ひとりしか生きられない部屋に美少女ふたり

みらいつりびと

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 私は考えた。
 私たちは生きてこの部屋を出ることはできるのだろうか。
 自力で脱出できる可能性があるか部屋の中を調べる必要がある。不可能なら犯人が逮捕され、救出されるのを待つしかない。
 この女の子の人格を見抜く必要もある。
 私と協力して生き延びようとする協調性はあるのか。
 ひとりだけ生き残ろうとする身勝手な性格か。
 ただちに殺し合いをするような狂暴さはないとさっきわかったが、寝ているときに首を絞めたりしないかはまだわからない。

「2.5リットルの水を飲まないと生きられないの?」と女の子は言った。
「もちろんすぐに死ぬわけじゃないわ。でも汗や尿などで失われていく水分を補充しないと、身体は乾き、弱っていく」と私は答えた。
「1リットルだとどのくらい生きられるの?」
「そこまではわからない。でもそれなりの期間、生きていけるんじゃないかな。それと、水分は食料から摂ってもいいの。このゼリー飲料にも水は含まれている」

 私たちは狭い部屋の中で向かい合って座っている。
 私は彼女との間に、ミネラルウォーター、ゼリー飲料、リップを置いた。
 これを半分ずつ分け合えるのかどうかが、目下の最大の課題だ。
 リップは生存にはどうでもいいが、私は彼女がこれと同じ商品を万引きしたのではないかと疑っている。それを知ることも必要だ。
 女の子の人物像を推測する役に立つ。リップが万引きされたものだとすると、犯人は私たちふたりを万引き犯だと知って捕らえたことが確定する。

「水より深刻なのは栄養ね。人間が1日に必要なカロリーは性別や年齢、体格などによって異なる。10代の女性に必要なのは、ざっくり言って1300キロカロリーくらい」
 私はゼリー飲料の容器に印刷されているカロリー数を見た。
「このゼリー飲料は78キロカロリー。3つ合わせて234キロカロリー。ふたりで分けると117キロカロリー。栄養が圧倒的に不足しているわ」

 私は女の子のようすを観察した。
 わずか234キロカロリーでも分け合うことができれば、ふたりともそれなりの期間生きられるはずだ。
 怖いのは奪い合いになり、精神的に疲弊し、犯人が望んでいるとおりに私たちが狂っていくことだ。

「あなた、頭いいのね」
「そうかな?」
「計算が速いわ。あたしにはそんな暗算はできない」

 女の子が真っ先に栄養の不足を嘆くのではなく、私の計算の速さに驚いたのは、よい情報のように思えた。

「きっとあなたもゆっくりとやれば、このくらいの暗算はできるわよ。私は少し速いだけ」
「ゆっくりとやればね。でもあなたは瞬時に計算した。頭がいい」

 女の子は私の目を見ていた。彼女も私の人格を見抜こうとしているようだ。
 信頼を得ることができれば、私の生存の可能性は高まるだろう。

「私は喉が渇いているし、お腹が空いている。あなたもそうでしょう?」と私は言った。
「すごく渇いてるし、お腹はぺこぺこよ」と彼女は答えた。
 私は手のひらを彼女に向けて、どうぞ、先に飲んでと言った。
 彼女はペットボトルの蓋を開け、ひと口だけ水を飲んだ。そして私にボトルを渡した。
 私もひと口飲んだ。慎重に彼女と同じ分量くらい飲むよう心がけた。
 飲み終えて、ボトルを私たちの真ん中に置いた。
 飲食物を分け合い、協力して生き残ろうというメッセージを送ったつもりだ。
 彼女は私を見てうなずき、微笑んだ。

 私はゼリー飲料をひとつ取った。
 そしてひとつを女の子に渡した。
「残りひとつはどうするの?」と訊かれた。
「先に飲んでいいわよ」と答えた。
 一気に飲み干してしまうような人だったら、協力し合うのはむずかしい。
 彼女はゼリー飲料の蓋を開け、ひと口吸飲し、私に渡した。
 私はまた慎重に彼女が飲んだ量より多く飲まないように気をつけて飲んだ。
 ゼリー飲料はまだ残っている。私たちの間に置く。

「顔が美しいだけでなく、心も美しいみたいじゃないか」と男の声がした。
 男は私たちを監視し、音声も拾っているにちがいない。
「だが見せかけだ。おまえたちは犯罪者なんだからな。いつ裏切りが発生するか楽しみだ」

 私は確かに犯罪者だ。万引きの常習犯だった。
 発覚したのは2回だが、100回以上万引きしている。
 コンビニ、スーパーマーケット、書店などでやった。

「ねえ、センシティブなことを訊いてもいいかな?」と女の子は言った。
 私はうなずいた。
「このゼリー飲料、万引きした?」
 私はまたうなずいた。
 監視している男に余計な情報を与えたくないが、このことはまちがいなくすでに知られている。
「このリップクリームは?」
 私は彼女の目を見ながら訊いた。
「たぶん想像しているとおりよ」
 彼女は苦い表情になった。
 第一印象では万引きをするような女の子には見えない。
 でもおそらくそれは私も同じだ。
 この子はどうして万引きなんかしたのだろう。

「あたし、虹山千里にじやませんり」と女の子は名乗った。
「私は細川ほそかわかなめ」と私は言った。
 ははっ、と虹山さんは笑った。
「あたしたち、山川コンビじゃん」
 彼女は手を差し伸べてきた。
 私も手を伸ばした。
 私たちは握手した。
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