確実に奴は天才だと思う。

水鳴諒

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【SIDE:A③】最高

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 やっぱり楪さんの短編は最高だった。
 面白かった。
 俺は読了後に自分の短編も投稿して眠り、一夜明けて本日は、朝から珍しく外出の準備をしていた。実は本日は、猫の誕生日なので、花を買いに行くことに決めたのである。

 めったに買い物になど行かないので、ドキドキしつつも俺は外へと出た。
 少し雨が降っていたので、灰色の空の下で傘を差す。
 ゆっくりと歩いて行くと、花を買った後で、先日楪さんが投稿していたご飯屋さんの前に通りかかった。

「やっぱりここ……」

 絶対に近隣住民だと考えながら、俺は周囲を見渡す。
 その時、丁度扉が開いて、スーツ姿の青年が一人出てきた。

「あ」

 すると彼は、俺を見て目を見開き硬直した。

「?」

 なんだろうかと視線を向けると、直後ぎょっとした顔をされた。

「怖さん……」
「へ?」

 不意に俺のPNを口にされたものだから、俺は虚を突かれた。

「あ、いや」
「ま、待って下さい。今、なんて?」

 思わず俺がそう追求すると、青年が焦った顔をした。よく見ると非常に端正な造形をしている。背が高くて、俺と同年代だ。

「――その傘もアウターも、鞄も、全てネット通販で買ったと投稿していた、SNS上の知人が、怖さんと言うもので」
「えっ」

 俺には心当たりしかない。そして……同じ街でこの店というのも、一人だけ、それこそ先程思い浮かべていた相手しか心当たりがなかった。

「楪さん……?」
「!」
「そ、そうなんですか……?」
「ああ……やはり、怖さんなのか?」
「はい……」
「……」
「……」

 俺達の間に沈黙が横たわった。

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