サザン・ホスピタル byうるかみるく

くるみあるく

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Part3 The year of 2000

Chapter_12.蜜月の日々(4)二人きりの夜

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At Los Angeles; December 1, from 6:00PM to 9:40PM PST, 2000. 
The narrator of this story is Tsutomu Uema.
**This episode is R15-rated.**このエピソードはR15指定です。

車に戻った僕の頭の中は、もう、ぐちゃぐちゃだった。
ずっとずっと抱き締めたかった人が、すぐ側にいる。理性とか常識とかモラルといった言葉で抑えられる限界を、僕はとっくに超えていたのだ。

アパートの近くにある大型スーパーで、夕食や多恵子の着替えなどを買い込むことにした。アメリカのスーパーマーケットはたいてい二十四時間営業で、日常用品から家庭雑貨、ちょっとした電化製品まで幅広く取り扱っている。
彼女が買い物している間に、まずインスタントカメラをプリントに出した。受け取りは明日の午前だ。まあいいだろう。
その後、僕は高鳴る心臓の鼓動を抑えながら、一目散にスーパーの一角にあるドラッグストアに向かった。今までの人生でも何度か経験してきたことのはずなのに、ストアの棚にまるで飾りもののようにおかれたカラフルなコンドームの数々を目にした瞬間、僕の目はチカチカしだし、どれを購入すればよいのかもう全然わからなくなった。やみくもにいくつか選んでカゴに放り込み、レジで紙袋に詰めてもらう。近くの化粧品コーナーで僕を見つけ、手を振って合図する多恵子の姿を目にしながら、僕は紙袋を手にそそくさと彼女の側へ戻った。

その日から、多恵子は僕のアパートに泊まった。
彼女がシャワーを使っている間に、僕はクリスマスツリーに掛かった電飾を残して部屋中の電気を消し、FMラジオのチューニングをジャズ専用局にあわせた。ジャズ風のクリスマスソングが流れていることを確認すると、小さく音を絞った。そして、どこからも邪魔が入らないように電話機のコードを壁から引っこ抜いた。

湯上りの彼女は、想像以上に色っぽかった。
「うわ、きれーい」
全身にバスタオルを巻きつけて佇む姿が、電飾の明かりのなかに浮かび上がる。僕は思わず咳払いをした。
「こっちおいで」
僕は多恵子をベッドサイドに呼び寄せ、右横に座らせた。無言の状態が続いた。
「えっと」
「あの」
僕らは同時に声を発し、再び黙り込んだ。電飾の光だけが楽しそうにチカチカ瞬いている。

何分か経った。僕は決心した。深呼吸をして、ぎこちなく、右手で彼女の左手を取った。
「多恵子」
必死で口を開き彼女の名を呼ぼうとしたが、ほとんど声にならず、かすれてしまう。
「ん?」
彼女の相槌に、もう心臓は凍りそうだ。手の震えが止まらない。

僕はゴクンと唾を飲み込み、勇気を振り絞って聞いた。
「覚悟は、いいか?」
「……うん」
頷く彼女を目にした時、僕の声はひっくり返った。
「こっち、おいで」
祈るような気持ちで左手を彼女に差し出し、握り締めた右手を軽く、引き寄せた。
彼女の体が、スローモーションのように、僕の胸へ倒れかかった。

静かに、両腕を彼女の背中へ回す。彼女が抵抗しないことを確認して、僕は腕の力を徐々に強めた。体中が震えた。全身から搾り出すように、声を出した。
「一生、大事にするから」
僕の胸で、彼女が微かに頷くのがわかった。僕は彼女を抱き締めた手を緩め、彼女の顔を起こして、ゆっくり自分の顔を近づけた。

唇をふさぎながら彼女の体を支え、ベッドに横たえた。彼女が初めてだということは、体の震えですぐわかった。だから、彼女の体の緊張をほぐしてやる必要があった。

大丈夫。ゆっくり、丁寧にやるから。僕に任せて。

耳元で語りかけながら、ゆで卵の薄皮を剥くように、時間をかけてゆっくりとバスタオルを取ってやる。手の動きを追いかけるように、一つ一つ、彼女の体にキスを落としていく。
キスに反応して、彼女の口からため息ともつかない声が漏れる。
その声が、僕の心をさらに熱くする。

怖がらなくてもいいよ。もっと声を出してもいいよ。
ちゃんと、君の全てを、受け止めてあげるから。

フィッシュから教わったとおり、指先で彼女の体をそっとなぞっていく。顎先から鎖骨、なだらかな胸を撫で上げ、腰から背中をすり抜けて、彼女自身へと。
彼女の体の感触を指先で感じながら、指先の動きをくちづけで追いかけながら、僕は全身を震わせむせび泣いた。
彼女とひとつになったとき、今まで味わったことのないような感動が、洪水のように僕の中に溢れ、僕の心を満たした。うれしくて、いとおしくて、彼女の身も心もすべて捉えたくて、僕は彼女の名前を何度も叫び、そして意識を失った。

すべてが終わったとき、僕の前には尊く気高い女性の姿があった。
まさにそれは、ボッチチェリの「ビーナスの誕生」に描かれた、貝殻の上に立つビーナスそのものだった。クリスマスの電飾の中にほのかに浮かび上がるその美しさに、僕はしばし言葉を忘れた。

これが、愛なんだろうか?

再び、自然と涙が溢れてきた。
泣きながら彼女の髪を撫で、そっとくちづけた。
もう、二度と、絶対に、離したくなかった。 ((5)へつづく)
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