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幕間 ──1──
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「──以上が、レジン様が持ち帰った情報でございます」
「ふむ……」
玉座に座る俺の父、ラモン=イストガリア。
イストガリア帝国の国王である父は、しかめっ面で少しの間思案に耽る。
そして暫く経った後、父は報告の一部を反芻した。
「一万の軍勢と、難攻不落のランドブルム要塞の陥落。 それをたった一人の男がやってのけたというのか。 よもやそのような傑物がこの世に存在するとは……影の盟主、リュクス=ペンドラゴン。 なんとも恐ろしい男よ」
「……不敬ながら申し上げます、王様。 今後、共和国への侵攻はお取り止めになられた方がよろしいかと。 その者と戦えば確実に我が国は滅ぶものと思われます」
「なっ……! ふざけるなよ、貴様!」
この俺様をこんな目に遇わせたあいつをこのまま野放しにするというのか!
そんな事……!
「次代の王足る俺がこんな目に遇ったんだぞ! なのに報復もしないってのか! そんな事、父上が容認する筈が……!」
「…………わかった。 各将へ、一時進軍は取り止めとする、追って通達があるまで待機せよ、と伝えておけ」
「ち……父上……? 一体何を……」
あの剛健な父上が進軍を取り止める、だと?
バカな……。
帝国の威信は……帝国の誇りはどこへ行ってしまったというんだ、父上。
「お前をここまで痛め付けた事はもちろん、犠牲になった者達を思えば報復すべきだろう」
「でしたら……!」
「だが、私には国民を守る義務がある。 聞けばそやつは、たった1日で一万もの魔物と砦を掃討したというではないか。 そのような化物と、どう戦えば良いというのだ。 関われば我々に残された道は破滅のみ。 であれば、此度は痛み分けとするしかあるまい」
周囲の大臣や騎士共も父上の言葉に賛同なのか、誰しもが反対の意見を述べやしない。
この俺が、こんな無様な姿にされたというのに。
「……ッ! わかりました! ではもう結構! これで失礼させていただく!」
「レジン、待つのだ。 まだ話は……」
そう言って俺は、父上の命も無視し、怒りを露にして謁見の間から出ていった。
「どいつもこいつもふざけやがって! クソクソクソクソクソ!」
「げほ、げほっ! うぅ……」
「も……もうお止めください、レジン様! これ以上暴力を振るっては、その奴隷の体力が持ちません! どうかお止めください!」
「ええい、うるさい! 同じ目に遇いたくなければ邪魔をするな! わかったか!」
「…………」
黙って引き下がる執事を横目に、俺は奴隷の女をしこたま蹴り続ける。
あの男にされたように、何度も何度も。
「ははははは! はははははははっ!」
なのに全然気が晴れない。
恨みが、怒りが増すばかりで、鬱憤が一向に消えやしない。
どうしたらこの怒りは収まる。
やはりあの男を殺さねば、心にかかったこの靄が晴れることは……。
「ふふ……随分と荒れていらっしゃいますね、レジン様。 何か嫌な事でもあったのですか?」
「てめえか、イリーナ……」
イリーナ=アルタイル。
此度の進軍に最も貢献した功労者で、魔物を制御下における機械なる物を産み出した赤毛の魔人族。
それがこの女、イリーナである。
「何しに来やがった。 まさかまたあの話か? 何度も断ってんだろ、てめえの片棒を担ぐつもりは……」
「あら、それは残念。 今のレジン様ならわたくしの崇高な目的に手を貸してくださると思いましたのに、本当に残念ですわ。 ……わたくしでしたら、レジン様の中で燻る復讐心。 悪感情を導き、わたくしの可愛い子達を葬ったかの化物を殺す手伝いが出来ますのに、残念でなりませんわ」
「……!」
瞳孔を開いて動きを止めた俺を見て、イリーナはニヤリと口角を上げる。
更に彼女は、動揺する俺の耳元に唇を近づけると、続けてこんな事を────
「わたくしが望むのは魔王様の復活のみ。 例の男には興味ありませんわ。 貴方に差し上げましょう。 ……さあ、どうされますか? わたくしと手を組むか、それとも復讐を諦めるか。 全ては貴方次第ですよ、レジン様」
魔王の復活に手を貸すなど、人としてあるまじき行為。
ましてや相手は魔人族。
信用に足る相手ではない。
それを分かっていながらも、奴への復讐心を抑えられない俺は、気付くと差し出された手を握っていた。
「……わかった、手を貸してやる。 その代わり、奴を必ず死に至らしめろ。 これが絶対条件だ」
「ええ、もちろん。 魔王軍元幹部である四神将イリーナ=アルタイルが、必ず貴方の期待に応えて差し上げましょう。 どうぞご期待くださいませ、ふふふふふ────」
待っていろよ、リュクス=ペンドラゴン。
お前は絶対俺が殺してやる。
お前の大事なもんを目の前で奪ってから、絶望の中でお前を殺してやる。
その時を楽しみにしているんだな、リュクス────!
