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本編
11:クラス替え
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短かった春休みも終わり、明日から新学期。
宿題がない春休みが、わたしは一番大好きだった。
明日から学校だと思うとなんかしんどい。
3年生はクラス替えもある。
由美ちゃんと、また一緒のクラスになれると良いな。
翌日────
早速クラス替えの名簿を見に行く。
わたしの名前はどこだろ……あ、3年2組のところにあった。
由美ちゃんは……神様、どうか由美ちゃんと同じクラスでありますように!
「玲美ちゃん、また同じクラスだね!」
呼ばれて振り返ると、由美ちゃんが笑顔で立っていた。
「由美ちゃん!やったー!」
「きゃー!」
これで5年生になるまで由美ちゃんと同じクラスだ!
神様っていたんだね!ありがとうございます!
「オレも同じクラスだぜ!」
小岩井だ。
幼稚園の頃からのくされ縁。またこいつと同じクラスか。
神様、こいつはどうでもいいです。
「始業式が始まるから、荷物置いた子は外に出てー」
朝礼嫌い。校長先生の話長いし。
始業式の無い世界に行きたいよ……。
*****
始業式も終わり、いよいよ新しいクラスに入る。
今年もやっぱり校長先生の話は長かった。
何だか難しい話が続いた後、たぶんみんなが飽きないようにっていうつもりだったんだろうけど、校長先生の集めてるお酒のふたの話とか……本当にどうでもいい話だった。
「今日は、みんなに自己紹介をしてもらおうと思う。
新しいクラスになって面識の無い子も多いだろ?
ちなみに俺は担任の和田明彦!趣味はお酒のふた集めだ!」
はいはい、お酒のふたね……って、それ流行ってるの?
「じゃあ、左端の前から。名前と趣味な!
みんなに聞こえるように、大きな声で言ってくれよ」
「あ、阿東研二。趣味は切手集めです」
そこはお酒のふた集めじゃないんだ。
趣味が切手集めってなんか頭よさそう。
「伊藤悠太郎です。
東京の方から転校してきました。趣味は音楽聴くことです」
転校生なんていたんだ。珍しい。
クラス替えのある新学期だと転校生がいてもわかんないよね。
東京からねぇ……よくわかんないけど、きっと都会の子だ。
そういえば、着てるものとかなんかオシャレな感じがするような。
顔もなんかイケメンっぽいし。
自己紹介は一通り終わった。
趣味は無難に読書って言っておいた。
ええ、漫画しか読んでませんよ。
あとは掃除をして帰るだけなんだけど、クラスの女子達はみんな伊藤くんに夢中だった。
東京って言ったら大都会だもんね。
芸能人に会った?とか今着てる服どこの?とかそんな話題で持ちきりだ。
転校生が珍しいっていうのもあるんだろうけど。
伊藤くんが大人気の中、男子達はみんなつまらなそうにしてる。
わたしと由美ちゃんはというと、そんなことより早く帰れるから遊びに行く約束で忙しい。
それにしても伊藤くん、転校生でいきなり目立ってるし、いじめとか無ければいいけど。
ほら、転校生ってよくいじめられるって言うじゃん。
……でも、あんなに女子に取り囲まれているし、そんな心配はないか。
*****
ある日の20分休みのこと――――
「おう、ドッチ行くぞ、お前ら!」
そう大きな声で叫んだのは西田琢也。
見た目も態度も、典型的なガキ大将だ。
こいつとは同じクラスになりたくなかったな。
……あと、わたしも最近漫画で知ったんだけど、ドッチじゃなくてドッジな。
ほとんどの男子が出ていく中、女子達に囲まれたまま伊藤くんは残っていた。
「おい、伊藤! お前も行くんだよ!」
西田はキレかかっていた。
女子に人気がある伊藤くんが気に入らないっぽい。
「うん、行くよ。それじゃ、みんなごめんね」
苦笑しながら片手をあげる伊藤くん。態度もさりげにイケメンだわ。
なんでだろ。
伊藤くんは何も悪いことしてないしイケメンなのに、さわやかすぎる感じがなぜか受け付けない。
ああいうの苦手なのかも。
男子達がドッジボールで騒ぐのをよそに、わたしは由美ちゃんと一緒に鉄棒の前に立っていた。
なんでも、今年こそ逆上がりができるようになりたいらしい。
わたしが逆上がりが得意だから教えてほしいみたいだけど、やってみたらできたみたいな感じだから……どう教えたらいいんだろう。
「あー、駄目ー……」
何度やっても途中までで止まってしまう由美ちゃん。
あと少しなんだけど、見た感じ回る時腕が伸びちゃってるからうまくいかないんじゃない?
