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22.道連れ/響く声
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戻れるものなら、戻りたい。
出会ったばかりの頃に。
色んな可能性が眠っていた頃に。
高校の制服を着ていた頃に。
白のシャツ。襟元にはハトを模した校章。灰色のカーディガン。シワの取れないスラックス。履きつぶしたローファー。
何もかもが懐かしい。
毎日毎日、暗くなるまで二人で街を歩いた。
なんとなく名残惜しくて、自分から帰ると言い出せなくて、響が「そろそろ帰る」と言うまでファーストフード店で時間を潰していたっけ。
明日も顔を合わせる。それは分かり切っていたことなのに――。
俺の記憶の中で、高校生の響はバイト情報誌を読みつつ、俺の手元のポテトを勝手に取って食べている。
それはそれは幸せそうに。
「ボク、兄弟いないから半分こって憧れだったんだぁ」
俺が食べているものはみんな最高に美味しそうに見えるらしい。
だから、自分でLサイズを独り占めするより、この方がいいと言うのだ。
「俺も……憧れてた」
「え?」
「兄さんはいつも大きい方を俺にくれたから、たまには小さい方を選びたくて……」
「へぇ、半分こって奥が深いね」
半分こに憧れながらもいっぱい食べたい響と、好きなだけ分け与えてやりたい俺は、バランスとしてちょうど良いだろう。
「響……」
「ん? あっ、ごめん」
食べ過ぎだよねと、自分の方に向けていたポテトを差し出してくる。
俺がそこから長めのを取ってゆっくりと食んでいる間に、彼は短めのを四、五本取って一気に口の中へ。
「ねー、お金貯まったらさ、二人でどっか行かない?」
「どっか?」
「修学旅行の代わり! いいアイディアでしょ?」
「しゅっ……!」
驚きのあまり、数秒間、息を吸うのを忘れた。
「泊りがけは……ちょっとな……」
首をかしげると共に、そのキラキラと輝く瞳から視線をそらしてしまう。
「なんでダメなの? 親が反対するから?」
「……いや、……俺、まくらが変わると、ねっ、眠れないっていうか……」
うまい嘘が思い浮かばず、苦し紛れにとんでもない事実を激白してしまう。
「えーっ! 繊細!」
幼稚さを笑われたら恥ずかしい――と思ったが、彼は妙に神妙な面持ちで「そういうこともあるよね」と共感してくれた。
「ボクもそうかも。おっきなまくら抱っこしてないと眠れないもん」
「えっ」
是非、その姿を目に焼き付けたい。思わず生唾を飲むほど、渇望してきまう。
「ちょうどいいね。眠れない同士、寂しくなくて」
それは一晩中起きていようという意味だろうか。それとも――。
妄想が一気に膨らむ。
きっと貧乏旅行に違いないのに、俺の脳内シチュエーションは広々としたホテルの一室だった。
カーテンの閉じた部屋、薄暗い照明、何故か一つしかないベッド、無防備な姿でまくら代りのものを求める響……。
考えただけでドキマギしてしてしまう。頬だけが熱く火照ってしまう。頬だけが――。
「そのかわり、細かいことは龍広くんが全部やってね」
妄想だけでこんな調子なのに、無事に朝を迎えられるだろうか。
不安になる一方で、交通費を削ればそれなりのホテルに泊まれるだろうかとリアルに考え始めている自分がいた。
――いや、もちろんベッドは二つの部屋にするつもりだ。そんなこと当然だ。
「約束ね」
「ああ」
「絶対絶対、守ってね!」
「当たり前だろ」
「旅のしおりも作ってほしいな」
「その前にお前がちゃんと貯金できるかが問題だな」
軽く嫌味を放ってやると響は眉間にシワを寄せた。そして、冗談まじりにこう答えたのだった。
「何年かかるか分かんないけど、頑張りまーす!」
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