「ふむ……」
玉座に座る俺の父、ラモン=イストガリア。
イストガリア帝国の国王である父は、しかめっ面で少しの間思案に耽る。
そして暫く経った後、父は報告の一部を反芻した。
「一万の軍勢と、難攻不落のランドブルム要塞の陥落。 それをたった一人の男がやってのけたというのか。 よもやそのような傑物がこの世に存在するとは……影の盟主、リュクス=ペンドラゴン。 なんとも恐ろしい男よ」
「……不敬ながら申し上げます、王様。 今後、共和国への侵攻はお取り止めになられた方がよろしいかと。 その者と戦えば確実に我が国は滅ぶものと思われます」
「なっ……! ふざけるなよ、貴様!」
この俺様をこんな目に遇わせたあいつをこのまま野放しにするというのか!
そんな事……!
「次代の王足る俺がこんな目に遇ったんだぞ! なのに報復もしないってのか! そんな事、父上が容認する筈が……!」
「…………わかった。 各将へ、一時進軍は取り止めとする、追って通達があるまで待機せよ、と伝えておけ」
「ち……父上……? 一体何を……」
あの剛健な父上が進軍を取り止める、だと?
バカな……。
帝国の威信は……帝国の誇りはどこへ行ってしまったというんだ、父上。
「お前をここまで痛め付けた事はもちろん、犠牲になった者達を思えば報復すべきだろう」
「でしたら……!」
「だが、私には国民を守る義務がある。 聞けばそやつは、たった1日で一万もの魔物と砦を掃討したというではないか。 そのような化物と、どう戦えば良いというのだ。 関われば我々に残された道は破滅のみ。 であれば、此度は痛み分けとするしかあるまい」
周囲の大臣や騎士共も父上の言葉に賛同なのか、誰しもが反対の意見を述べやしない。
この俺が、こんな無様な姿にされたというのに。
「……ッ! わかりました! ではもう結構! これで失礼させていただく!」
「レジン、待つのだ。 まだ話は……」
そう言って俺は、父上の命も無視し、怒りを露にして謁見の間から出ていった。
「どいつもこいつもふざけやがって! クソクソクソクソクソ!」
「げほ、げほっ! うぅ……」
「も……もうお止めください、レジン様! これ以上暴力を振るっては、その奴隷の体力が持ちません! どうかお止めください!」
「ええい、うるさい! 同じ目に遇いたくなければ邪魔をするな! わかったか!」
「…………」
黙って引き下がる執事を横目に、俺は奴隷の女をしこたま蹴り続ける。
あの男にされたように、何度も何度も。
「ははははは! はははははははっ!」
なのに全然気が晴れない。
恨みが、怒りが増すばかりで、鬱憤が一向に消えやしない。
どうしたらこの怒りは収まる。
やはりあの男を殺さねば、心にかかったこの靄が晴れることは……。
「ふふ……随分と荒れていらっしゃいますね、レジン様。 何か嫌な事でもあったのですか?」
「てめえか、イリーナ……」
イリーナ=アルタイル。
此度の進軍に最も貢献した功労者で、魔物を制御下における機械なる物を産み出した赤毛の魔人族。
それがこの女、イリーナである。
「何しに来やがった。 まさかまたあの話か? 何度も断ってんだろ、てめえの片棒を担ぐつもりは……」
「あら、それは残念。 今のレジン様ならわたくしの崇高な目的に手を貸してくださると思いましたのに、本当に残念ですわ。 ……わたくしでしたら、レジン様の中で燻る復讐心。 悪感情を導き、わたくしの可愛い子達を葬ったかの化物を殺す手伝いが出来ますのに、残念でなりませんわ」
「……!」
瞳孔を開いて動きを止めた俺を見て、イリーナはニヤリと口角を上げる。
更に彼女は、動揺する俺の耳元に唇を近づけると、続けてこんな事を────
「わたくしが望むのは魔王様の復活のみ。 例の男には興味ありませんわ。 貴方に差し上げましょう。 ……さあ、どうされますか? わたくしと手を組むか、それとも復讐を諦めるか。 全ては貴方次第ですよ、レジン様」
魔王の復活に手を貸すなど、人としてあるまじき行為。
ましてや相手は魔人族。
信用に足る相手ではない。
それを分かっていながらも、奴への復讐心を抑えられない俺は、気付くと差し出された手を握っていた。
「……わかった、手を貸してやる。 その代わり、奴を必ず死に至らしめろ。 これが絶対条件だ」
「ええ、もちろん。 魔王軍元幹部である四神将イリーナ=アルタイルが、必ず貴方の期待に応えて差し上げましょう。 どうぞご期待くださいませ、ふふふふふ────」
待っていろよ、リュクス=ペンドラゴン。
お前は絶対俺が殺してやる。
お前の大事なもんを目の前で奪ってから、絶望の中でお前を殺してやる。
その時を楽しみにしているんだな、リュクス────!
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