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砂川さんの家の扉の向こう側にあった世界はさっきと変わらず寒かった。
それでもさっきより少しは暖かく感じることが出来たのは、この身体を覆ってくれている砂川さんのジャケットのお陰。
そして砂川さんがくれた言葉とあの表情。
「凄く良い人・・・。」
ひんやりとする夜の中、砂川さんのジャケットを指先でキュッ─────...とし、慌てて離す。
「皺が出来ないようにしないと・・・。」
月曜日にこのスーツに皺が出来ていたら砂川さんはどんな顔をするのか心配になってきた。
数分前は終わりにさせない為にスーツのジャケットを借りようとしていたのに、今ではこのスーツのジャケットが怖くも感じてしまう。
「どれくらいの皺だとダメなんだろう・・・。」
ちゃんと確認をしてから借りれば良かったと今更考える。
「スーツのジャケットなんて借りなくても、また後日いくらでもお礼が出来たのに。」
そう考えるとこのスーツのジャケットがどんどんと重く感じてくる。
だからか歩いていた足を止めてしまった。
「返そう・・・。」
昨日出会ったばかりの砂川さんと今日偶然にも会え、私のことを助けてくれた。
私のことを“普通”の女の子だと言って、私のどんな話も笑うこともバカにすることもなく聞いてくれた。
“俺の家においで。”
あんな私の姿を見ても砂川さんはその言葉を言ってくれた。
「スーツの皺だけで終わっちゃうのは嫌だ・・・。」
砂川さんの家の門から数歩だけ歩いていた場所、そこから砂川さんの家の門をまた振り向いた。
そして走るようにして砂川さんの家の扉まで戻る。
鍵を閉められるよりも先に、砂川さんの家の扉をまた開けた。
砂川さんは無用心なことにまだ鍵を閉めていなかった。
それどころか廊下を歩いてくる気配もない。
そんな砂川さんに心の中でまた笑い、私はリビングに向かって廊下を歩いていく。
進む度に廊下の床が軋む音が響く。
その音を聞きながらリビングの扉の前まで歩き、さっき私が閉めた扉をまたゆっくり開けた。
そしたら、いた。
砂川さんがさっきまで座っていたソファーに変わらず座っている。
でもさっきとは少しだけ変わったこともあって。
両膝に両肘をつき、項垂れるように下を向いている。
ピクリとも動かない砂川さんの姿を斜め後ろから眺め、それには心配になり声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
私が声を掛けると砂川さんの身体は大きくビクッと跳び跳ねた。
「ビックリした・・・。
どうしたの?忘れ物?」
砂川さんがさっきまで私が座っていたソファーに視線を移す。
「やっぱりジャケットを返そうと思い戻ってきました。
せっかく仲良くして貰えているのにこのジャケットに出来た皺で終わりにされてしまうと嫌なので。」
「そんなことはしないよ。
そこに置いておいて。」
「そこって?」
「何処でもいいから、どこかそこら辺に。」
さっきまでは大切にしようとしていたジャケットの置き場所についてそんな風に言ってきた。
それにはやっぱり心配になりながらスーツのジャケットを脱ぎ、両手で大切に持ち砂川さんに近づいていく。
「ジャケット、ありがとうございました。」
「うん。」
砂川さんにジャケットを差し出すと砂川さんはそのジャケットをサッ────...と奪うように私の手から抜き取った。
私を見ることもなくソファーに座り、そのジャケットを自分の膝の上に無造作に置いた。
そんな砂川さんの姿を見てまた泣きそうになる。
さっきまではあんなに優しかった砂川さんがこんな風になってしまい、私が“何か”を間違えてしまったことだけは分かる。
「すみませんでした。
もう来ません。」
スーツのジャケットに皺が出来ていなくても終わってしまったのだと分かる。
何も始まってはいなかったけれど、“何か”を始めようとすることもなく終わってしまったのだとは私でも分かる。
「勝手に入ってきてすみませんでした。」
それかもしれないと思い謝り、泣きそうになっている瞼を必死に開け続けたまま後ろを向いた。
