クールキャラなんて演じられない!

文字の大きさ
上 下
19 / 164
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。

19話 ジョギング

しおりを挟む
「お嬢様、お求めの物が出来上がったと」
「ありがとうございます!」

翌朝、さすが服飾専門でやってるだけあって理想通りの物がきた。
注文品を見てにやにやしてると、オリアーナが不思議そうにこちらを見上げている。

「チアキ、それは?」
「ふふふ、この世界にはないだろうからねえ」

サイズもちょうどいいし、材質もいい。
1日家に引きこもってゲームしたりアニメ全話通す時はこれを着るけど今回は用途が違う。
学生時代を思い出すな。

「ふむ、登校まで時間あるし…オリアーナ付き合ってくれる?」
「はい…?」

頼んだ物を身に纏い出発する。
頼んだのはランニング用に頼んだジャージだ。
オリアーナはその姿を見て神妙な面持ちになっていたけど仕方ない。
そのうち見慣れるだろう…これでも身体のラインがでない露出ないという点で作ってもらったし、想像通り出来上がっている。
あのドレスの数々を考えるとこういう服装は令嬢は着ないし望まれないかもしれないが、自分の領地内ならいいところでお隣さんぐらいしか目につかない。

「オリアーナがこれに見慣れたら、本格的なランニング用ウェアも頼もうかな」
「チアキの世界では走る時にそのような服を着るのですか?」
「そうだね、他にも種類あるけど」

昨日の今日なので朝の帳簿確認はなしになっていたから丁度いい。
アンナさんに少し外に出ることを伝えてジョギングをしてみる。
ひとまず学園とは反対方向、往復30分ぐらいで軽くにしてみるか。

「オリアーナ、速い?」
「問題ありません」

わんこだからか、オリアーナ自身の体力かわからないけど、速さに問題はないらしい。
一緒に付き合ってくれてよかった。
彼女にも運動というものを体験してもらえる方がいい。
森林浴に軽度の運動は組み合わせがいいし、なんていったって運動すればよく眠れる。
回復魔法がかかるぐらいの効き目を得られるんだから…実際の回復魔法の効能と比べてみてもいいかもしれない。

「おお」

走り続けて森林を抜けると平原が続く。
風も通るし景色も良くて気持ちがいい。
ふむ、それにしても領地がこれだけ広いならこの土地何かに利用できないかだろうか。
もしかしたら自然保護法みたいなものに則って、このままを維持しなきゃいけないかもしれないから、そこはよく調べておこう。

「あ、おはようございます」
「………」

案外早くに遠くに見えたお隣さんの家付近に辿り着いた。
距離はそこそこあるから聞こえてなかったのかもしれないけど、こちらを見ているから挨拶の言葉と一緒に会釈も加えとく。
丁度別の道も見えたし、このへんを折り返しにして帰るとしよう。

「お隣さんってどんな人?」
「……私はあまり関わった事がありませんので、詳しくは…」

分かる事は男爵家、父親より少し年上だけど子供はいない。
使用人の数もオリアーナのとこよりは少なめで最近はあの家のご主人が足を悪くしたとかしないとか。
うん、結構な情報量だよ。
この世界、私がいた世界よりプライバシー保護されてない気がしてきた。

オリアーナと話をしつつ横目に見れば馬車が家の方向に進んで行くのが見えた。
景色が変わると走るモチベーションも続くからいいな…帰りはこの道を重宝しよう。

「お嬢様」
「ただいま戻りました」
「湯浴みはいかがしますか?」

汗をかきながら戻った私を見て瞬時に判断してくれるアンナさん有能すぎる。
自室の隣で軽く入る事を希望すれば、なんともう用意してあった。
私が社長ならアンナさんを秘書にする、絶対。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


