釣りガールズ

みらいつりびと

文字の大きさ
上 下
12 / 78

第12話 ラーメン純樹

しおりを挟む
 午前中、美沙希はもう1匹小バスを釣り、カズミはニゴイを釣り上げた。バスではなかったが、釣り初心者の彼女は何が釣れても楽しかった。 

「そろそろお腹がすいたね」とカズミが言った。
「そうね」
「何を食べようか?」
 美沙希の目がキラリと輝いた。
「あのさ、カズミ、ラーメンは好き?」   
「うん。まぁ、ふつうに好きだけど」
「じゃあさ、ラーメン食べに行かない? このあたりではナンバー1のお店を知っているの。私基準ではみそラーメンなら日本一のラーメン屋さん!」
「日本一?」
 おおげさだなぁとカズミは思ったが、美沙希の目は真剣で、行こう行こうと誘っている。
 カズミは意外だった。このすらっとした美少女がラーメン好きとは。でも、もちろん美沙希が推すラーメン屋さんに行ってみたかった。
「食べたい」
「じゃあ行こう。自転車飛ばすわよ!」

 美沙希とカズミの地元は水郷地帯と呼ばれている。
 カスミガウラ水系の南あたりで、大小さまざまな河川や水路が流れている。湖沼もある。
 ふたりはそこを自転車で走った。
 先頭は美沙希。そのあとをカズミが追う。
 美沙希はときどき振り返って、カズミがついてきているか確認する。
 カズミは気にかけてもらっているようでうれしかった。
 橋をいくつか越えた。

 国道沿いに黄色い地に黒い字で「北海とんこつらーめん純樹」と書かれた看板があった。
 狭い駐車場にはぎっしりと車が駐められ、店の前に3人ほどの行列があった。
 自転車を駐輪場に置き、美沙希とカズミは列に並んだ。
 美沙希は見るからにウキウキしている。
 カズミの期待も膨らんできた。
 ちょうどぞろぞろとお客さんが出てきて、入れ替わりに入ることができた。
 店内にはカウンター席、テーブル席、座敷席があり、美沙希たちはカウンター席に案内された。湯気が立つ厨房が見える。

 カズミはふたつ折りにされたメニューを開いた。写真付きでみそラーメン、しょうゆラーメン、塩ラーメン、餃子、チャーハン、一品料理などが紹介されている。みそラーメンにも辛みそ、野菜みそ、ゴマみそ、坦々みそ、みそつけ麺などがあって、選ぶのがむずかしい。塩バジルラーメンなんて変わり種もある。
 こだわりの味噌が売りらしく、メニューには「数種類の味噌と野菜の旨味あふれる味噌ダレ」と書かれている。さらには「その日の温度や湿度によって配合や加水のバランスを変えて打つ自家製麺。小麦の風味がしっかりと感じられる」などと麺についての記述もあった。
「もしかして、すごい名店?」
「食べればわかるわ」
 お客さんたちはずずっと音を立てて麺をすすっている。カズミはごくっとつばを飲み込んだ。
「私は辛みそラーメンを食べるけど、カズミはどうする?」
「どれも美味しそうでわからないよ~」
「じゃあ基本のみそラーメンにしておけばいいよ。ちなみに大盛りも普通盛りも値段は同じ。私は大盛りにするけど」
「ああっ、あたしも大盛りで!」
「決まりね。辛みそラーメンとみそラーメンお願いします。どちらも大盛りで!」
 美沙希は慣れているらしく、大きな声で注文した。学校ではおとなしい彼女が釣り場やラーメン屋では別人のように元気だ。

 やがて、迫力満点のラーメンが運ばれてきた。
 キャベツやもやしなどの野菜がこぼれそうなほど盛り上がり、肉厚なチャーシューが1枚乗っている。
 スープの色はとんこつの白濁と味噌が混ざった明るめの茶色。ごまと背脂が浮かび、少しばかりの鷹の爪が散っている。辛みそラーメンは赤いラー油がスープの表面を覆っている。
「いただきます!」
 美沙希が食べ始めた。
 カズミはスマホで写真を撮り、箸を割った。
 あふれそうな野菜を食べ、スープを飲んだ。
「旨っ!」
「ね、旨いでしょう?」
 麺をすする。
「旨い!」
「旨いのよ! 純樹のラーメン旨いのよぉ!」
「辛みそ、味見させてもらってもいい?」
「どうぞ」
 レンガにスープをすくってひと飲み。
「辛っ! 旨っ!」
「辛旨よね~」
「旨いよ、旨い。もしかして本当に日本一のみそラーメンかも」
「私の知る限りでは、これを超えるみそラーメンはないわ」
「旨い!」
「旨い!」

 ふたりとも、大盛りを麺もスープも完食してしまった。
「お腹いっぱい」
「でも食べれちゃうのよね~。ふう」
 みそラーメン820円、辛みそラーメン890円。
 美沙希もカズミも大満足だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

コンプレックス

悠生ゆう
恋愛
創作百合。 新入社員・野崎満月23歳の指導担当となった先輩は、無口で不愛想な矢沢陽20歳だった。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

処理中です...