確実に奴は天才だと思う。

水鳴諒

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【SIDE:B③】予想外

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 まさか遭遇するとは思わなかったが、俺は怖さんを連れて、料理店へと戻った。顔なじみの店主が、奥の個室に通してくれた。俺の前で怖さんは小動物のように縮こまっている。

 ……正直、どんな人間なのだろうかとは思っていた。
 予想外だった。
 顔が可愛い……。
 ただちょっと細すぎる。大きな目で、視線を下げては、オロオロしたように再び顔を上げて俺を見て、目が合うとまた目線を下げる姿がとても可愛い。多分同年代だが、幼く見える。

「あの……」

 怖さんが口を開いたのは、店主がお茶を二つ運んできた後だった。

「はい」
「えっ……と……楪さん、その……」
「ああ」

 焦っている様子の怖さんを、俺は怯えさせないようにしながらゆっくりと話を促す。

「次の新作の投稿はいつですか? 待ってます。昨日のも面白かったです」

 それを聞いて、俺は体に変な力がこもりそうになった。お世辞でも嬉しい。
 だが――本日の一位は怖さんであり、若干プライドにも傷がついた。
 しかしそれよりも、俺には言いたいことがある。

「――恐縮だが、俺の方こそ怖さんの連載の続きを待っている。次の更新予定は? 二週間前から毎日待機しているんだ。あ、いや……更新催促というわけではないんだが」
「え? ああ……あれなら、もう自分の端末の環境内では完結してるんですが、投稿するのが面倒で」
「おい」

 俺は思わずつっこんでしまった。すると目に見えて怖さんがビクリとした。

「頼む、読ませてくれ」
「あ……そういうことなら、俺の家に来ます?」
「行く」

 俺は即答したが、そういうことでは無かった。投稿して欲しいという意味だったのだが、どうしてこういう流れになったのか……しかし、読みたいので俺はついていくことにした。結局俺達は何も頼まず店を出たが、顔なじみの店主は笑顔で見送ってくれた。

 ゆっくりと花を持って歩く怖さんの横を進み、到着したマンションの二階に俺達は入った。この怖さんの家の近所の風景も、SNSで見慣れていたため、内心で、やっぱりここか、と、俺は思っていたがそれは言わなかった。

「どうぞ」

 中に入ると、正直汚い部屋があった。ゴミは捨てられているが、ところどころにほこりがたまっている。駆け寄ってきた猫はとても可愛い。

「ええと、これが続きです」

 こうしてパソコンの前に促された俺は――……その後、人の家でボロボロと泣いた。最高に良かった、胸に突き刺さりすぎるラストだった。

「どうしてこれを投稿しないんだ!?」
「忘れてて」
「あのな!? どれだけ! どれだけこちらが待っていたと思っているんだ!!」
「え? でも、え? 本当に読んでいたのが意外というか……」
「待っていた!」
「はぁ……」

 怖さんが困った顔をしている。俺は思わず唇に力を込めてから、ガシッとその肩に手を置いた。

「大至急投稿しろ!」
「いやでも、今は楪さんが来てくれてますし、パソコンを弄るのは悪いかなと……」
「いいから!」

 俺はそれこそが己の使命だと判断して、強く強く怖さんを促した。
 するとおどおどしながら怖さんが投稿作業を開始した。
 俺はスマホで無事に投稿されたのを確認し、その画面でも再度読み、また泣いてから笑顔を浮かべた。

「本当に最高だった」
「あの……やめてもらっていいですか? 俺……面と向かって褒められると恥ずかしくて……あの、恥ずかしくて死んじゃうんで……あの……だ、だから……ええと」

 怖さんは真っ赤になって俯き、プルプルと震えだした。
 可愛い。
 怖さんが可愛い生き物だと、俺はこの日初めて知った。



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