そしてまたリビングの扉へと向かい歩き始めたら・・・
「また俺の家においでね。」
その言葉をまた言って貰え、それには恐る恐る砂川さんのことを振り向いた。
砂川さんは私のことを見ることなく続けてくる。
「普段聞かないような話を聞いたからかな・・・。」
ボソッと呟いた砂川さんが苦笑いをしているのが横からでも分かる。
「何だろう・・・園江さんのお兄さんの話かな・・・。」
「うちのお兄ちゃん?」
「園江さんのお兄さんがセフレっていう女の子とセックスをしている話。」
「それが気持ち悪くて嫌でした?」
「いや・・・そうではなくて興奮の方なのかな。」
「興奮って?」
「普通に性的興奮。」
砂川さんがそんなことを言ってきたことには物凄く驚く。
それも私の“残念な兄”と田代のお姉ちゃんによる気持ち悪いエッチのことについて。
「俺は昔からそういう欲はなくて。
ただ男としての身体の構造上、処理をしなければいけないから処理はしているけど。
園江さんの口からそういう話を聞いていたら下半身が反応してきてしまった。」
引き続き驚きまくって何も言えずにいると、砂川さんが慌てたように私のことを見てきた。
やっと、見てきた。
「ごめんね、セクハラだよね。」
慌てまくっている砂川さんの姿を見てキュッ────...と私の胸が締め付けられる。
それを感じながら首を横に振る。
私の“残念”なはずの兄は何も“残念”ではないと今初めてそう思った。
心の中で“お兄ちゃん・・・!!!”と大きくお兄ちゃんのことを呼び、ソファーに座り続ける砂川さんの元へ戻っていく。
砂川さんの元に戻る私のことを狼狽えまくっている様子で見てくる砂川さんに、私は自然と笑顔になりながら近付く。
「砂川さん、今日は28歳の誕生日ですよね?」
「ああ、うん、そうだね。」
「私から誕生日プレゼントを渡していいですか?」
物凄く緊張するけれど“攻められる”と思って攻めた。
そのタイミングは今しかないと思いながら必死に口にする。
「砂川さんの誕生日プレゼントに私のバージンを貰ってくれませんか?」
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それでもさっきより少しは暖かく感じることが出来たのは、この身体を覆ってくれている砂川さんのジャケットのお陰。
そして砂川さんがくれた言葉とあの表情。
「凄く良い人・・・。」
ひんやりとする夜の中、砂川さんのジャケットを指先でキュッ─────...とし、慌てて離す。
「皺が出来ないようにしないと・・・。」
月曜日にこのスーツに皺が出来ていたら砂川さんはどんな顔をするのか心配になってきた。
数分前は終わりにさせない為にスーツのジャケットを借りようとしていたのに、今ではこのスーツのジャケットが怖くも感じてしまう。
「どれくらいの皺だとダメなんだろう・・・。」
ちゃんと確認をしてから借りれば良かったと今更考える。
「スーツのジャケットなんて借りなくても、また後日いくらでもお礼が出来たのに。」
そう考えるとこのスーツのジャケットがどんどんと重く感じてくる。
だからか歩いていた足を止めてしまった。
「返そう・・・。」
昨日出会ったばかりの砂川さんと今日偶然にも会え、私のことを助けてくれた。
私のことを“普通”の女の子だと言って、私のどんな話も笑うこともバカにすることもなく聞いてくれた。
“俺の家においで。”
あんな私の姿を見ても砂川さんはその言葉を言ってくれた。
「スーツの皺だけで終わっちゃうのは嫌だ・・・。」
砂川さんの家の門から数歩だけ歩いていた場所、そこから砂川さんの家の門をまた振り向いた。
そして走るようにして砂川さんの家の扉まで戻る。
鍵を閉められるよりも先に、砂川さんの家の扉をまた開けた。
砂川さんは無用心なことにまだ鍵を閉めていなかった。
それどころか廊下を歩いてくる気配もない。
そんな砂川さんに心の中でまた笑い、私はリビングに向かって廊下を歩いていく。
進む度に廊下の床が軋む音が響く。
その音を聞きながらリビングの扉の前まで歩き、さっき私が閉めた扉をまたゆっくり開けた。
そしたら、いた。
砂川さんがさっきまで座っていたソファーに変わらず座っている。
