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23.響く声/共通点
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しおりを挟む「……俺も、聞いていいか?」
「なに」
「どうして俺の部屋までたずねてきたのか」
ずっと気になっていた。
ケティのもとに出向くのは、いつも俺の方だったから。
待ち伏せされたことは一度だけあったが、わざわざこちらの部屋にやってきたのはあの日が初めてだった。
彼が兄のもとを既に出ていることもあるが、他に理由がある気がしたのだ。
ケティはゆっくりと胸を膨らませて、ふーっとか細いため息をついた。
「寂しかったの」
紅い唇だけが動く。
率直にして、予想通りの答えだった。“寂しい”という感情こそ、俺とケティを強く結びつけていたものだから――。
だが、その言葉にはまだ続きがあった。
「弟の誕生日だったから……」
ケティが自らの血縁のことを口にするのはおそらく、初めてだ。
「え?」
「なんでもないわ」
彼は自らの失態を悔やむように首を何度も何度も振り、俺に背を向けた。
「それじゃあね」
もう二度と会うこともないけど、と、その後ろ姿は語っているような気がした。
返事をする間も与えぬスピードで彼は歩き出す。低めのヒールがアスファルトを叩き、カツカツという甲高い音になった。
「ケティ!」
甘い香りを置き去りにして、暗がりへと消えていく。
「待ってくれ!」
とっさに叫んだものの、素直に振り向くケティではない。
「待てって! まだ何も――」
街灯の少ない路地の中、俺は必死に彼の後を追いかけた。
だが、歩調がぴったりと合っているらしく、なかなか距離が縮まらない。
これでは埒が明かない――と、走ったのも束の間、急に彼が立ち止まった。
振り返った際の横顔は不適なほど笑顔だった。迎え討つ目がギラリと光る。
「あっ――」
抵抗する暇も無かった。腕を掴まれ、壁に押さえつけられる。慌てて逃げようとしたものの、無駄だ。
「油断したわね」
彼の太腿が足の間に滑り込んでくる。
「……っ、ぐ」
たった数秒でこれほど追い詰められるなんて――。
コンクリートの冷たさを背中に感じながら、歯をくいしばった。またしても罠にかかった自分が悔しくて睨みつける。
ケティはくっくと喉を震わせるだけ。
「やっぱり、龍広はこうでなくちゃ……」
「ん!」
ゆっくりと迫ってくる唇から逃れようと、俺は必死に顔をそむけていた。
抵抗したくても右腕が掴まれたままである。彼の脚が動きを阻んで、右にも左にも行けない。
「さぁ。こっち向きなさい」
「……っ、や……」
闇をたっぶりと含んでいるようなスカートは、デニム生地と擦れ合い、サラサラと音を立てている。
顎を矯正的に掴み上げられながらも、俺は何度も首を振った。唯一自由な左手で彼の腰を引き剥がしながら。
だが、動けば動くほどこちらが不利になっていく。
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