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第25話 コンドームを求めて

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「ウゥル―――!」

 店に入るや否や、入口付近で待ち構えていたアマンダに抱きつかれる。
 俺は抱き止めるフリをしながらさり気なく尻を揉んだ。

 もみもみ。
 柔らかい。
 それにとてもいい匂いがする。女の子の匂いだ。

「ウゥルがくれたコンドーム、お店のみんなにもかなり評判いいよ!」

 目が嬉しくてたまらないというようにキラキラ光るアマンダ。そんな彼女の今日の恰好は、うさ耳カチューシャが愛らしいバニーガール。

 どうやら今日の『オナホル』はうさちゃんデーらしい。

 店内にはオーソドックスなハイレグカットな網タイツバニーガールから、ワンピース風なバニーガール、ビスチェにボリューミーなフリルスカートが可愛らしいバニーガールまで、様々なバニーコーデを楽しむ事ができる。

 一見の価値あり! とはこの事だ。

 アマンダの全身をなめるように見て大きく頷く。

「そうか! たちの反応はどうだ?」
「うん! かなり良いみたいだよ! それでね――」

 甘えるような上目遣いのアマンダが、少し言いづらそうに口にする。

「コンドームを、もう少し分けてほしいの。ダメ、かな?」

 小鳥のように小首をかしげるアマンダ。店内のヴァルキュリアたちの視線が彼女に集まっている。
 どうやら、ここの嬢たちはコンドームが相当お気に召したらしい。

「それは構わないが――」

 アマンダの背後から、大人の色香をまとった妖艶な女が近付いてくる。店内で唯一バニーガール衣装に袖を通していない女だ。

 絹のような美しい黄金色の髪を簪で結った女は、アマンダの背後で立ち止まり、こちらに向かって柔和な微笑みを浮かべた。

 目を瞠るほど鮮やかな色打掛に袖を通した、女狐である。

「バリエナ、彼がコンドームをくれたウゥルよ」

 バリエナと呼ばれた美しい女が深々と頭を下げる。その動きは洗練されており、とても彼女が娼婦だとは思えない。どちらかというと貴族、そう呼ばれる人種に近い雰囲気を感じる。

「アマンダからご紹介に預かりました通り、わっちはバリエナ。娼館ここの女主人でありんす」

 女の経営者。
 正直意外だった。
 こういう商売は普通、女は雇われるのみで経営に参加することはない。
 大体裏でマフィアな連中が糸を引いている場合がほとんどで、あくまで女は都合よく利用されるものなのだ。

「意外、という顔でありんすか?」
「うん、正直意外すぎてびっくりしてる。てっきり丸々太ったブ男が経営してると思っていたからな」

 袖口で口許を隠しながら笑うバリエナは、正直な方でありんすねと微笑んだ。

「で、俺になにか用か?」

 用件など一つしかないと分かっていながらも、俺はあえて白々しく口にする。

「不躾ではございますが、ウゥル様がお持ちになられたコンドームを、是非、お売り頂きたいのでありんす」

 やはり、コンドームか。

「立ち話もなんです、まずはお席にお通しするでありんす」

 バリエナの案内で店の奥の席についた俺は、とりあえずエールを注文する。アマンダにはバリエナとの話が終わるまで奥の控室で待っていてもらうことにした。

「話を戻すが、コンドームなら直に入手可能となる、しばらく待っているといい」

 届いたエールで突き出しの豆を喉の奥に流し込みながら、俺はあえて突き放すように言った。

「ええ、分かっております。しかし、わっちとしましては、直接ウゥル様から購入したいと思っているのでありんす」

 だろうな。
 仮に俺が大量のコンドームを毎月一人の商人に売るとする。当然そいつは一人で大量のコンドームを捌くことは不可能。そこで中間商人という形で仲買を入れることになる。
 そこからコンドームを購入するとなれば、俺が商人に直接売る価格よりも、遥かに高い単価でコンドームを購入することになる。