「オリアーナ!」
「エドアルド」

これ、といきなりプレゼントをもらう。
それを貰えば、隣で「いつももらっている茶葉です」と補足が入った。

「ありがとうございます」
「うん!」

今日も可愛いねと言いたいところだけど、そこはこらえて丁重にプレゼントを受け取る。
どうやらエドアルドのところは紅茶とワインで農場兼工場を持っているようだ。
いいな、ワインも欲しいです。

「ワイン…」
「オリアーナ、お酒好きだった?」
「!」

ぐぐっと声が漏れる。
そうだ、飲めるとはいえ夕食に用意されているとはいえ、オリアーナが好きでお酒を嗜むかどうかをまったく考慮してなかった…。
家で当たり前のように飲んでしまっていたではないか。

「チアキ、私はお酒は好きですよ。チアキ程じゃありませんが」
「そっか、普通程度に好きなの!」
「そうなんだ?」

おっとうっかりオリアーナに語りかけてた。
エドアルドが勘違いしてくれてよかった。

「それなら、今度持ってくるね」
「ありがとうございます!」

喜んでお待ちしてます、ワイン。

それにしてもこの献身ぶり、オリアーナのこと好きすぎでしょう。
むしろ幼馴染ってそういうものなの?
幼馴染がいなかった私にはサブカル知識でしか分からない…リアルな幼馴染とは何かを誰か教えてほしい。

「紅茶、早速今日飲みます」
「本当!嬉しいな!」

君が嬉しいと私も嬉しいです。
もうきゃっきゃしたい、この子と。
よしよししたい。
この前うっかりよしよしした時、髪の毛触り心地よかったし、なんだかいい匂いもしたし、本当よしよししたい。

「オリアーナ」
「あ、エステル。トット」
「オリアーナ、僕行くね」
「え、そう?ですか?」
「うん、また明日!」

エステルとトットがやって来て、彼は気を遣ってくれたのか颯爽と去っていった。
癒しよ、また会おう。
出来れば頭よしよししても大丈夫なぐらいキャラ変したことを許容してほしいところだけど。

「チアキ?どうかして?」
「あ、ううん」

そして2人を見て思い出す。
オリアーナが持っていた魂の入れ替えに関する本だ。
それを見て二人は神妙な顔をする。

「やはり」
「どうかした?」
「王室図書館の持出禁止の書籍と同じだ」
「え?!」
「けれどこれは複製ね。原本ではないわ」

さりげなく凄い事態だよ?
あっさり話してるけど…ようは発禁本コピーが世に出回ってるてことだ。
それよりも2人とも偽物と本物わかるの?
ヒーローとヒロインの立場というかスキルがすごすぎて困る。

「オリアーナ嬢はこれをどこで?」
「…姉の部屋にありました。気づいたのは10年前です」

となると持ち主はオルネッラ?
何のために?
まさかオリアーナみたく自殺志願者だったとかじゃないよね…さすがに母親と一緒に心中するわけもないだろうし。

「オルネッラがこの本持つ理由ある?」
「私の知る限りではありません」

曰く、悩んでる様子はなかったと。
事業の手伝いを始めていたけどそれも問題なく、家族間に問題もなく、学園でも問題なく。
むしろオリアーナから見たオルネッラは他者に好かれる明るい女性だったようだ。

そしてオリアーナの言葉に悩むトットとエステル。

「この原本の閲覧履歴を探ってみよう」
「おう、ありがとう」
「なに、俺が気になるだけだ」
「イケメェン!」
「私はそちらの魔法に詳しい人をあたってみるわ」
「エステル…癒し!」

変わらないわねとエステル、トットに笑われる。
私は存外今の生活を楽しんでいるからな…一日のほとんどがオタク的な要因しかない世界は私にとって幸せでしかない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

知らなかったら…

水姫
恋愛
こんな話もありなはず……。 「…えっ?」 思い付きで書き始めたので、見るに耐えなくなったら引き返してください。裏を読まなければそんなにヤンデレにはならない予定です。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...