わたしがお手本を見せてみる。
「こうやって、回る時に脇をしめる感じで」
ふと横を見ると、グルングルン回ってるやつがいる。
小岩井だ。
お前なんでこっちにいるんだ。男子はみんなドッジだろ。
足を付けずにひたすら回る小岩井。
それはもう、逆上がりではなくないか。
たぶん、こいつのことだから自慢したいだけなんだろうな。
あ、落ちた。
目を回してしまっているみたいだけど、そっとしとこ。
「小岩井くん、大丈夫かな……」
「大丈夫でしょ」
そうしていると、他の男子が小岩井を回収しに来た。
そして途中で抜けてきたのがばれて西田にめっちゃ怒られてる。ざまぁ。
*****
ドッジボールも終盤みたい。
残っているのは西田と、意外なことに伊藤くんだった。
ものすごい勢いで投げる西田。
あんなの当たったら大怪我しそうだ。
それをさらりとかわす伊藤くん。
意外とやるじゃん。運動も得意なんだね。
いつの間にか女子達のギャラリーができている。
他のクラスの子もいるし……どうなってんのこれ。
そして、横で由美ちゃんが逆さになったままプルプル震えてる。
「玲美ちゃん、脇締めたよ!」
「いい感じ。そのままグルンって回って」
「グルンってなに!? 回るってどっち!?」
「死ねー! 伊藤ぉおー!」
西田がなんか物騒なこと言ってる。
死ねはないだろうに。
あいつ、ボールに日ごろの恨みでも込めているのか。
西田が勢いよく投げたボールは一直線に伊藤くんへと向かう。
これは勝負あったかな?
すると、かわすのをやめて、あっさりとキャッチした伊藤くん。
「あいたたた……とんでもない力してるね。でも!」
さすがに痛かったらしい。
「足が上がらないよー!」
「腕で自分を持ち上げるの」
「どうやって!? わたし持ち上がるの!?
玲美ちゃん、わたしの方を見て!」
ダッシュで勢いをつけて投げる体制を取る伊藤くん。
盛り上がる女子の声援。震えが増す由美ちゃん。
「くそ! 来るなら来いやぁぁぁああ!!」
西田も構える。
すると、伊藤くんはそのままの勢いで山なりで外野にパスをした。
「なっ!? しまっ……」
外野に回ったボールは背後から西田を襲った。
これにはさすがに西田も対処できず当たってしまった。
「「「キャアアアアアアア!!!!」」」
大歓声。
わたしはアイドルのライブ会場にでも来ているのか?
「オレの勝ちだね」
伊藤くんは、落ち込んでしゃがみ込んでいる西田に握手を求めた。
「……やるじゃん、お前」
西田も伊藤くんを認めたようだ。
どこからか、健闘した二人を称える拍手が聞こえてきた。
次第にそれは大きな喝采へと変わる。
二人とも、ちょっとかっこよかった。
悔しいけど、わたしもこれには拍手を送っちゃうよ。
「なんか、すごい試合だったねー」
「う、うん……玲美ちゃん、逆上がり……」
うっかり由美ちゃんのことを忘れていた。
ごめんね、由美ちゃん。
宿題がない春休みが、わたしは一番大好きだった。
明日から学校だと思うとなんかしんどい。
3年生はクラス替えもある。
由美ちゃんと、また一緒のクラスになれると良いな。
翌日────
早速クラス替えの名簿を見に行く。
わたしの名前はどこだろ……あ、3年2組のところにあった。
由美ちゃんは……神様、どうか由美ちゃんと同じクラスでありますように!