でもさっきとは少しだけ変わったこともあって。
両膝に両肘をつき、項垂れるように下を向いている。
ピクリとも動かない砂川さんの姿を斜め後ろから眺め、それには心配になり声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
私が声を掛けると砂川さんの身体は大きくビクッと跳び跳ねた。
「ビックリした・・・。
どうしたの?忘れ物?」
砂川さんがさっきまで私が座っていたソファーに視線を移す。
「やっぱりジャケットを返そうと思い戻ってきました。
せっかく仲良くして貰えているのにこのジャケットに出来た皺で終わりにされてしまうと嫌なので。」
「そんなことはしないよ。
そこに置いておいて。」
「そこって?」
「何処でもいいから、どこかそこら辺に。」
さっきまでは大切にしようとしていたジャケットの置き場所についてそんな風に言ってきた。
それにはやっぱり心配になりながらスーツのジャケットを脱ぎ、両手で大切に持ち砂川さんに近づいていく。
「ジャケット、ありがとうございました。」
「うん。」
砂川さんにジャケットを差し出すと砂川さんはそのジャケットをサッ────...と奪うように私の手から抜き取った。
私を見ることもなくソファーに座り、そのジャケットを自分の膝の上に無造作に置いた。
そんな砂川さんの姿を見てまた泣きそうになる。
さっきまではあんなに優しかった砂川さんがこんな風になってしまい、私が“何か”を間違えてしまったことだけは分かる。
「すみませんでした。
もう来ません。」
スーツのジャケットに皺が出来ていなくても終わってしまったのだと分かる。
何も始まってはいなかったけれど、“何か”を始めようとすることもなく終わってしまったのだとは私でも分かる。
「勝手に入ってきてすみませんでした。」
それかもしれないと思い謝り、泣きそうになっている瞼を必死に開け続けたまま後ろを向いた。
そしてまたリビングの扉へと向かい歩き始めたら・・・
「また俺の家においでね。」
その言葉をまた言って貰え、それには恐る恐る砂川さんのことを振り向いた。
砂川さんは私のことを見ることなく続けてくる。
「普段聞かないような話を聞いたからかな・・・。」
ボソッと呟いた砂川さんが苦笑いをしているのが横からでも分かる。
「何だろう・・・園江さんのお兄さんの話かな・・・。」
「うちのお兄ちゃん?」
「園江さんのお兄さんがセフレっていう女の子とセックスをしている話。」
「それが気持ち悪くて嫌でした?」
「いや・・・そうではなくて興奮の方なのかな。」
「興奮って?」
「普通に性的興奮。」
砂川さんがそんなことを言ってきたことには物凄く驚く。
それも私の“残念な兄”と田代のお姉ちゃんによる気持ち悪いエッチのことについて。
「俺は昔からそういう欲はなくて。
ただ男としての身体の構造上、処理をしなければいけないから処理はしているけど。
園江さんの口からそういう話を聞いていたら下半身が反応してきてしまった。」
引き続き驚きまくって何も言えずにいると、砂川さんが慌てたように私のことを見てきた。
やっと、見てきた。
「ごめんね、セクハラだよね。」
慌てまくっている砂川さんの姿を見てキュッ────...と私の胸が締め付けられる。
それを感じながら首を横に振る。
私の“残念”なはずの兄は何も“残念”ではないと今初めてそう思った。
心の中で“お兄ちゃん・・・!!!”と大きくお兄ちゃんのことを呼び、ソファーに座り続ける砂川さんの元へ戻っていく。
砂川さんの元に戻る私のことを狼狽えまくっている様子で見てくる砂川さんに、私は自然と笑顔になりながら近付く。
「砂川さん、今日は28歳の誕生日ですよね?」
「ああ、うん、そうだね。」
「私から誕生日プレゼントを渡していいですか?」
物凄く緊張するけれど“攻められる”と思って攻めた。
そのタイミングは今しかないと思いながら必死に口にする。
「砂川さんの誕生日プレゼントに私のバージンを貰ってくれませんか?」
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