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第三話 マネージャー候補対現部長
しおりを挟む「で? ウチがマネやる言うたら『はいそうですか、いいよ!!』っていうタイプの部員らなん?」
昼休憩。
柚子は武留の隣で、購買で買った焼きそばパンを齧りながらこの高校の男子バレーボール部員について問う。
一見強気に見える柚子だが、やはりいじめや拒絶は怖いのだ。
「うーん、あ! 今の部長は自分がエースってことに誇りを持ってるから、エースだった柚子ちゃんのこと敵対視しそう」
「柚子ちゃん言うなボケ。じゃあ、どないすんねん」
武留は「うーん」と考えて、そして何かを閃いた。
「勝負する?」
「バレーで?」
「うん」
「男女差、歴、立場。勝てる気せん」
「勝たなくてもいいじゃん」
「は?」
いったいこの馬鹿は何を言っているんだという顔の柚子。
勝負は勝ち負けを決めてこその勝負。
勝たなくていいなら勝負ではない。
「コタ先輩は熱い人だから、ちょっと実力見せたら、『お前、やるな!』ってなるよ!」
「ウチ、熱血漢嫌いやねん。やっぱマネやらん」
「え~~~~~~!! やってよぉ!!」
「う~ざ~い~!!」
纏わりついてくる武留を心底鬱陶しく思うが、叶うなら、マネージャーはやってみたい。
女子のねちっこいいじめはもう嫌なので、男子ならとも思う。
それに、『熱血漢』が中心なら、男子部員たちはそんなにいやらしくはないだろう。
「……はぁ、マネなぁ」
「やっぱ、嫌?」
「ウチはどっちか言うたらプレイヤーやから、マネやってたら試合に出たくなりそう」
「じゃあ、たまに試合形式の練習の一員になればいいじゃん」
「いや、アホか」
この馬鹿の性質は大体わかった。
楽天家なのだ。
現実主義の自分とは正反対だなと、柚子。
「とりあえず、放課後、部活行こうよ」
「はいはい、行けばええんやろ」
もうどうにでもなれだった。
―――放課後。
体育館にはもう何人かの部員が来ていた。
武留は柚子を体育館の入り口に置いて、自分は坊主の現部長、水波小太郎に近づく。
「コタ先輩」
「なんだ武留」
「マネ候補連れてきた!」
「は?」
小太郎はサーブの練習をしようとボールを天井に向かって投げたところに武留が素っ頓狂なことを言ってきたので、ボールが彼の頭に落下し、「あいた!」と小太郎は頭を押さえた。
柚子は意を決して体育館へ入っていく。
すると、一年生からは「あ、噂の転校生」と声が上がり、二年生からは「うわ、美女!」と声が上がった。
「どうも、今日この高校に転校してきてそこのボケに勧誘されました、若狭です」
「柚子ちゃん、中学ではエースしてたんだって!」
「柚子ちゃん言うなボケ」
柚子がエースだったと聞いて、部員たちがワイワイ言い出している間、小太郎は何かを考えていた。
「……若狭、だったか」
「はい」
「お前はプレイヤーか、サポーターか、どっちだ」
「プレイヤーです。でも、もう自身で試合に出ることはないです。自信をなくしました」
小太郎は、自身も経験があるのか、「新人戦か」と呟く。
「プレイヤーの経験を生かしてサポートをしようと思います。だめでしょうか」
「お前、ジャンプサーブは打てるか?」
「え? ああ、まあ、それが持ち味だったので」
武留が隣で「柚子ちゃんジャンプサーブ打てるの?!」とびっくりしているが、高校一年女子でジャンプサーブが持ち味とは中々のやり手だ。
「よし、十本だ。打ってみろ」
「勝負ですか?」
「いや、もうお前をマネにする気ではある。が、プレイヤーだったことを活かすなら実力を知るべきだ」
「先輩はそこの馬鹿とは違いますね」
「え?そこの馬鹿って、俺?」
こうして、マネージャー候補対現部長のサーブ十本打ちが始まり、部員たちはそわそわしたりしながら、コートの外に出る。
コート上に立っているのは、柚子と小太郎だけだ。
副部長の二年生が合図をすると、柚子はボールを高く上げて、助走をつけ、ジャンプしてジャストタイミングでボールを小太郎側のコートに打ち放つ。
バーン!! と高らかに音を鳴らし、ボールは小太郎の隣を過ぎ、ラインぎりぎりに落下した。
「先輩、身体反応してましたね。流石です」
「ふ、お前も中々じゃねーか」
そして、十本中六本を小太郎が見事にレシーブし、力試しは終わった。
「若狭、本当にもうプレイヤーには戻らないんだな?」
「はい。此処でサポートさせてください」
「分かった。顧問には俺から言っておく」
「ありがとうございます」
なんだかんだ、武留にマネージャーをやらないかと言われたときは嬉しかった。
もう、プレイヤーには戻れない。
でも、また、大好きなバレーに関われるなら。
辛辣な態度を取りつつ、実はめげないボーイに感謝していた辛辣ガールだった。
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