますか?」
「畏まりました。侍女を…アンナを遣わせます」
「ありがとうございます」
別れ際、帳簿のことを軽く伝えて自室に赴く…中途半端になってしまったが仕方ない。
あのままでは通常運行で帳簿確認は出来ないだろうし。
さて、この平手打ちのダメージが少ないのも、私の平手打ちで壁にめり込んだ父親も、はては箒に翻弄されて5階相当の高さから落ちても無傷だった時のことを考えると、やはり私の世界の常識から外れているし、この世界でもずれを感じる。
魂の入れ替えで私が最強の身体を手に入れているという設定でもいいけど、最強ならもっと必殺技みたいなものがだせそうな気もするし。
いいな、第三の眼とか開眼みたいな…いけない思考がそれたか。
「お嬢様」
「どうぞー」
入るなりアンナさんの心配そうな顔を見て良心が痛んだ。
大乱闘にならなくて良かったわ。
2発目きてたら間違いなく大乱闘だった。
「お嬢様、痛みは…」
「あまりないかな、かしら…張れなければいいでしょうし、骨等への影響は明日以降様子を見ながら考えましょう」
「畏まりました」
てきぱきと処置をし、湿布みたいなのを患部に貼ってアンナさんは去っていった。
淡々とした中に明らかに心配ですって感情が滲んでいて、大丈夫と言っても信じてもらえない可能性も高そうなので最低限の会話で終わる。
勿論、安心してもらうための雰囲気とか、言葉遣いには注意を払ったけど。
「チアキ…」
「ん?」
「その、あ、の、」
オリアーナにしては珍しく戸惑い言葉にするのを躊躇っている。
可愛いな、いくらでも待てるよと思いつつ彼女の言葉を待った。
「あ、ありがとうございます…」
「うん、どういたしまして」
クーデレのデレいらっしゃい。
まあこんな風にふざけてもいられないから、思考をシリアスに戻そう。
正直内容は割と深刻ではある。
「父とこれから食事を…とるのですか?」
「あぁ、それね。オリアーナが辛いなら一緒に来なくてもいいよ」
「いえ……あの父が来るとは思えなく…」
まあそれもそうだろう。
10年引きこもっていて、変わらず酒を飲み続けていた人間がそう変わるかと言われると、なかなか保障は出来ない。
本人次第の話だから尚更だ。
けど、あの酔っ払いから少し滲んで見えた後悔や罪悪感は本音に違いない。
だから戻ってこいと伝えた。
存外オリアーナの父親は素直な人間のようだ…だからこそ奥さん亡くしてああなってしまったのかもしれないけど。
「来た時を考えて動いてみようよ」
「来た時を、ですか…」
「そうそう、えーとこの世界の医者……あ、メディコだっけ?その人たちって私達が体調崩したとき診てくれるの?」
「…はい。必要な時に屋敷に」
「往診タイプか」
「おーしん?」
医者がいるなら話が早い。
あの父親の気持ちがその方向を向いたとき、すぐに行動できるようにしよう。
「ここの専属はあの父親の様子を知ってるの?」
「はい、何度か治療をと進言して頂きましたが、父がその、追い返してしまい」
「なるほど、事情知ってれば話が早い」
「どうするのですか?」
「まずは医者に相談さ」
後でアンナさんに専属医とのアポイントをとりつけるようにしよう。
そして治療プランの作成にとりかかるとしようじゃないか。
こちらが準備万端なら、後は一歩を父親が踏み出せれば波に乗れる。
「父を治す気ですか?」
「本人が望めばね」
「治るのでしょうか…」
「アルコール依存症はかなり大変だけど、やろうと思えばやれるよ」
何事もね、と付け加える。
オリアーナの世界にアルコール依存症という言葉がなかったので最初から説明することになったけど、言葉こそないものの概念としてはアルコール依存症は存在した。
ありがたいことに病気としてみてくれているので、これなら医者と話がスムーズに進みそうだ。
「認知と行動療法、食事改善からかな」
「チアキはメディコなのですか?」
「ん?医者ではないよ。大学が社会学だったから社会心理学の面で少しかじってるのと、友人の一人がアルコール依存症だった時があってね」
「ええと?」
おっとこちらの世界の言葉をのせすぎたか。
もしかしたら初期の糖尿病の気配もあるのだけど、その話は伏せておこう。
アル中に焦点をあてて治療するだけでも他の不随する病気も改善がはかれる。
後は専属医がどう判断するか。
「では明日からやってみますか」
「…はい」
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