6 / 8
【SIDE:B③】予想外
しおりを挟むまさか遭遇するとは思わなかったが、俺は怖さんを連れて、料理店へと戻った。顔なじみの店主が、奥の個室に通してくれた。俺の前で怖さんは小動物のように縮こまっている。
……正直、どんな人間なのだろうかとは思っていた。
予想外だった。
顔が可愛い……。
ただちょっと細すぎる。大きな目で、視線を下げては、オロオロしたように再び顔を上げて俺を見て、目が合うとまた目線を下げる姿がとても可愛い。多分同年代だが、幼く見える。
「あの……」
怖さんが口を開いたのは、店主がお茶を二つ運んできた後だった。
「はい」
「えっ……と……楪さん、その……」
「ああ」
焦っている様子の怖さんを、俺は怯えさせないようにしながらゆっくりと話を促す。
「次の新作の投稿はいつですか? 待ってます。昨日のも面白かったです」
それを聞いて、俺は体に変な力がこもりそうになった。お世辞でも嬉しい。
だが――本日の一位は怖さんであり、若干プライドにも傷がついた。
しかしそれよりも、俺には言いたいことがある。
「――恐縮だが、俺の方こそ怖さんの連載の続きを待っている。次の更新予定は? 二週間前から毎日待機しているんだ。あ、いや……更新催促というわけではないんだが」
「え? ああ……あれなら、もう自分の端末の環境内では完結してるんですが、投稿するのが面倒で」
「おい」
俺は思わずつっこんでしまった。すると目に見えて怖さんがビクリとした。
「頼む、読ませてくれ」
「あ……そういうことなら、俺の家に来ます?」
「行く」
俺は即答したが、そういうことでは無かった。投稿して欲しいという意味だったのだが、どうしてこういう流れになったのか……しかし、読みたいので俺はついていくことにした。結局俺達は何も頼まず店を出たが、顔なじみの店主は笑顔で見送ってくれた。
ゆっくりと花を持って歩く怖さんの横を進み、到着したマンションの二階に俺達は入った。この怖さんの家の近所の風景も、SNSで見慣れていたため、内心で、やっぱりここか、と、俺は思っていたがそれは言わなかった。
「どうぞ」
中に入ると、正直汚い部屋があった。ゴミは捨てられているが、ところどころにほこりがたまっている。駆け寄ってきた猫はとても可愛い。
「ええと、これが続きです」
こうしてパソコンの前に促された俺は――……その後、人の家でボロボロと泣いた。最高に良かった、胸に突き刺さりすぎるラストだった。
「どうしてこれを投稿しないんだ!?」
「忘れてて」
「あのな!? どれだけ! どれだけこちらが待っていたと思っているんだ!!」
「え? でも、え? 本当に読んでいたのが意外というか……」
「待っていた!」
「はぁ……」
怖さんが困った顔をしている。俺は思わず唇に力を込めてから、ガシッとその肩に手を置いた。
「大至急投稿しろ!」
「いやでも、今は楪さんが来てくれてますし、パソコンを弄るのは悪いかなと……」
「いいから!」
俺はそれこそが己の使命だと判断して、強く強く怖さんを促した。
するとおどおどしながら怖さんが投稿作業を開始した。
俺はスマホで無事に投稿されたのを確認し、その画面でも再度読み、また泣いてから笑顔を浮かべた。
「本当に最高だった」
「あの……やめてもらっていいですか? 俺……面と向かって褒められると恥ずかしくて……あの、恥ずかしくて死んじゃうんで……あの……だ、だから……ええと」
怖さんは真っ赤になって俯き、プルプルと震えだした。
可愛い。
怖さんが可愛い生き物だと、俺はこの日初めて知った。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

神の居る島〜逃げた女子大生は見えないものを信じない〜
(旧32)光延ミトジ
キャラ文芸
月島一風(つきしまいちか)、ニ十歳、女子大生。
一か月ほど前から彼女のバイト先である喫茶店に、目を惹く男が足を運んでくるようになった。四十代半ばほどだと思われる彼は、大人の男性が読むファッション雑誌の“イケオジ”特集から抜け出してきたような風貌だ。そんな彼を意識しつつあった、ある日……。
「一風ちゃん、運命って信じる?」
彼はそう言って急激に距離をつめてきた。
男の名前は神々廻慈郎(ししばじろう)。彼は何故か、一風が捨てたはずの過去を知っていた。
「君は神の居る島で生まれ育ったんだろう?」
彼女の故郷、環音螺島(かんねらじま)、別名――神の居る島。
