ひとりしか生きられない部屋に美少女ふたり

みらいつりびと

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 私は調べた。
 鉄の扉は鍵がかかっていて頑丈で、押しても引いても開かないし、叩いても蹴ってもびくともしない。
 コンクリートの壁も丈夫で、素手の打撃で壊れるようなものではなかった。隠されたもうひとつの扉なんてものもない。
 便器はタンクレスタイプのもので、用を足すと水が流れる。便や尿を洗い流せて清潔だが、便器を流れる水を飲んだり、手を洗ったりするのは抵抗がある。
 私たちに与えられた水はやはり1日2リットルだけということになる。人間には飲み水だけでなく、生活用水も必要だが、そこに回せる余裕はなさそうだ。手を洗うこともできない。
 天井の小扉は正方形で、頭はぎりぎり通せそうな大きさだが、肩や腰は通りそうにない。そこからの脱出も無理だ。そもそも私に2.5メートルの高さに飛びつける身体能力はない。

「脱出は無理そうね」
「まあそうでしょうね。ここはどう見ても監禁用の部屋だもの」

 私と虹山さんは水とゼリー飲料を分け合って摂取した。ゼリーがひとつなくなった。
 彼女と話し合い、ふたりでできるだけ長く生き延び、犯人が逮捕され救出されるのを待つという方針を一致させておきたい。彼女がリップをどこで万引きしたのかも気になる。もし私と同じコンビニで盗んだのだとしたら、そのコンビニ関係者が怪しいということになる。
 話し合いの内容は、私たちを監禁している犯人にはできるだけ聞かれたくない。

 私は「ちょっといい?」と呼びかけ、虹山さんの耳に口を近づけてささやいた。
「私たち、協力し合えると思うの。できるだけ長く生き延びて、ふたり一緒に救出されるのを待たない?」
 彼女はうなずき、私に向かって小さな声で言った。
「わかった。ふたりとも生き残ろう。女の子を捕まえて狂っていくのを見たいだなんて変態野郎の思いどおりになりたくない」

「俺に聞こえるように話せ!」と男が怒鳴った。
「俺はおまえらを眺めて楽しみたいんだ。おまえらには俺を楽しませる義務がある。こそこそしゃべるのは禁止だ」
「嫌よ!」と虹山さんが言い返した。
「俺に逆らうな。援助物資を減らすぞ」
 彼女は黙った。水や食料を減らされたら、私たちが生きられる時間は短くなる。
「なにか話せ! おれを退屈させるな」
 彼女は肩をすくめた。

「あたしは高校1年なんだけど、細川さんは?」
「高3よ」
「あっ、先輩なんだ。敬語を使わなくちゃいけないですね」
 私は童顔で、年齢より幼く見られることが多い。虹山さんは逆に大人びた容貌だ。お互いに同い年くらいと思っていたようだ。
「必要ない。タメ口でいい」
「そういうわけにはいきません。先輩には敬意を表さないと」
「本当に必要ない。ここではすばやいコミュニケーションが生死を分けるかもしれない」
 私は強く力を込めて言った。
「わかった」と虹山さんは答えた。

「細川さんは受験生ってわけね。こんな時期に捕まって大変ね」
 今は10月だ。来年1月には大学入学共通テストがある。
「細川さん頭よさそうだから、志望校は東大とか?」
「そうよ」
「えっ、ホントに東大狙ってるの? すごっ」
 
 私は東京大学の法学部へ進むようにと母親から強いられている。そして財務省に就職しなさいと命令されている。私は理学部に進学したいのだが、母に逆らうと体罰を受ける。
 父は財務省に勤めている。子供の教育には関心がなく、毎日夜遅くに帰宅する。出世にしか興味がないようだ。
 私は強いストレスを感じながら生きている。
 万引きは数少ない娯楽のひとつだ。

 今は何日の何時なのだろう。
 私がゼリー飲料を万引きして捕まったのは10月17日の午後6時頃だ。母が呼び出され、店長の説教が終わったのは8時30分頃。母から逃げて薬物を嗅がされ気を失ったのはおそらく9時頃。
 その翌日なのだとしたら10月18日ということになるが、薬物でどのくらい眠らされていたのかはわからない。

「細川さん、2.5リットルの水と1300キロカロリーが必要だって即答したよね?」
「そうね」
「なんでそんなこと知ってるの? あたしは知らなかった」
「サバイバルに興味があるからよ」

 私は家出を計画していた。
 女子高生ひとりでどうやって生きていくか考えた。
 風俗店で働くのは嫌だ。
 自給自足やサバイバルについて図書館で研究した。自室にサバイバル関連書籍なんて保管しておいたら母親に没収されるに決まっているので、図書館で調べたり、書店で立ち読みしたりするしかなかった。
 初期投資資金のない女子高生に自給自足は無理だとわかったが、サバイバル研究は万引きと並ぶ私の娯楽で、ずっと続けている。
 東大受験なんてやめて、どこか遠くで住み込みのアルバイトでも見つけて生きていきたいと思うことは多いが、今のところ実行できていない。

「東大志望でサバイバルに興味があるなんて、細川さんって変わってるね」
「そうかもね」
 少数派であるという自覚はある。
 私は硬い言葉遣いしかできない。
 成績が落ちると母に殴られるのでしっかりと勉強しなければならず、交友に費やす時間を確保するのはむずかしい。
 そんな人間なので友達は少なく、学校でも孤立しがちだ。

「虹山さんの趣味はなんなの?」
「趣味じゃないけど、部活でバレーボールをやってる。けっこう真剣にインターハイをめざしてる」
 体育会系の人だったか。
 この高い身長なら、バレーボールで活躍できそうだ。
 それともその世界では、このくらいの身長の人はごろごろしているのだろうか。

「外に出てまたバレーができるといいわね」
「細川さんも無事東大受験できるといいね」

「おまえたちふたりともがその部屋から出ることはない」と男が言った。
「そこから出られるのはひとりだけだ」
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