「玲美ちゃん、また同じクラスだね!」
呼ばれて振り返ると、由美ちゃんが笑顔で立っていた。
「由美ちゃん!やったー!」
「きゃー!」
これで5年生になるまで由美ちゃんと同じクラスだ!
神様っていたんだね!ありがとうございます!
「オレも同じクラスだぜ!」
小岩井だ。
幼稚園の頃からのくされ縁。またこいつと同じクラスか。
神様、こいつはどうでもいいです。
「始業式が始まるから、荷物置いた子は外に出てー」
朝礼嫌い。校長先生の話長いし。
始業式の無い世界に行きたいよ……。
*****
始業式も終わり、いよいよ新しいクラスに入る。
今年もやっぱり校長先生の話は長かった。
何だか難しい話が続いた後、たぶんみんなが飽きないようにっていうつもりだったんだろうけど、校長先生の集めてるお酒のふたの話とか……本当にどうでもいい話だった。
「今日は、みんなに自己紹介をしてもらおうと思う。
新しいクラスになって面識の無い子も多いだろ?
ちなみに俺は担任の和田明彦!趣味はお酒のふた集めだ!」
はいはい、お酒のふたね……って、それ流行ってるの?
「じゃあ、左端の前から。名前と趣味な!
みんなに聞こえるように、大きな声で言ってくれよ」
「あ、阿東研二。趣味は切手集めです」
そこはお酒のふた集めじゃないんだ。
趣味が切手集めってなんか頭よさそう。
「伊藤悠太郎です。
東京の方から転校してきました。趣味は音楽聴くことです」
転校生なんていたんだ。珍しい。
クラス替えのある新学期だと転校生がいてもわかんないよね。
東京からねぇ……よくわかんないけど、きっと都会の子だ。
そういえば、着てるものとかなんかオシャレな感じがするような。
顔もなんかイケメンっぽいし。
自己紹介は一通り終わった。
趣味は無難に読書って言っておいた。
ええ、漫画しか読んでませんよ。
あとは掃除をして帰るだけなんだけど、クラスの女子達はみんな伊藤くんに夢中だった。
東京って言ったら大都会だもんね。
芸能人に会った?とか今着てる服どこの?とかそんな話題で持ちきりだ。
転校生が珍しいっていうのもあるんだろうけど。
伊藤くんが大人気の中、男子達はみんなつまらなそうにしてる。
わたしと由美ちゃんはというと、そんなことより早く帰れるから遊びに行く約束で忙しい。
それにしても伊藤くん、転校生でいきなり目立ってるし、いじめとか無ければいいけど。
ほら、転校生ってよくいじめられるって言うじゃん。
……でも、あんなに女子に取り囲まれているし、そんな心配はないか。
*****
ある日の20分休みのこと――――
「おう、ドッチ行くぞ、お前ら!」
そう大きな声で叫んだのは西田琢也。
見た目も態度も、典型的なガキ大将だ。
こいつとは同じクラスになりたくなかったな。
……あと、わたしも最近漫画で知ったんだけど、ドッチじゃなくてドッジな。
ほとんどの男子が出ていく中、女子達に囲まれたまま伊藤くんは残っていた。
「おい、伊藤! お前も行くんだよ!」
西田はキレかかっていた。
女子に人気がある伊藤くんが気に入らないっぽい。
「うん、行くよ。それじゃ、みんなごめんね」
苦笑しながら片手をあげる伊藤くん。態度もさりげにイケメンだわ。
なんでだろ。
伊藤くんは何も悪いことしてないしイケメンなのに、さわやかすぎる感じがなぜか受け付けない。
ああいうの苦手なのかも。
男子達がドッジボールで騒ぐのをよそに、わたしは由美ちゃんと一緒に鉄棒の前に立っていた。
なんでも、今年こそ逆上がりができるようになりたいらしい。
わたしが逆上がりが得意だから教えてほしいみたいだけど、やってみたらできたみたいな感じだから……どう教えたらいいんだろう。
「あー、駄目ー……」
何度やっても途中までで止まってしまう由美ちゃん。
あと少しなんだけど、見た感じ回る時腕が伸びちゃってるからうまくいかないんじゃない?