島民は、神を崇めている。怪異を恐れている。呪いを信じている。あやかしと共に在ると謳っている。島に住む人間は、目に見えない、フィクションのような世界に生きていた。
なんて不気味なのだろう。そんな島に生まれ、十五年も生きていたことが、一風はおぞましくて仕方がない。馬鹿げた祭事も、小学校で覚えさせられた祝詞も、環音螺島で身についた全てのものが、気持ち悪かった。
だから彼女は、過去を捨てて島を出た。そんな一風に、『探偵』を名乗った神々廻がある取引を持ち掛ける。
「閉鎖的な島に足を踏み入れるには、中の人間に招き入れてもらうのが一番なんだよ。僕をつれて行ってくれない? 渋くて格好いい、年上の婚約者として」
断ろうとした一風だが、続いた言葉に固まる。
「一緒に行ってくれるなら、君のお父さんの死の真相、教えてあげるよ」
――二十歳の夏、月島一風は神の居る島に戻ることにした。
(第6回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった方、ありがとうございました!)
あやかし警察おとり捜査課
紫音
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
転生したら戚夫人だった件 ~人豚になりたくないので全力で回避します!!
桃千あかり
ファンタジー
宿城高校の文芸部では、ある賭けが行われた。それは、巷で人気の異世界転生ものを書けば、小説投稿サイトでトップランカーになれるのでは?というものであった。
部員の笹掻と部長が書いた転生小説は……。
※戚夫人……高祖劉邦の側室。皇后の呂雉に憎まれ、とんでもない状態にされた(と言われている)。
【ご注意】
・プロローグ短編のつもりはありませんが、オチが弱くて、そう読めてしまったら申し訳ありません。
・2000文字制限で書いた作品です。
・ガバ設定。文章外の出来事は各自のご想像にお任せします。
※表紙はpicrewのイラストをお借りし、加工しました。
■purin様「ぽんぽんぺいん」:ちびキャラ3名(https://picrew.me/image_maker/18306)
※別名で他サイトに掲載(小説家になろう、NOVEL DAYS)
ひきこもり瑞祥妃は黒龍帝の寵愛を受ける
緋村燐
キャラ文芸
天に御座す黄龍帝が創りし中つ国には、白、黒、赤、青の四龍が治める国がある。
中でも特に広く豊かな大地を持つ龍湖国は、白黒対の龍が治める国だ。
龍帝と婚姻し地上に恵みをもたらす瑞祥の娘として生まれた李紅玉は、その力を抑えるためまじないを掛けた状態で入宮する。
だが事情を知らぬ白龍帝は呪われていると言い紅玉を下級妃とした。
それから二年が経ちまじないが消えたが、すっかり白龍帝の皇后になる気を無くしてしまった紅玉は他の方法で使命を果たそうと行動を起こす。
そう、この国には白龍帝の対となる黒龍帝もいるのだ。
黒龍帝の皇后となるため、位を上げるよう奮闘する中で紅玉は自身にまじないを掛けた道士の名を聞く。
道士と龍帝、瑞祥の娘の因果が絡み合う!
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
あやかし嫁取り婚~龍神の契約妻になりました~
椿蛍
キャラ文芸
出会って間もない相手と結婚した――人ではないと知りながら。
あやかしたちは、それぞれの一族の血を残すため、人により近づくため。
特異な力を持った人間の娘を必要としていた。
彼らは、私が持つ『文様を盗み、身に宿す』能力に目をつけた。
『これは、あやかしの嫁取り戦』
身を守るため、私は形だけの結婚を選ぶ――
※二章までで、いったん完結します。
後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜
あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】
姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。
だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。
夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※5話は3/9 18時~より投稿します。間が空いてすみません…
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる