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中間試験の結果
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6月5日金曜日、中間試験の成績が判明する日。
桜園学院高校では、学年順位1位から100位までの生徒の名前が掲示板で発表される。1年生は全部で324人いる。
昼休み、樹子とみらいは学生食堂で昼食を取り、掲示板へ向かった。多くの生徒が群がっていた。
みらいの名前は100位以内にはなかった。当然だと思ったので、落胆はしない。
樹子は92位だった。
「すごいよ、樹子! うちの高校で100番以内なんて!」
「いや、中学時代はいつも50位以内だったんだけれど……。外進生も頭いいから仕方ないか……」
良彦は32位。彼は涼しげな顔で自分の名を見ていた。
「やっぱり良彦くんは賢いんだね。東京大学へ行けるんじゃない?」
「あいつは中学のときは、いつもベスト10に入っていたわ。でも欲が乏しそうだから、別に絶対に東大行くとか思っていないんじゃないかな」
ヨイチの名はなかった。彼は何位なのだろう、とみらいは気になった。
原田すみれは89位だった。わずかに樹子より上位だが、彼女は悔しそうな表情をしていた。もっと上位になるつもりだったのだ。
帰りのホームルームで、1年2組の担任教師の小川が36人の生徒に個別の成績表を配り始めた。
出席番号1番の阿川悟は、受け取って驚愕した顔になり、叫んだ。
「ぎゃあ~っ! 324人中324番だと?!」
「おまえ、もう少しがんばらないと、本当に留年するぞ」
「くっ……!」
彼は成績表を破ろうとしたが、「やめろ、ちゃんとご両親に見せろ!」と小川に止められた。
出席番号2番のジーゼンは成績表を見て、特に喜びも落胆もなく、平然としていた。
次々と配布が進んでいく。
みらいはどきどきしてきた。母から上のクラスに上がらないと学費を出すのをやめると言われている。ここ数日間は母と自然に話せる関係を取り戻しているが、その話が撤回されたわけではない。
樹子に成績表が渡された。
次がみらいの番だ。
「神様……」と彼女はつぶやき、担任から運命の成績表を受け取った。
学年順位243位。
成績別クラス文系ガンマ3から2へ昇級。理系ガンマ3から2へ昇級。
安堵のあまり、みらいはその場でへなへなと座り込んでしまった。
「高瀬、配布の邪魔だ。どけ」と小川が言ったが、彼女の周りに樹子、ヨイチ、良彦が集まってきた。
「どうだった?」
「文系も理系も上がれた……。退学しないで済むよ……」
「やったあ!」
「よかったな!」
「よかったね!」
3人は我が事のように喜んでくれた。
全員に配布が終わり、放課後になった。
「あたしは理系がベータ1からアルファ3に上がれたわ。良彦の勉強会のおかげね。文系は現状維持のアルファ3」
「おれも理系がベータ1からアルファ3に上がった。文系はベータ2から3に落ちちまったぜ。学年順位は177位だ」
「僕は理系アルファ1、文系アルファ3。どちらも現状維持だよ」
「みんな頭いいね。わたしは243位だよ」
「文系、理系の同時昇級、見事よ!」と樹子から言われて、みらいは花のように笑った。
すみれは憂鬱そうな表情をしていた。
「大丈夫?」とみらいは声をかけた。
「文系、理系ともに降級しちゃった。アルファ3とアルファ2になっちゃった……」
「それでも上位だよ! でもがっかりだよね。あんまりテスト勉強しなかったの?」
「しなかった。ドラムの練習をたくさんしたから……」
「ドラム?」
「ドラムスティックを買ったの。それで毎晩、電話帳を叩いて練習してた……」
「すごいねー。伊藤さん、長野さん、仁科くん、八坂くんとバンドを組んだんでしょ?」
「そうだけど……」
すみれのバンド計画はほぼ頓挫していた。楽器を弾けるのは長野由美子だけで、ヴォーカルをやると言った仁科春は音痴だし、八坂太一と伊藤沙也加は楽器の購入すらしていなかった。
すみれは樹子を見た。バンド若草物語に参加したい……!
樹子は入れないぞ、という意志を込めて、すみれを見返した。
「がんばってね! 原田さんのバンドを応援しているから!」とみらいは無邪気に言った。
その日、母に中間試験の結果を伝えるため、みらいはどこにも寄らないで帰宅した。
「ただいま」
「おかえり」
母と娘は普通にあいさつを交わせるようになっている。
「お母さん、成績表だよ」
みらいは厚紙を手渡した。母はそれに目を落とした。
「えらいわよ、みらい。成績別クラス、上がったのね。がんばったわね」
「うん。友だちのおかげだよ!」
「いい友だちを持ったわね。大切にしなさい」
母の表情は穏やかだった。
「今夜はビーフシチューよ」
「やった! お母さんのビーフシチュー、大好き!」
みらいと母は微笑みを交わした。
母は台所へ行った。みらいは自室へ入り、ラジカセでYMOの『BGM』を鳴らした。
桜園学院高校では、学年順位1位から100位までの生徒の名前が掲示板で発表される。1年生は全部で324人いる。
昼休み、樹子とみらいは学生食堂で昼食を取り、掲示板へ向かった。多くの生徒が群がっていた。
みらいの名前は100位以内にはなかった。当然だと思ったので、落胆はしない。
樹子は92位だった。
「すごいよ、樹子! うちの高校で100番以内なんて!」
「いや、中学時代はいつも50位以内だったんだけれど……。外進生も頭いいから仕方ないか……」
良彦は32位。彼は涼しげな顔で自分の名を見ていた。
「やっぱり良彦くんは賢いんだね。東京大学へ行けるんじゃない?」
「あいつは中学のときは、いつもベスト10に入っていたわ。でも欲が乏しそうだから、別に絶対に東大行くとか思っていないんじゃないかな」
ヨイチの名はなかった。彼は何位なのだろう、とみらいは気になった。
原田すみれは89位だった。わずかに樹子より上位だが、彼女は悔しそうな表情をしていた。もっと上位になるつもりだったのだ。
帰りのホームルームで、1年2組の担任教師の小川が36人の生徒に個別の成績表を配り始めた。
出席番号1番の阿川悟は、受け取って驚愕した顔になり、叫んだ。
「ぎゃあ~っ! 324人中324番だと?!」
「おまえ、もう少しがんばらないと、本当に留年するぞ」
「くっ……!」
彼は成績表を破ろうとしたが、「やめろ、ちゃんとご両親に見せろ!」と小川に止められた。
出席番号2番のジーゼンは成績表を見て、特に喜びも落胆もなく、平然としていた。
次々と配布が進んでいく。
みらいはどきどきしてきた。母から上のクラスに上がらないと学費を出すのをやめると言われている。ここ数日間は母と自然に話せる関係を取り戻しているが、その話が撤回されたわけではない。
樹子に成績表が渡された。
次がみらいの番だ。
「神様……」と彼女はつぶやき、担任から運命の成績表を受け取った。
学年順位243位。
成績別クラス文系ガンマ3から2へ昇級。理系ガンマ3から2へ昇級。
安堵のあまり、みらいはその場でへなへなと座り込んでしまった。
「高瀬、配布の邪魔だ。どけ」と小川が言ったが、彼女の周りに樹子、ヨイチ、良彦が集まってきた。
「どうだった?」
「文系も理系も上がれた……。退学しないで済むよ……」
「やったあ!」
「よかったな!」
「よかったね!」
3人は我が事のように喜んでくれた。
全員に配布が終わり、放課後になった。
「あたしは理系がベータ1からアルファ3に上がれたわ。良彦の勉強会のおかげね。文系は現状維持のアルファ3」
「おれも理系がベータ1からアルファ3に上がった。文系はベータ2から3に落ちちまったぜ。学年順位は177位だ」
「僕は理系アルファ1、文系アルファ3。どちらも現状維持だよ」
「みんな頭いいね。わたしは243位だよ」
「文系、理系の同時昇級、見事よ!」と樹子から言われて、みらいは花のように笑った。
すみれは憂鬱そうな表情をしていた。
「大丈夫?」とみらいは声をかけた。
「文系、理系ともに降級しちゃった。アルファ3とアルファ2になっちゃった……」
「それでも上位だよ! でもがっかりだよね。あんまりテスト勉強しなかったの?」
「しなかった。ドラムの練習をたくさんしたから……」
「ドラム?」
「ドラムスティックを買ったの。それで毎晩、電話帳を叩いて練習してた……」
「すごいねー。伊藤さん、長野さん、仁科くん、八坂くんとバンドを組んだんでしょ?」
「そうだけど……」
すみれのバンド計画はほぼ頓挫していた。楽器を弾けるのは長野由美子だけで、ヴォーカルをやると言った仁科春は音痴だし、八坂太一と伊藤沙也加は楽器の購入すらしていなかった。
すみれは樹子を見た。バンド若草物語に参加したい……!
樹子は入れないぞ、という意志を込めて、すみれを見返した。
「がんばってね! 原田さんのバンドを応援しているから!」とみらいは無邪気に言った。
その日、母に中間試験の結果を伝えるため、みらいはどこにも寄らないで帰宅した。
「ただいま」
「おかえり」
母と娘は普通にあいさつを交わせるようになっている。
「お母さん、成績表だよ」
みらいは厚紙を手渡した。母はそれに目を落とした。
「えらいわよ、みらい。成績別クラス、上がったのね。がんばったわね」
「うん。友だちのおかげだよ!」
「いい友だちを持ったわね。大切にしなさい」
母の表情は穏やかだった。
「今夜はビーフシチューよ」
「やった! お母さんのビーフシチュー、大好き!」
みらいと母は微笑みを交わした。
母は台所へ行った。みらいは自室へ入り、ラジカセでYMOの『BGM』を鳴らした。
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