少女が過去を取り戻すまで

tiroro

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序章

10:川遊び

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 長かった1年生が終わり、わたしは2年生になった。

 肺炎で結構休んじゃったけど、それでも1年経つのは長く感じる。


 2年生はクラス替えがないので、同じクラスのメンバー。
 わたしは相変わらず由美ちゃんとよく遊んでいる。

 変わったことと言えば、幼稚園が同じだった飯塚くん達とも遊ぶようになったこと。
 最初は遠慮がちだった由美ちゃんも一緒に遊ぶようになって、遠足の班なんかもこのメンバーで組むことが多かった。

 そして、苦手なプールの授業に耐えて、夏休みになって──……




 お隣に3人兄弟が引っ越してきた。

 小学1年生のお兄ちゃんのつかさくんと保育園児の弟の陽太ようたくん、そしてその下に2歳の妹の理子りこちゃん。

 近所の案内をしているうちに懐かれてしまって、それ以来遊びに付き合わされてる感じ。
 

*****


 そんな夏休みのある日。
 呼び鈴が鳴って出てみると、官くんと陽太くんが玄関の前にいた。

「玲美ちゃん、遊ぼう!」

 朝から元気だね、二人とも。


 二人とも川に行きたいらしい。
 川ねー……そういえば、小岩井と遊ばなくなってからずっと行ってなかったな。

「おれ達がいたところでも、よく川で遊んでたんだよ。
 まだ場所もよくわからないし、玲美ちゃん連れてってよ」

「いいけど、川で何したいの?」

「ガサガサしたい!」

 陽太くんは網で魚を捕まえたいと言う。

 哲ちゃんと小岩井も魚捕まえるの好きだったな。
 男の子はみんな、そういうの好きなんだろうな。

「面白そうだな。俺も行っていい?」

 そう言って現れたのは、この辺の子供達のお兄ちゃん的な人、智樹ともきくん。
 小学6年生のお兄さん。

 この人も、男の子と言えば男の子か。
 年上の人に男の子って言うのも変だけど。

「智くんが行くならわたしも行くわ」

 そして、わたしとおない年のご近所さん、佳乃よしのちゃん。
 正直、わたしはあまり仲良くはないんだけど、智樹くんがくるといつもどこからか出てくる。

「智樹くんが来るなら安心かな。スポーツ万能だもんね」

「大船に乗ったつもりで付いてこい!」

 官くんにお願いされたのはわたしだけど、智樹くんが一緒に行ってくれるなら、わたしが連れてく必要もないか。

「それじゃ官くん、智樹お兄ちゃんに連れてってもらいなさいな」

「玲美ちゃんは来ないの?一緒に行こうよ」

 むぅ……1個下とはいえ年下の子にせがまれると断りづらい……。

 弟がいるってこんな感じなのかな。
 なんか腕つかまれてて引っ張るしぐさが可愛いし。
 仕方ないなー……じゃあ、お姉ちゃんも一緒に行こうかな。

「無理してこなくていいのよ」

 佳乃ちゃんは智樹くんとわたしが一緒に遊ぶのを嫌がる。
 仲良くできない理由がこれ。
 なんか勝手にライバル視されてるみたいで、わたしが一方的に嫌われちゃってるんだよね……。

 佳乃ちゃんが智樹くんのことを大好きなのはわかってるから。
 そして、わたしは別に智樹くんのことを好きとかないから。
 だから、そんな怒った目で見てこないでー……。


「玲美ちゃんが行かないなら、おれ行かない」

 官くんのわたしへの懐き具合が半端ない。

「お兄ちゃん行かないならぼくも」

「二人が行かないなら、俺の出番は無いかな」


 えっ、なんで佳乃ちゃんわたしをにらむの?
 二人で川に行って遊んできなよ。誰も邪魔しないからさ。


 うっ……、しょぼんとしている官くん達を見てると心が痛む。

「……じゃあ、行こっか。
 ちょっと準備してくるから待ってて」

「待ってるー!」

 わたしは官くん達を見てるから、智樹くんは佳乃ちゃんを見ていてあげてください。


*****


 この川に来るのも久しぶりだ。

 河川敷に来ると子供達がいっぱいいる。
 虫取りしてる子もいれば、官くん達みたいにガサガサしに来ている子達も。

「ウナギ捕まえるぞー!」

「そんな大物はいないよ」

 いるんだな、これが。
 わたしが幼稚園のとき、小岩井達と捕まえたことがあるから。
 あの時はわたし達もびっくりしたわ。

「陽太、行こうぜ!」

「うん!」

 二人は早速川に入っていってしまった。

「深いところもあるから気を付けるんだよ」

 とか言いつつ、わたしも川に入る。
 つべたい。

 智樹くんも網を持って川に入る。
 いやいや、それより佳乃ちゃん見ててよ。
 二人はわたしが見てるからさ。

 佳乃ちゃんも、なんか入ろうとしてるし。
 スカートで来ておいて、どうやって川に入るつもりなんだこの人。

「お兄ちゃん、金魚いた!」

「マジか!」

 金魚なんて自然にいるわけないし誰かが逃がしたやつかな。
 この川、ウナギはいるしスッポンはいるし、ついには金魚までいるとか川の中どうなってるんだ。

「逃げられた」

「あっちの方行ってみよう」

 二人はどんどん先に進んで行っちゃう。
 あんまりそっち行くと危ないよ。


 智樹くんと佳乃ちゃんは何をやってるんだろう。

 佳乃ちゃんは、川に入るのはあきらめたみたいで川辺の石に座ってる。
 智樹くんはなんか必死にガサガサしてる。


 自由だな、みんな。


*****


 夕方近くまで川で遊んで、官くんと陽太くんはそれなりに魚とか変な虫を捕まえたみたい。

 智樹くんはでっかい鯉を捕まえていたけど、さすがに持って帰れないので逃がしてください。
 佳乃ちゃんはずっと座っていたので一人だけ日焼けしていた。




 近所の子達とこんなに遊んだのは久しぶりだから、なんだかんだで楽しかったな。

「帰ったら、この子達水槽に入れてあげよう!」

 飼う気満々な官くん。

 わたしも川で捕まえたメダカとか飼ってたな。
 すぐに死なせちゃってかわいそうなことしちゃったけど。

 そういえば、この子達は転校生になるんだよね。
 夏休みが明けて学校が始まったら、友達がいっぱいできるといいね。
 友達ができたら、わたしの役目も終わりかな?


 夕方になっても鳴き止まないセミの声を聴きながら、わたし達は家へと帰った。
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