わたしがお手本を見せてみる。
「こうやって、回る時に脇をしめる感じで」
ふと横を見ると、グルングルン回ってるやつがいる。
小岩井だ。
お前なんでこっちにいるんだ。男子はみんなドッジだろ。
足を付けずにひたすら回る小岩井。
それはもう、逆上がりではなくないか。
たぶん、こいつのことだから自慢したいだけなんだろうな。
あ、落ちた。
目を回してしまっているみたいだけど、そっとしとこ。
「小岩井くん、大丈夫かな……」
「大丈夫でしょ」
そうしていると、他の男子が小岩井を回収しに来た。
そして途中で抜けてきたのがばれて西田にめっちゃ怒られてる。ざまぁ。
*****
ドッジボールも終盤みたい。
残っているのは西田と、意外なことに伊藤くんだった。
ものすごい勢いで投げる西田。
あんなの当たったら大怪我しそうだ。
それをさらりとかわす伊藤くん。
意外とやるじゃん。運動も得意なんだね。
いつの間にか女子達のギャラリーができている。
他のクラスの子もいるし……どうなってんのこれ。
そして、横で由美ちゃんが逆さになったままプルプル震えてる。
「玲美ちゃん、脇締めたよ!」
「いい感じ。そのままグルンって回って」
「グルンってなに!? 回るってどっち!?」
「死ねー! 伊藤ぉおー!」
西田がなんか物騒なこと言ってる。
死ねはないだろうに。
あいつ、ボールに日ごろの恨みでも込めているのか。
西田が勢いよく投げたボールは一直線に伊藤くんへと向かう。
これは勝負あったかな?
すると、かわすのをやめて、あっさりとキャッチした伊藤くん。
「あいたたた……とんでもない力してるね。でも!」
さすがに痛かったらしい。
「足が上がらないよー!」
「腕で自分を持ち上げるの」
「どうやって!? わたし持ち上がるの!?
玲美ちゃん、わたしの方を見て!」
ダッシュで勢いをつけて投げる体制を取る伊藤くん。
盛り上がる女子の声援。震えが増す由美ちゃん。
「くそ! 来るなら来いやぁぁぁああ!!」
西田も構える。
すると、伊藤くんはそのままの勢いで山なりで外野にパスをした。
「なっ!? しまっ……」
外野に回ったボールは背後から西田を襲った。
これにはさすがに西田も対処できず当たってしまった。
「「「キャアアアアアアア!!!!」」」
大歓声。
わたしはアイドルのライブ会場にでも来ているのか?
「オレの勝ちだね」
伊藤くんは、落ち込んでしゃがみ込んでいる西田に握手を求めた。
「……やるじゃん、お前」
西田も伊藤くんを認めたようだ。
どこからか、健闘した二人を称える拍手が聞こえてきた。
次第にそれは大きな喝采へと変わる。
二人とも、ちょっとかっこよかった。
悔しいけど、わたしもこれには拍手を送っちゃうよ。
「なんか、すごい試合だったねー」
「う、うん……玲美ちゃん、逆上がり……」
うっかり由美ちゃんのことを忘れていた。
ごめんね、由美ちゃん。
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