 店を切り盛りしている女主人としては、できるだけ安価でコンドームを仕入れたいはず。
 いずれコンドームはツツネ草に代わり、彼女たちにとって欠かせない商売道具になる。ゆえに大量のコンドームを1ギルでも安く仕入れたいと思うのは当然だ。

「店内を見ておくんなさいまし」

 言われて店内に首を巡らす。
 なるほど、バリエナが焦るわけだ。

「普段はここまで多くの商人方がやって来ることはないでありんす。彼らの目当ては摩訶不思議な避妊具の出処と、その交渉権でありんす」

 彼女の言葉通り、店内にいる商人らしき男たちの目が、猫のように鋭くこちらを見つめている。俺が見渡すと、慌ててそっぽを向いた。

「……交渉権か、だが残念。すでに交渉済みだ、と言ったら?」
「それはないでありんす」
「なぜ言いきれる?」
「もしもウゥル様が商人方とすでに商談を成立させていたら、わざわざアマンダに大量のコンドームを渡すことはなかったでありんす。ウゥル様は体よくわっちらを使い、商人方をこの店に呼び寄せたでありんす」

 それに、とバリエナは続ける。

「仮にウゥル様がどなたかとすでに商談を成立させていたのでしたら、やはりここまで商人がわっちの店に集まるのは不自然でありんす。商人の情報網は、バカにならないでありんす」
「よく分かった。で、俺がお前の店に直接コンドームを卸すメリットと、卸さなかった際のデメリットは?」

 落ち着いた様子で鷹揚と首を縦に振るバリエナは、ではまずはデメリットの方からと微笑む。

「デメリットは、ないでありんす」
「ない……?」
「ただ、ウゥル様は少なくとも、この辺りの商人については、あまり詳しくないとお見受けするでありんす」
「なぜそう思う?」
「この状況を作り出したからでありんす」

 俺に商人の伝があるのなら、わざわざこんなにまどろっこしいことをする必要はない。バリエナは暗にそう言っていた。

「なるほどな。悪くない読みだ」
「お褒めに預かり光栄でありんす」
「で、肝心のメリットの方は?」
「二つありやす」
「ほぉー、では一つずつ聞くとしよう」

 俺はエールに口をつけ、軽く喉を湿らせる。杯を置くのを確認したバリエナは、上品に指を一本立てた。

「時間の短縮でありんす」
「と、いうと?」
「わっちは魔族街ここで暮らし数十年、多くの商人方と関わり、まぐわって参りました。わっち以上にこの街で、商人としての腕を、人柄を知る者はいないでありんす」
「……」

 この時点で、俺の中では決まっていた。

 むしろ俺の真の目的はそこにあるのだから。
 俺を崇め奉るアーサー王国を築くにあたり、裏切ることのない優秀な商人は欠かせない。

 されど、いくら神といえども、その者の本質を見極めることは困難。
 人とは時に、神すらも欺き、意図も簡単に見捨てて乗り換える狡猾な生き物なのだから。

「二つ目は、いずれウゥル様のお国にわっちの店を出店するという確約でありんす。娼館のない国は、街は栄えないでありんす」
「……俺が国を築くと、なぜそう思う?」
夜の妖精王ティターニアが欲している中央の村からお越しになられたことも存じております。もちろん、クレア様がお認めになられたほどの武の才をお持ちなことも」
「……恐ろしいまでの情報網だな」
「娼婦の情報網は、ベッドの中からでありんす」

 ……あっ、ゴブトリオかッ!
 国家機密を嬢に漏らすとはなんという不始末。

 お気に入りのヴァルキュリアと談笑するゴブゾウ、ゴブヘイ、ゴブスケを睨みつけてやると、三匹は慌てて二階に逃げていく。

「いかがでありんす?」

 俺は残っていたエールを飲み干し、テーブルに杯を叩きつけた。

「交渉成立だな!」

 バリエナは上品に口許を押さえながら、喜んでいる。

「詳しい商談はまた後日」

 商人の方はと尋ねてくるバリエナに、俺はアマンダとのイチャイチャが終わるまで店内で待ってもらうよう伝える。

 それから控室で待機していたアマンダを呼んで来てもらい、二階の角部屋に移動した。
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