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第13話 闖入者
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お腹がいっぱいになったふたりは、自転車でキタトネ川とマエ川の合流点に行き、のんびりと座って釣りを再開した。
「朝まずめと夕まずめって言って、魚の活性は朝と夕方に上がるの。お昼のこの時間帯はあんまり釣れないから、ゆっくりしよ」
「うん。あたしは美沙希とおしゃべりしているだけで楽しいよ」
カズミの言葉を聞いて、美沙希の頬が紅潮した。
「友だちってすごいね。私もそう思っていたとこ。いつもひとりぼっちだったから、カズミと話しているだけでなんか気持ちが楽になるの」
「いっぱいお話しよ」
「うん!」
キタトネ川の岸には遊覧船が数隻停泊している。ここは十二橋めぐりの出発点だ。1組の親子連れが乗船しようとしていた。
「釣りってお金がかかるのよ。釣り具を買うだけじゃなくて、よく釣れる場所へ行くための旅費もかかる。大人になったら車もほしいし、ボートもほしい。でもさ、きっと私、ちゃんとした大人になれないと思うんだ」
「どうして? 美沙希は大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない! 私はコミュ障で対人恐怖症の社会不適合者だよ!」
「ちゃんと話せているじゃない。美沙希はコミュ障なんかじゃないよ」
「それは相手がカズミだからだよ。私はだめな人間なの……」
美沙希が沈黙してしまう。
カズミも軽々しく慰められなくて、どう言えばいいんだろうと悩んだ。
ふたりの隣に男の子の釣り人がやってきて、ルアーを投げ始めた。
「あれ? おまえら、琵琶と川村じゃん!」
男の子が言った。
1年1組の男子だ、と気づいて美沙希は緊張した。名前は覚えていない。
「佐藤くん」とカズミが言った。彼女は男子の名前を覚えていた。
「へえ、ふたりは釣りするんだ。バスだよな。釣れた?」
佐藤は気軽に話しかけてきた。美男子というわけではないが、笑顔に愛嬌がある。小柄で痩せているが、話をしながらもルアーをスパスパと投げ続けていて、体力がありそうだ。
「釣れたよ。美沙希がハードルアーで45センチのを!」
「すごいじゃん。写真撮った?」
「撮ったよ」
「見せてくれよ!」
カズミと佐藤が話していると、美沙希の表情がどんどん強張っていった。
「カズミ、行こう!」
美沙希が突然立ち上がり、スタスタと歩いて、自転車に乗った。カズミが慌てて追いかける。
美沙希は自転車を漕ぎ始めた。
「おーい、急にどうしたんだよぉ。写真見せてくれよー」
佐藤の声が後ろから響いてくる。
美沙希はぐんぐんと自転車を走らせ、カズミが懸命に追った。
1キロほど走って、唐突に止まった。
「わかったでしょう。私、人間が怖いの。特に男子が」
美沙希の顔は蒼ざめ、冷や汗をかいていた。
「学校ではなんとか我慢しているの。でも私的なときになれなれしく話しかけられたりするのは、絶対にだめ……」
俯いている美沙希の両手を、カズミは握った。
「あたしがいるよ!」
「カズミ……」
「つらくても、あたしがそばにいるから!」
「うん、ありがとう……」
涙ぐむ美沙希。この子はあたしが守らなきゃ、とカズミは思った。
「朝まずめと夕まずめって言って、魚の活性は朝と夕方に上がるの。お昼のこの時間帯はあんまり釣れないから、ゆっくりしよ」
「うん。あたしは美沙希とおしゃべりしているだけで楽しいよ」
カズミの言葉を聞いて、美沙希の頬が紅潮した。
「友だちってすごいね。私もそう思っていたとこ。いつもひとりぼっちだったから、カズミと話しているだけでなんか気持ちが楽になるの」
「いっぱいお話しよ」
「うん!」
キタトネ川の岸には遊覧船が数隻停泊している。ここは十二橋めぐりの出発点だ。1組の親子連れが乗船しようとしていた。
「釣りってお金がかかるのよ。釣り具を買うだけじゃなくて、よく釣れる場所へ行くための旅費もかかる。大人になったら車もほしいし、ボートもほしい。でもさ、きっと私、ちゃんとした大人になれないと思うんだ」
「どうして? 美沙希は大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない! 私はコミュ障で対人恐怖症の社会不適合者だよ!」
「ちゃんと話せているじゃない。美沙希はコミュ障なんかじゃないよ」
「それは相手がカズミだからだよ。私はだめな人間なの……」
美沙希が沈黙してしまう。
カズミも軽々しく慰められなくて、どう言えばいいんだろうと悩んだ。
ふたりの隣に男の子の釣り人がやってきて、ルアーを投げ始めた。
「あれ? おまえら、琵琶と川村じゃん!」
男の子が言った。
1年1組の男子だ、と気づいて美沙希は緊張した。名前は覚えていない。
「佐藤くん」とカズミが言った。彼女は男子の名前を覚えていた。
「へえ、ふたりは釣りするんだ。バスだよな。釣れた?」
佐藤は気軽に話しかけてきた。美男子というわけではないが、笑顔に愛嬌がある。小柄で痩せているが、話をしながらもルアーをスパスパと投げ続けていて、体力がありそうだ。
「釣れたよ。美沙希がハードルアーで45センチのを!」
「すごいじゃん。写真撮った?」
「撮ったよ」
「見せてくれよ!」
カズミと佐藤が話していると、美沙希の表情がどんどん強張っていった。
「カズミ、行こう!」
美沙希が突然立ち上がり、スタスタと歩いて、自転車に乗った。カズミが慌てて追いかける。
美沙希は自転車を漕ぎ始めた。
「おーい、急にどうしたんだよぉ。写真見せてくれよー」
佐藤の声が後ろから響いてくる。
美沙希はぐんぐんと自転車を走らせ、カズミが懸命に追った。
1キロほど走って、唐突に止まった。
「わかったでしょう。私、人間が怖いの。特に男子が」
美沙希の顔は蒼ざめ、冷や汗をかいていた。
「学校ではなんとか我慢しているの。でも私的なときになれなれしく話しかけられたりするのは、絶対にだめ……」
俯いている美沙希の両手を、カズミは握った。
「あたしがいるよ!」
「カズミ……」
「つらくても、あたしがそばにいるから!」
「うん、ありがとう……」
涙ぐむ美沙希。この子はあたしが守らなきゃ、とカズミは思った。
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